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W・アーム・スープレックスさん

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将来の夢
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消滅、カンニングペーパー

13/01/28 コンテスト(テーマ):第二十四回 時空モノガタリ文学賞【 受験 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:3207

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 試験官はそのとき、前から三列目の机で試験用紙にむかっている男子受験生の手に、なにやら白い紙切れがひるがえるのをみた。
 カンニングペーパー。試験官は足早くその生徒に歩みよった。
 と、たしかにいま、彼の手の中にみえていた紙が、きゅうにパッと消えてなくなった。
 おやっと目をまるめた試験官は、しかしそれ以上どうすることもできずに、彼からはなれた。
 試験官は、試験場を見渡せる前の机に立つと、わざとのように窓のそとに目をやった。
 しかし彼の意識は、さっきの受験生一人にむけられていた。長年試験官をつとめていたせいで、右をみながら左をみるという、小器用なことができるようになっていた。
 いまも、しっかりと目の端は、あの受験生の一挙手一投足を観察していたのだ。
 するとまた、受験生の手もとに、白い紙切れがちらとみえた。あきらかに彼は、カンニングをしている。
 試験官は、彼のところまで一気にかけよっていった。
「きみ、その手の中にあるものを、みせたまえ」
 受験生は、両腕をこちらにさしのばした。手をひらき、さらに裏返しにしたが、なにも見当たらなかった。
 彼がわざわざ袖までまくりあげるのをみて、試験官は、
「もういい。時間をとらせたね。試験をつづけなさい」
 受験生は、平然として、問題用紙に目をおとした。
 試験官はそれからも、何度となく、あの受験生の手に、紙があらわれるのをみた。
 だが試験官はもう、行動をおこすことはなかった。たとえふたたび彼のところにいったとしても、彼がたくみにカンニングペーパーを隠してしまうことは目にみえていた。
     *     *    *    *    *    *
 試験はおわり、例の受験生が試験場から姿をあらわすのをまって、一人の男がちかづいてきた。
「きみ」
 受験生は、けげんそうに、深く帽子をかぶった相手をみつめた。
「試験場では、あざやかなお手並みを拝見したよ」
 帽子の下から、さっきの試験官の顔があらわれた。
「なんのことですか?」
 彼は目にみえて緊張した。
「―――きみはなんどもカンニングペーパーをとりだしては、また消してみせた。心配しなくてもいい。わたしはなにもきみを、どうこうするつもりはない」
 そういうと彼は、名刺入からとりだした一枚を、受験生にわたした。
『手品協会理事・神林芳郎』
 名刺にはそう書いてあった。
「わたしのもうひとつの肩書きなんだ。きみの見事な手さばきには、目をみはるものがある。何十年とつづけているプロのマジシャンでも、なかなかああはいかない」
 受験生も、ようやく腹が据わった様子だった。
「これのことですか」
 彼が手をひとふりすると、指のあいだに四角く切った紙があらわれた。そこに彼がふっと息を吐きかけると、一瞬にしてその紙は消えた。
「どのくらい、練習した?」
「一年ぐらいかな。大学の受験勉強のあいだにしたから、そんなに時間はとれなかったけど、試験に合格するためだとおもって、必死にやりました」
 それは暗に、カンニングのことをほのめかしていたが、試験官はただ声にださずに笑っただけだった。
「あってもらいたい人がいるんだ」 
 受験生が試験官につれられていったところは、近所の喫茶店だった。
 店にはいると受験生は、テーブルからこちらに手をふる人物をみて、あっとおどろいた。世界の舞台で活躍するマジシャン、ミスターハッテナだ。
 ハッテナは、多大な関心を目にやどして、受験生をながめた。
「彼から電話をもらって、百年にひとりの逸材がみつかったというから、すぐかけつけてきたよ」
 試験官は両者を紹介してから、
「ハッテナさんは、後継者をさがしておられるんだ。わたしの目にまちがいなければ、きみこそまさにそれにふさわしい。きみちょっと、さっきの技を、やってごらん」
 いわれるままに受験生は、手のひらにカンニングペーパーをとりだし、そして消した。
「ブラボー!」
 マジシャンは絶賛した。
「きまりだ。きみ、さっそくわたしが主催しているマジックスクールにきたまえ。きみならまちがいなく、世界の檜舞台に立てるマジシャンになるだろう」
「きゅうにそんなこといわれても………」
 当惑気味の受験生に、試験官はいった。
「せっかく先生がああおっしゃってくださっているんだ。きみ、あんな大学にはいるより、プロのマジシャンになって、世界に羽ばたくほうがずっとすばらしいじゃないか」
「マジックスクールに入試はないから、心配はいらんよ」
 ミスターハッテナが、冗談まじりにいった。
「試験があっても、彼ならなんなく、合格しますよ」
 と試験官が片目をつむってみせると、受験生もちょっぴり得意になって、なにもない手のひらにふたたびカンニングペーパーを、一瞬にして取り出してみせた。
 



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このストーリーに関するコメント

13/01/30 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。

面白いですねえ、彼は必死でこの技を習得したのではないのかしら。私はそう思います。というよりも、そう思いたいです。それは、受験というものが、独特な魔物のような時代だと考えるからです。

彼は、運よく天職?を見出されたんですね、人生、何が幸いするかわからないものです。だから面白いんでしょうけどね。(ニヤリ笑)

13/01/30 W・アーム・スープレックス

草藍さん、コメントありがとうございます。

受験のテーマを考えたとき、最初にカンニングが思い浮かびました。どうせやるなら鮮やかなカンニング(?)にしようと思い、それなら手品がいい、それも世界に羽ばたく………となって、この作品ができました。こんなことを考えることじたい、アウトローなのかもしれませんね。

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