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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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11光年でのプレゼント

19/03/03 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:6件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:337

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 ミサ隊員の顔が、妙にこわばっているのが気になった。
「無理もない」
  隊長のオクムラは、ひとりつぶやいた。
 ここは地球から11光年へだてた宇宙空間だった。我々惑星調査隊の搭乗する宇宙船はいま、いかなる人類も経験したことのない未知の領域にあるのだ。
 めざすは、赤色矮星の周囲をまわる惑星アルテミス。太陽系外で生物の生息する可能性のもっとも濃厚な惑星だった。生物学者のミサが、二日後に迫ったアルテミス着陸に賭ける期待はいかばかりなものか。
 ミサは内気な性格で、目立つことが大の苦手のうえ、引っ込み思案ときていた。いちずな研究とひたむきな探求心を担ってこの宇宙船にのりこみ、そしていよいよアルテミスに到着とあって、ハイテンションになるのはむしろ当然といえた。
 だが、それにしても、いまみるミサの緊張ぶりは、いささか度がすぎている。オクムラは他の女性隊員たちもつぶさに観察してみたが、彼女たちはみなリラックスしていて、ミサのような異常なまでの高ぶりをみせているものはひとりもいなかった。地質学者のモナにいたっては、惑星上に確認されている海で泳ぐのだといまからはしゃいでいる始末だった。
 限定された宇宙船での長期にわたる航行が、乗組員たちの心身におよぼす影響ははかりしれない。ましてリサのようなナイーブな神経の持ち主はなおさらだろう。かれらの心のバランスの崩れをいちはやく発見し、調整するのも隊長のつとめなのはいうまでもない。
 だからオクムラは、そんなミサを落ち着かせようとして、声をかけようとするのだが、なんどこころみてもなぜか彼女のほうから意識して離れてしまい、まったく取りつく島がなかった。何かよくないことが彼女の身の上におこっていなければいいのだが……。オクムラの懸念はつのるいっぽうだった。
 アルテミス到着一日前、オクムラは他の隊員たちといっしょに、巨大モニター画面がとらえた惑星に、くいいるようにみいっていた。
「地球とおなじに、水のある惑星というものは、青々と輝いて、目をみはるまでに美しいものだな」
 隊長の意見に、だれもが一様にうなずいた。それはまさに、生命のいる証しでもあったのだ。惑星同様みんなの顔が、こみあげる興奮に輝いている。オクムラはそのなかにミサがいないのに気づいた。
「ミサ隊員はどこだ」
「さっき、Bブロックのあたりを、ためらいがちに歩いていましたが」
 隊員のひとりが答えた。
「ためらいがち……」
 オクムラにとってそれいじょう気がかりな言葉はなかった。
 彼女の内面に異変がおこっているのはまちがいなさそうだ。アルテミス到着までに、なんとしても彼女を正常な精神状態にもどしてやらなければならない。
 ミサの身を心底気づかう彼は、モニター室にみんなを残してひとり、Bブロックにつづく通路にとびだした。
「ミサ」
 オクムラは大きな声でよびかけながら、Bブロックの入り口にやってきた。
 Bブロックは隊員たちの部屋がパーテーションで細かく区切られ、狭苦しいうえにごちゃごちゃしていて、さながら迷路のような場所だった。ミサがじぶんの部屋にいてくれたらと願うオクムラだったが、不安はあたって部屋はからっぽだった。それからもいくつもの部屋をたずねまくった彼が、失望とさらなる不安を抱えてBブロックから出ようとしたとき、背後から声をかけるものがあった。
「隊長、さがしましたわ」
 ふりかえったオクムラの目に、さがしもとめる張本人の姿がとびこんできた。
「ミサ」
「モニター室にいったら、あなたがこのブロックにいったと教えられて、急いでやってきました。あちこち探しまわって、やっとみつかってよかった」
 するとあの迷路のパーテーション内をふたり、闇雲に追いかけっこをしていたことがわかって、おもわずオクムラは苦笑した。
「きみがいつもと様子とちがうので、気になったものだから」
 彼のおもいやりをしって、ミサは目に感動をあらわした。
「隊長、あの……」
「なんだ、どうした。なんでもいってみろ」
 すると彼女はきゅうに黙りこみなんだかもじもじしはじめた。
 やっぱり、心に何らかの問題を抱えているようだ。オクムラは彼女を、包容力にみちたまなざしでみやった。
 そんな彼をみて、ミサもようやく決心がついたとみえ、やにわに隊服のポケットからなにやら取り出した。
「これを」
 それは包装した箱のようなもので、こちらに差し出すのを、オクムラが手を出しかねていると、ミサは息がかかるほど彼にあゆみよってきて、
「地球のわたしの国ではきょう、バレンタインデーといって、女性から好きな男性に、チョコレートをプレゼントする日なのです」
「あっそ」
 オクムラはそのとき、ミサからそそがれる愛にみちたまなざしをまともにうけとめて、彼女以上に恥ずかしそうに頬を赤らめた。


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このストーリーに関するコメント

19/03/06 雪野 降太

拝読しました。
地球から11光年先離れようと好意の伝え方は変わらないのだと思うとどこか壮大にも、一方で身近にも感じられる筋立てでした。未知の惑星で二人がどんな研究生活を送るのか空想したくなる作品でした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/03/06 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
11光年に向かう宇宙船にはたしてチョコレートを搭載しているかどうかは疑問ですが、愛の告白においては何年先でもおなじと思いました。

19/04/09 滝沢朱音

もう一作の「尊き贈り物」もそうですが、冒頭の一文のパワーがすごすぎて…さすがだなあと唸りました。
SF大作かと思わせる展開に、すっかりその気になって読み進めましたが、こういうラストとは思いもよらず…面白かったです!

19/04/10 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
11光年の宇宙だから、このような人間くさい行いは、光ってみえるのではないでしょうか。ロボットの時代になってもまだ、バレンタインデーがすたれることがないことを祈っています。ロボットの義理チョコなんて、すてきですね。

19/04/26 風宮 雅俊

最後の最後まで「おくりもの」を感じさせないのに、最後の三行で「なるほど、最初から最後までおくりものの話」と思わせるところが、名探偵の推理を聞いている様な感覚になりました。また、彼女の緊張状態を表すのに系外惑星探査を設定するスケール感に圧倒されました。

19/04/29 W・アーム・スープレックス

風宮さん、コメントありがとうございました。また返事が遅れ、失礼しました。
私自身もこういう、荒唐無稽なものが大好きで、ラストまでもってきてひっくりかえすことを生きがいにしています。邪道という人もいますが、邪道こそ私にとっての王道です。

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