W・アーム・スープレックスさん

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19/02/27 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:282

時空モノガタリからの選評

(審査員A)
「不幸の手紙」など、不幸が連鎖するアイテムのお話は耳馴染みがありますが、開けた人を幸せにする箱というアイデアは新鮮に感じました。ふたに手をかけただけで幸福感がこみあげてくるほどのパワーを持つ箱。中に何が入っているのか……面白かったです。気になったのは、嵐福三の名前が浮いている点。多くの人が箱をゆずってきた経過を示すだけなら、伝票に受け取り印がたくさん並んでいるという描写などでもよかったかもしれません。

(審査員B)
良かった点:『開けるまでもなく幸せ』の設定が実に見事。そして、主人公の性格が違和感なく変化し幸せを運ぶ訪問者になる・・・、とコメントを書いていて気づいたのは箱に憑依された不幸な話なのかもしれないと思った。何故なら「尊き贈り物」も「11光年でのプレゼント」も推理小説のようなトリックでどんでん返しがあったからだ。
気になる点:敢えて平仮名を使っていると思う箇所がありますが、ひらがなが続く事で読みづらくなっていると思う。「そんなこと、死んでも・・・」付近の会話、交互に台詞が並んでいるけど、どちらの台詞か見失ってしまう。訪問者から受け取ってしまう事で、主人公の性格が明示されるので、出だしの説明がなくても読者に伝わると思いました。

(審査員C)
冒頭を見るだけでも、主人公がいかに気の弱い不幸な男であることが分かります。突然の来訪者が、プレゼントしてくれた箱の中身は一体何なのか。嵐福三という不思議な男や語られない箱の来歴など、ちょっと謎を加えて、日常を非日常に変えてしまう展開が面白かったです。物欲は満たしてしまうと、すぐに飽きてしまうもの。我々の中にもよくある感情に気付かせつつ、主人公の取った選択が心地よい読後感を残す作品でした。
文体に独特の柔らかさがありますね。読みやすくするために、平易な漢字を適度にひらがなにする作家もいますが、「思う」と「おもう」が混ざっているので、ここは統一した方がいいと感じました。

(審査員D)
良かった点:奇妙さがとても魅力になっている作品だと思いました。タイトルをシンプルに「箱」としたところも、個人的には良かったと思います。
こうすると良くなると思う点:とても面白かったです。物語にも主人公にも謎が多く、そこが魅力なのですが、後半になっても謎が解ける様子もなく、読んでいて「スッキリ」しない部分があるなと思いました。中盤で台詞が多くなる部分があるのですが、台詞のみではなく、もう少しお互いの仕草だったり、どういう様子で話しをしているのか等の描写があれば良いのかなと感じました。

(審査員E)
ストレートにテーマと向き合っている作品である。理由も分からないが幸福になれる箱という設定がユニークである。箱の受け渡しを通して、主人公の境遇が次へと繋がれていく書き方も上手いと感じた。ただ、ラストの台詞はいきなり言うには不自然かと思われる。また、主人公の現在までの不幸や箱を開けたときの幸福感など全体的に描写が漠然としており、不幸からの解放のリアリティが伝わらず読者が共感できずに置いてきぼりにされてしまう印象を受ける。

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「こんにちは」
 訪問者は丁寧に挨拶すると、応対に出た月波等の顔を、まじまじと見つめた。
 等は、ヤバイと思った。
 この男が宗教、または保険の勧誘にきたのなら、どうして断ればいいのかいまから案じる彼だった。だが相手が両腕でしっかり抱えている四角い箱をみると、相手が勧誘ではなく、何かのセールス目的なのを察して、なおさらヤバイと思った。それが新興宗教なら自分は仏教の信者で通せばいいし保険なら、すでにはいっているといえばなんとか凌げる。セールス目的となると、はっきり断り切れない気の弱さが等にはあった。げんに彼の家の押し入れには、これまで意に反して購入してしまった数々の品がたくさん押し込まれていた。しかしきょうは絶対、買うまいぞ。
 相手は笑顔まじりに、
「勧誘でもセールスでもないので、安心してください」
 男は手にした箱を、等の足元に置いた。
「これを、あなたにさしあげたいのです」
 等は、上り口のマットのうえにおかれた30センチ四方の、薄い緑色の紙に包まれた箱をみおろした。贈り物らしく、ピンクのリボンがかけられている。
「なんですか、これ」
「この箱には、あなたを幸せにするものが詰められています」
「ですから、どんなものですか」
「開けてごらんになれば、おわかりと思いますが」
「いりません。もってかえってください」
「いまのあなたは、幸せですか」
 いきなりいわれて等はたじろいだ。幸せなどという言葉を耳にしたのは何年ぶり、いや、過去に一度でもあっただろうか。
「幸せとは程遠い人生です」
 つい本音が出てしまった。
「この箱には、そのあなたを幸せにするものがはいっているのです」
「ぼくを幸せにするものとは、何なんですか」
「それは私にはわかりません」
「わからないのに、どうしてぼくを幸せにすることができるといえるのです」
「開けてみれば、わかるはずです。この箱には開けた人を幸福にするものが詰められているのですから」
「あなたはどうして、開けなかったのです」
「私よりも、あなに幸せになってもらいたいとおもって」
「こんな箱、その気になったらだれだって、簡単にあけられるでしょうに」
 等は、箱のリボンに手をかけると、それをほどきにかかったが、途中であわてて手をとめた。
「どうしたのです」
「いえ、もしこれをあけてしまったら、返品不可だといわれてむりやり買わされたらたまらない」
「そんなこと、死んでもいいませんよ」
「あとで、ゆっくり開けることにします。――なんなら、おもちかえりになっても、結構ですが」
「わかりました。これはここに置いていきます。どうぞ、お幸せになってください」
 男は一枚の名刺を等にわたした。
 『嵐福三』の名と連絡先が明記されていた。うらをみるとそこにはびっしり人名と電話番号が書き込まれている。ざっと見ても三十人はいそうだった。
「それは、これまでその箱を手にしたものの結局、開けることなく、他人にゆずることにした人々の名前です。過去にはまだその何倍もの人がいます」
「だれもあけることなく、次から次と人の手にわたって、いま、ぼくのところにきたというのですか」
「そういうことです」
 嵐福三は、あとはもう何もいわずに、たちさっていった。等の目には彼の、なぜかうれし気な表情だけがいつまでも焼き付いていた。
 等はしばらくのあいだ、その場にたたずみ、箱をながめていた。奇妙なことに、この箱があけるものを幸せにしてくれるときいてから、じぶんがこれまでさんざんなめてきた数々の不幸がおもいだされた。
 開けてみて、何もなかったら、それはそれでいいじゃないか。これまでためらいつづけてきた連中の気持ちが知れなかった。等は、ふたたび箱を手にすると、包んである紙をはがしにかかった。あらわれたのはおちついた茶色の、しっかりしたつくりの木箱で、彼はその箱のふたに手をかけた。すると、箱を伝ってなんともいえない幸福感がこみあげてきて、これまでの不幸がたちまち消え去ってしまうのを覚えた。手をかけただけでこれだから、すっかりあけはなったらいったい、どんな至福の状態がえられるだろう……
 等は、ふたにかけた手を、しばらくためらったあげく、結局しめてしまった。
 この至福の気持ちを、ひとりじめする気にはどうしてもなれなかった。むしろだれか、じぶんより不幸な人にゆずればこそ、それこそが最高の幸福というものだろう。
 等はふたたび包みなおしてリボンをかけた箱を抱えて、家をでた。いまの彼からみれば、どの人間も不幸にみえた。だからたずねる先はどこでもよかった。彼はもよりの家の玄関のドアをノックした。
「どなた」
 みるからに不幸そうな顔の男があらわれた。
「さあどうぞ、幸せになってください」
 等は抱えていた箱を、相手にさしだした。


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このストーリーに関するコメント

19/03/05 雪野 降太

拝読しました。
『幸せとは程遠い人生』と語る主人公の変容ぶりと、それをもたらした箱の異質さが際立つ作品でした。また、箱の始まりを知るであろう『嵐福三』という人物も謎めいていて、奇妙さが残る読後感でした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/03/06 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
この作品のようなどこか頭やら尻尾やらわからないようなストーリーは、個人的には好きなのですが、往々にしてひとりよがりになりがちなのがネックです。コメントをいただき、こういう見方もあるのかと、少しは視野が広がりました。

19/04/28 木野 道々草

遅ればせながら拝読しました。私も、箱の中身が気になりながら読み進めました。きっと主人公は箱を開けると思っていたので、予想しない終わり方が面白かったです!

また、ラストで主人公が「幸せになってください」と言う場面は、少し意地悪な読み方をしました。主人公も、おそらく嵐福三も、そして三十人それ以上の人々も、結局はまず自分たちが箱を手にしなければ(幸福を感じなければ)、より不幸な他人について考えなかったかもしれない、などと思いました。箱は今後も開けられることはないのでしょうか。もしも誰かが開けたらどうなるのでしょうか。それを想像するのも楽しかったです。

19/04/29 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
箱をあけると、それこそ身も蓋もなくなってしまい、あけないことで保たれている曖昧さが、消えてなくなるのを私は恐れました。
過去何十人もの人々が、箱を手にして感じた幸福なら、あまりあけすけにしないほうがいいようにも思いました。私じしん、それがどんな幸福か、書き表しようがないと申しあげておきます。

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