1. トップページ
  2. 君に花を

文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

投稿済みの作品

0

君に花を

19/02/26 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:1件 文月めぐ 閲覧数:137

この作品を評価する

 あなたに贈ります、この花を

 水曜日の午後六時半。やはり今日も「あの人」はやってきた。
 スーツ姿でふわふわとパーマをかけた髪はハーフアップにくくっている。仕事終わりと見て間違いないだろう。
 彼女が買う花はいつも様々だ。カーネーションやガーベラ、ユリ。色も赤や黄、オレンジ、白と特に決まりはない。これは相当な花好きだろうと私は想像していた。私はこの人のことを勝手に「カスミソウさん」と呼んでいる。肌が白く、まとっている可憐な雰囲気がカスミソウを連想させたからだ。
 ある日、その「カスミソウさん」が土曜日にやってきた。一瞬、私はその人が「カスミソウさん」だとわからなかった。彼女がいつものスーツとは違い、淡いピンクのコートを羽織った私服姿だったからだ。彼女は何やら真剣にプリザーブドフラワーを見ている。いつもの生花はきっと自宅用だが、今日はプレゼント用に買いに来たのかもしれない。
「あの」
 その人を横目で観察していると、不意に声をかけられた。
「友人の結婚祝いに花を贈ろうと思っているんですけど、どんなのが良いと思いますか」
 こういうたぐいの質問はたまにある。しかし、私が直接知っている人ではない。好きな花もわからなければ、色も知らない。どんな部屋に住んでいるかによって、似合う花も変わってくる。だから私はこういう時、花言葉を基準に考える。
「花言葉ってご存知ですか」
「聞いたことはあるけど、あまり詳しくは知らないです」
 彼女は首をかしげながら続けた。「バラは愛情、とかですか?」
「そうですね。厳密にいえば、赤いバラが愛情です」
 私はそう言いながら、白いバラとブルースターを組み合わせたプリザーブドフラワーを手に取った。
「ブルースターの花言葉は『幸福な愛』、白いバラは『純潔』というような意味がありますから、ご友人に結婚祝いとして贈るのにはふさわしいかと思いますよ」
「じゃあ、これにします」彼女の表情がふわっと明るくなった。

 この日を境に、「カスミソウさん」はちょこちょこと私に話しかけてくるようになった。名前は山本美知子。毎週買う花は一人暮らしの自宅に飾っていること。仕事は事務職で、年齢は私と同じ二十八歳だということ。私の方もこの店を二年続けていることを伝えた。だんだんと彼女は声を出して笑うようになっていった。
 私が彼女に惹かれるのに、そう時間はかからなかった。
 二月十三日、水曜日。山本さんは姿を見せなかった。最近はインフルエンザが猛威を振るっている。体調でも崩したのだろうか、と気をもんでいると、次の日になってひょっこりと現れた。
「これ、やっぱり当日に渡したくて」
 そう言って差し出されたのは、白い紙袋だった。聞いたことのない店の名前が入っている。しかし、いくら鈍感な私でもわかる。今日はバレンタインデー。袋の中身はきっとチョコレートだ。
「ありがとうございます」
 私はそれを素直に受けとった。そして、「ちょっと待ってくださいね」と彼女に声をかけると、手近な花でブーケをつくった。赤いバラと、カスミソウを組み合わせたブーケを。
「昨日いらっしゃらなかったから、すこし心配していたのですが、元気そうでよかったです。ホワイトデーには早いですが、お返しをさせてください」
 以前の赤いバラの花言葉の話を彼女は覚えているだろうか。一瞬目を見開いて固まっていた彼女の表情はすぐにあふれんばかりの笑顔に変わった。頬が赤く染まった彼女はまるで真紅のバラのように華やかだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

19/03/04 雪野 降太

拝読しました。
花屋に通いつめる可憐な女性というキャラクターは古今を問わず魅力的ですね。自分のために自分が、誰かのために自分が、と花を買っていた彼女が、自分のために誰かが花を贈ってくれる瞬間を迎えることができたことはきっと幸せなことだったのだろうと感じました。
読ませていただいてありがとうございました。

ログイン