1. トップページ
  2. 尊き贈り物

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

2

尊き贈り物

19/02/24 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:6件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:327

この作品を評価する

 迎撃用ミサイルがついに発射されずにおわったのには、理由があった。
 宇宙のかなたから飛来したそれが、隕石などの自然の物体でないのはその造形的な輪郭をみれば明らかだった。ゆっくりと日本の上空にまでたっしたとき、まっさきに迎撃反対をとなえたのは、じつに仏教界だった。空からまいおりてくるそれは、地上のいかなる仏像よりも貴いお姿をしている――多くの高層たちのそれが一致した見解だった。
 新聞紙上に、テレビまたウェブに毎日のように紹介される写真をみれば、べつに僧でなくてもその物体からかもしだされる神聖なまでの印象に、だれもがおもわず目を細めたことだろう。
 その物体が都心の上空にしばらくととどまるのをみた人々は、だれいうともなく、迎撃反対の署名運動をはじめた。
 与一もそのひとりだった。彼はこれまで、およそ信仰とは縁のない生活を送ってきた。それどころか、通りすがりの人から金や時計を脅しとったり、また気にくわない奴がいると暗がりに引きずり込んで痛い目にあわせるという、まったくどうしょうもない人間だったのだ。
 その彼が、先日テレビに映し出されたくだんの物体をひとめみるなり、何かえもいえない感動に心をゆすぶられるとともに、これまでの悪行にみちた自分の人生にほとほといやけがさした。悔い改めるに遅くはないとばかり、これまではゆすりの対象でしかなかった通行人一人ひとりに、頭を下げて署名をもとめるようになったのだった。
 似たようなことは、全国にもおこっていた。与一のような世間からはみだしたものや、もっと重い罪をおかした面々までが、邪心をはなれておのずと謙虚な気持ちで空からおりてくるものをみまもるようになった。
 きわめてゆるやかな速度で、物体はいま地上数十メートルの高さにきていた。
 人々は着地点とおもわれる広場にあつまりだした。都心からはなれていないこともあってか、徒歩のものはもとより、バスや電車でくるもの、また車でくるものと、その数は日に日にふえていった。しかしだれ一人として、さきをあらそったり、無理な追いこしをしたりすることなくみな、粛々と行列をつくってやってきた。あの物体からうける威光にふれることで人々から、抜け駆けや先を争う気持ちはすっかりきえうせた模様で、むしろたがいにさきをゆずりあいながら一歩一歩、黙々とすすんでいた。
 やがて、物体はしずかに、広場の中央におりてきた。すでに夕暮れどきではあったが、その物体からはなたれる神々しい輝きは、周囲に集まった群衆の顔を、つぶさに照らしださずにおかなかった。
 それはある人の目には仏像にうつり、またべつのひとにはかれの信仰する神の姿をまとってみえた。
 世界各国でも、同様の現象がみられた。やはりそこでも物体は、時間をかけてゆっくりと、地上にまいおりてきた。日本の人々が仏や神の姿をそこにとらえたように、諸外国の人間たちもやはり、じぶんたちが信仰する神々の姿をそこにみてとり、多くの人々が感動に涙をながした。ことなる宗教が原因でこれまで対立をつづけてきた国々でも、物体がおりてきてからはもはや、争う気持ちをすててなかよく肩をくみあう光景があちこちでながめられた。
 人々はいま、真の信仰にめばえたようだった。地上におりたった物体――いつしか人々はこれを、ブッ・タ・イとよびならわすようになった――をみるために、巡礼と称する人々のながい行列がいまや世界各地にみうけられるようになった。
 与一もまた真の宗教心にめばえたひとりで、いまではその表情も以前にくらべると嘘のように神妙そのものになっていた。ブッ・タ・イがおりてきてからめっきり減少はしてもまだ、世間の片隅にちらばっている昔のじぶんのようなワルをみつけると、そのワルをブッ・タ・イのところにみちびいていっては悔い改めさせるのを喜びとしていた。
 ブッ・タ・イの正体が何かはいまだにだれにもわからなかったが、もしかしたら過去から現在にいたるまで争いが絶えたことのない地球をみかねた他の天体の崇高な生命体からの、尊い贈り物ではないのかと、だれもがおもい、また信じるようになっていた。
 ブッ・タ・イをまえにした人々は国籍や宗教や肌の色に関係なく、深々と頭をたれ、胸前で手をあわせた。
 世界は、もじどおり真の平和を獲得した――。
 と、だれもがおもったやさき、ブッ・タ・イがやってきたのとおなじ宇宙の方角から、こんどはとてつもなく巨大な宇宙船が姿をあらわした。そしてブッ・タ・イ同様、きわめてゆるやかに地球に接近していった。
 平和にみちた地上からはもちろんただの一基の迎撃ミサイルもとんでくることはなかった。
 宇宙船からはなたれた小艇は編隊をくみながら、慈悲と愛の心にめざめ、戦うことの無意味さをさとった人類のまつ地上めざして、悠然と侵略の降下をはじめた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

19/03/04 雪野 降太

拝読しました。
飛来した謎の物体が人々の心に平和と安寧をもたらすものの、その裏には策謀が巡らされていて……トロイの木馬のエピソードの現代版のようで興味深く読ませていただきました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/03/04 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
このような侵略をされたら、防ぎようがないなとおもいながら作品を作りました。現実にこんなエイリアンがいないことを願うばかりです。

19/04/09 滝沢朱音

冒頭のあざやかな一文に、一気に別世界へと心を持っていかれてしまいました!
世界中の人々が魅了される「ブッ・タ・イ」は、どんな姿をしているのだろうと思いをはせつつ…
「神」の後ろに侵略者がひかえていることが多いのは、いつの時代も同じかもしれませんね。
面白かったです。

19/04/10 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
俗に「ただほど怖いものはない」といいますが、宇宙の彼方から飛来した物体が無償の贈り物だということに、人類がはやく気づくべきだったのかもしれません。神の後ろに控える侵略者――いつの日も、うまい話には要注意ですね。

19/04/26 風宮 雅俊

国内の平和が続いたが故に、僅かな侵略者に滅ぼされた国の多さは歴史が証明している。良い形の教訓にしたと読み終えました。
しかし、読んでいる途中では、これで人も社会も穏やかな生活が出来ると思いながら読んでいました。
シンプルな設定なのに とても奥が深い作品で感動するとともに 勉強になりました。

19/04/29 W・アーム・スープレックス

この作品も私にとって、いわばあつかいなれたテーマといえます。殺人光線による地球侵略か、人類を慈愛の精神にめざめさせての侵略か、どっちが得か考えてみようといったところです。愛がすべて――人類研究に余念のない異星人なら、おそらく人間のこのウィークポイントを巧みについてくるのではないでしょうか。

ログイン