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弾ける笑顔の埠頭にて

19/02/18 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:1件 mokugyo 閲覧数:162

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映画館の前で、弾けるような笑顔で君が待っていたんだ。

残念だったよ。水も弾くと言われるその肌がゆるむのを見て、僕の決心が鈍るからだ。

僕は、君を殺さなければならない。その使命を全うする為に君に近づいたんだ。だから、くだらない映画を一緒に観て夕食を食べたら、隙をうかがって君をハジキで撃ちぬいて死体を弾町一丁目に持っていかなければならないんだ。

だから頼むよ、そんなに弾けるような笑顔で僕の心を乱さないで欲しい。

カウンターで大男がポップコーンを作っている様子を楽しそうに眺めている君。思わず財布を取り出したよ。あんまり食べたそうにしているもんだからさ。

「ポップコーンって、弾けるトウモロコシっていう意味なんだって。知ってた?」

ポップコーンをほおばりながら君がそんなくだらない質問を笑顔で投げかけてくるから、僕の心はポップコーン以上にかき乱される。ああ、死へ向かう最後の数時間に残す言葉がそんな発言でいいのか。

「知ってるよ。ついでに映画館でポップコーンを売るのは、喉がかわいてドリンクも買ってもらえるから。映画館の大切な収入源なんだ」

僕はそんな空虚な返答しかできなかったよね。そんな気の抜けた返答ですら、君は楽しそうに笑ってくれるんだ。ああ、殺す決心がにぶるよなあ。

映画は、おはじきサッカーに青春をかける学生の話だった。おはじきサッカーなるものが存在することもはじめて知ったよ。ちゃんとサッカーのようなルールがあり世界大会まで存在する。

君は楽しそうに画面に集中していたよね。僕は映画が進んでいる間もどのタイミングで君を殺すかばかり考えていたのに。

映画館を出てから、洒落たレストランに寄るんだけれど、君はそこでも終始楽しそうに笑っていたよね。何がそんなに楽しいのかと思うほどに。

僕が飲んだコーラの炭酸よりも数倍は弾けていたと思う。

「私は笑顔を心掛けているの。常に笑顔でいれば心が弾むから。どんなにつらいことや悲しいことがあっても乗り越えられるんだ」

ああ、なんとまあ前向きで美しいことを言ってくれるんだ、君は。そんな君をどのタイミングで殺そうか、僕はずっとドキドキしているのに。心が弾けそうなくらい緊張しているのをポーカーフェイスで隠すことしかできないんだ。

レストランから出たら夜の港を歩く。港から見る夜景が綺麗なんだ。夜の海ならちょうどいい。死体を隠すにはもってこいの闇だ。

「夜の海って良いよね。夜景が綺麗で素敵」

ああ最後の言葉としてとても素敵だよ。僕は海を眺める君の背後に立ち、ハジキを構えた。

「ねえ。今後ろに立ってるでしょ」

「そうだよ」

ちょうど引き金を引くところだよ。

「弾は出ないんだ。さっき取り出したから」

振り返りもしないで君がそんなことを言うもんだから、僕はあせって引き金を引いたよ。当然、弾は出てこない。

「ごめんね。あなたのような三流の殺し屋さんに殺されるような女じゃないんだ。私も殺し屋の家系だから」

彼女がそう言って振り向いたのが合図だったらしく、船の影からぞろぞろと銃を持った黒服の男達が4人ほど出てきたよ。

やられた。僕は君の笑顔に完全に騙されていたんだ。

「このままあなたを蜂の巣にしてもいいんだけど、それじゃあつまらないから弾けてみせて!」

彼女がそう言うと、黒服の男達が次々と僕の足元めがけて撃ってくるんだ。僕は必死にみじめなステップで弾をよけるしかない。ああ、こんな情けない弾けるダンスの披露で、君がまた楽しそうに笑うんだ。情けないったらないよね。

「うん、よく弾けてるよ!カワイイ!じゃあ、そろそろ死のうか?」

彼女は笑いながらそういうことを平気で言えるんだ。さすが、殺し屋の家系は違うな。僕のような駆け出しとは弾け方が段違いだ。

僕は死を覚悟した。

だが次の瞬間、目に入った光景は大男が次々と黒服をなぎ倒していく光景だった。

僕も彼女も突然の光景に驚くばかり。

「映画館からずっと見張ってました。警察です。はっはっは、僕は肉弾戦なら得意なんでね。さあ、みんな仲良く逮捕です!」

今日一番の弾ける笑顔を見せた大男の警察に手錠をかけられながら、僕も彼女も苦笑するしかなかったよね。

(終)


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このストーリーに関するコメント

19/03/01 雪野 降太

拝読しました。
『何がそんなに楽しいのかと思うほどに』、『終始楽しそうに笑ってい』る彼女の態度も、実際のところ主人公を歯牙にもかけていないことの表れかと思うと切ないお話でした。それにしても、殺し屋家業と繋がりのある、銃を所持した、4人の男を笑顔で制圧できる警察官は頼もしいですね。
読ませていただいてありがとうございました。

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