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鮎風 遊さん

この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 そのために、ひとり脳内で化学反応を起こし、投稿させてもらってます。 テーマに沿った個別物語の他に、いくつかのシリーズものをコツコツと書き続けさせてもらってます。 その主なシリーズものを紹介させてもらいます。  ☆❤☆❤☆ 新シリーズ 『ツイスミ不動産』 __ 2017.07.16よりスタートさせてもらいました。 カサリンとクワガタ野郎があなたが求める終の棲家を紹介いたします。  ☆❤☆❤☆ 『刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)』 __ 2017.05.21 ただ今、27話 __ 1話完結の2000文字推理小説です。この少ない文字数の中で、百目鬼刑事と部下の芹凛(せりりん)がいかに事件を解決していくか、その醍醐味を味わって頂ければ、光栄です。 これからも引き続き難しい事件に挑戦して参りますので、よろしくお願いします。  ☆❤☆❤☆ 『漢字一文字の旅』 __2017.04.04 ただ今、連載41__ 漢字にまつわるエッセイです。  ☆❤☆❤☆  『歴詩』 __歴史上の人物になりかわって、その波瀾万丈の生き様の思いを詩に綴らせてもらってます。 本作品については、フォト音(on)小説という形で、you tubeにもUPさせてもらってます。 詳細はこちらHPです。  ☆❤☆❤☆  http://ayukazeyuu.net/index.html  ☆❤☆❤☆                         よろしくお願いします。              

性別 男性
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昭和映画館の……

13/01/27 コンテスト(テーマ):【 映画館 】 コメント:8件 鮎風 遊 閲覧数:2957

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 帰宅途中、幸一は書籍のリサイクル・ショップにふらりと立ち寄った。特に買いたい本はないが、何か掘り出し物でもないかと店内をうろつく。そして奥の本棚まで来て、昭和時代の写真集が目に入った。
 幸一はそれを引っ張り出し、パラパラとページを繰る。そしてその中の一枚の写真、それに目が釘付けとなる。
 セピア色の歪んだ三角形の屋根が三つ並んでる。きっと実際の色合いもくすんでいたに違いない。そんな安普請(やすぶしん)の館(やかた)、「昭和映画館」という看板を掲げている。その前には上映作品を知らせる数本の旗が無造作に立っている。まさに昭和30年代の映画館だ。

 幸一が育った田舎町にも同じような映画館があった。そして「喜びも悲しみも幾年月」という映画を、母の膝の上で観たことを微かに憶えている。こんなことが蘇り、この写真の情景に懐かしさが込み上げてくる。
 しかし、ノスタルジックな感情より、もっとこの風景の中に興味を引くものがあった。それは年端も行かない女の子だ。多分母親なのだろう、和服姿の女性が横に並んでいる。
 少女は手を繋いでもらい、きっと楽しいのだろう、スキップを踏んでるようにも見える。そんな母と娘が映画館へと入場する後ろからのショットだ。
 だが幸一はルーペを使ってでも拡大し、確かめたい。まるでイカ墨を引き延ばしたような色調、つまりモノクロ世界に、ケシ粒ほどの朱がポツンと浮き上がってる。幸一はその一点に焦点を合わせる。
 それは確かに、少女の髪の毛に着けられた赤いリボンだ。蝶々の形をしている。こう識別できた幸一、思わず言葉を発してしまう。
「まったく同じ蝶々の赤いリボン。この女の子って絶対に、この間、映画館で見かけた子だよ」
 実に奇妙なことだが、幸一はこう確信した。

 そう、あれは晴れた休日のことだった。単身赴任中の幸一は時間を持て余していた。たまには映画でもと、昼過ぎから町の映画館へと出掛けた。稀のことだが、昭和の映画が特集で組まれていた。もちろんその中に「喜びも悲しみも幾年月」があった。
「かって母が喜々として観た映画、それって、一体どんなんだったんだろうか?」と急に興味が湧き、チケットを買った。開演時間に合わせ入場してみると、案の定空席だらけ。こんな天気の良い日にシネマなんて、その上に作品が古過ぎる。
 しかし、幸一にとって、そんなことはどうでも良いことだ。少し後方に席を取り、まずはリラックス。しばらくしてブーと鈍いブザーが鳴り、館内が暗くなった。

 半世紀以上前に公開された映画だが、俳優が話す言葉は現代と変わらない。またストーリーも面白い。幸一は引き込まれながら、あらためて母はこんな映画を観ていたのかと熱いものが込み上げてくる。そんな感傷にも浸っている時に、ぱっと明るいシーンに移った。その瞬間に、幸一は目にしたのだ、最前列の席にぽつりと座る少女を。
「あれっ、女の子が一人、なんで? 始まる時にはいなかったのに」
 幸一は首を傾げ、次の明るい場面を待った。そしてもう一度目を懲らしてみると、確かに小学生くらいの女の子だ。きっと母親に着けてもらったのだろう、蝶々の形をした真っ赤なリボン、それでおしゃれをしている。
 それを可愛いと思う反面、女の子が一人、なぜ? と理解に苦しむ。
 こんな腑に落ちない状態で映画は終了し、館内は明るくなった。
「えっ、あの子がいない。どこへ行ってしまったのだろう?」
 真っ赤なリボンを着けた女の子が最前列の席から、いや映画館から消えていたのだ。

 幸一はその時以来、少女のことがずっと気になっていた。そして今日、偶然にも、昭和時代の写真集の中に……発見!
 母親と手を繋ぎ、スキップを踏み映画館へと入って行く、……。
 ついこの間、映画館で消えた、赤いリボンを着けたあの女の子が……そこにいたのだ。

 幸一はもう不思議でたまらない。早速写真集を購入し、映画館へと走った。そして事務員に訊く。
「ああ、この写真の子ね、時々来てますよ。多分、辛いことでもあったのでしょうね、お母さんとの思い出に浸りに来るんですよ」
 事務員は淡々とこう答えた。だが幸一はそれだけでは納得できず、「どこから来て、どこへ帰るのですか?」と尋ねた。
「さあ、私もわかりません。お客さん、もうこれ以上は……、そっとしておいてやって欲しいのです」
 幸一はなんとなく事情がわかってきたような気がする。それを見てとったのか、事務員が続ける。
「もう一つ、絶対に少女の前に立ってやらないでください。顔を見られるのが、あの子、一番嫌がりますから」
 幸一はこれで理解できた。そして思わず口走ってしまう。
「えっ、それって、髑髏(どくろ)?」と。
 これに事務員は人差し指を口にあて、囁く。

「昭和映画館の……ヒ・ミ・ツです。 シーーー!」


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このストーリーに関するコメント

13/01/27 草愛やし美

鮎風遊さん、拝読しました。

いわく有り気な少女、その秘密は……、怖いというより、物悲しい思いになりました。昭和映画館という舞台設定がそう感じさせるのでしょう。

「喜びも悲しみも幾歳月」懐かしい映画ですね。昔、テーマ曲を口ずさみました、〜〜♪おいら岬の灯台守は〜〜♪妻と二人で……そこからは、よく覚えていませんが、力強い歌だったのを記憶しています。

灯台の灯は今では、自動化されているようですが、日々人力でやっていた時代は嵐の日など大変だったでしょうね。昔――昭和のこの時代は、人々は貧しく、苦労の時代にありました。だから、この少女の生い立ちを憂います。切符もぎりの人が、黙認しているその経緯が、悲しいですね。

13/01/28 笹峰霧子

昭和の懐かしい映画館のお話を共有しながら読み進めていくうちに、ミステリアスな内容につい引き込まれ、最後は謎のまますっと終わる展開は、私の好きな松本清張のミステリーにも似てお見事と言わざるを得ません。

文字配列も読みやすくて楽に読めるのでいいなあと、参考になりました。

13/01/28 そらの珊瑚

鮎風遊さん、拝読しました。

ノスタルジーあふれる昭和映画館には、幸せだった生きていた頃を求めて
こんな風に出入りしているお客さんがいるのかもしれませんね。
そっとしておいてあげましょう。
それにしてもこのような古い映画を上映するような映画館がどんどんと廃館して、
シネコンばかりになっていくのはさみしいものです。

13/01/28 泡沫恋歌

鮎風さん、拝読しました。

昭和映画館を彷徨う少女ってミステリアスな存在ですね。
きっと「喜びも悲しみも幾年月」いう映画に憑いてる霊かも知れない。

もしかしたら昭和映画館でお母さんを探しているのか、待っているのかなあ?

なんとも不思議なお話で面白く読ませて頂きました。

13/02/05 鮎風 遊

草藍さん

コメ、ありがとうございます。

昭和の臭いです。
書いていて、どんどん懐かしくなってきました。

13/02/05 鮎風 遊

笹峰霧子さん

ありがとうございます。

ミステリーです。
そこに哀愁が漂えばと思い、書かせてもらいました。

13/02/05 鮎風 遊

そらの珊瑚さん

そうですね、そっとしておいてやりたいです。

なにか映画館に今もこんな少女が出入りしているような気がしてます。

13/02/05 鮎風 遊

泡沫恋歌さん

ありがとうございます。

多分、少女は母を探しているのでしょうか。
それとも見えない母と一緒だったりして。

「少女」、ミステリーにはいい響きです。

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