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ぐりのぐりこさん

物書きのお仕事をする中で、自創作の時間が取れなくなり迷走中。 それでもやっぱり書くことが大好きだなと実感する日々です。 自分の文体を思い出し、取り戻すためにぽちぽち投稿出来たらいいなと思っています。

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感情☆ドロップ

19/02/18 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:1件 ぐりのぐりこ 閲覧数:155

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粉々に砕けた。破片が散った。彼女が叫んだ。
「ことばになんてできるわけないじゃんっっ」
私の頭の中で彼女のことばがぐるぐると駆け巡る。
ことば、コトバ、言葉、言羽、言刃、言破……。
ああ、そうかこれが――。
「」「」「」「」「」「」「」「」「」「」
目の前の無数の色に取り込まれる。
「うん、そうだね」

この曖昧な関係にことばなどいらない。
この明瞭な感情にことばなどいらない。

私は黙って彼女の唇を奪った。
私の中のドロップがまた一つ弾けた。

***

『感情は目に見えない』というけれど、ちょうど一か月前くらいから私は人の感情が目に見えるようになった。目に見えると言っても、その人が今現在どんな感情なのかというものは分からない。心の中である人物に対して抱えている感情が膨らんで、膨らんで、『その感情が弾ける瞬間』というものが見えるようになったというのが正しい。
それぞれの感情には独特の色があって、一週間も区別がつくようになった。使い道のなさそうな能力だけど、代わり映えのしない日常は色付き、ちょっとした刺激にはなる。私はこの不思議な現象に『感情ドロップ』と名付けた。
例えば、あそこに座っている前から二番目の女子。あの子はさっき授業中に先生に当てられた瞬間、先生に対して『驚き』の感情ドロップを弾けさせた。突然のことだったから、飴玉みたいに小さなドロップだった。それから、後ろから三番目、右から五番目の男子。どうやら部活の奴らと喧嘩をしたみたいで先ほどから何度も斜め前の男子を睨みながら、サッカーボールくらいの『怒り』のドロップをぷくぷくと弾けさせている。日常生活の中で、みんなそれぞれ思い想いの感情ドロップを絶えず誰かに弾けさせていた。
そんな中で、唯一感情ドロップを一度も弾けさせない子がいた。それは、私の大親友……だと私が勝手に思っている子。というのも彼女の感情は全く読めないし、弾けもしないから最近『親友』であることに自信を無くしつつある。一番私が見たいと思っている感情ドロップの対象なのに。もともと表情もあまり豊かではない方だし、感情の起伏もほとんどない子だけれど、それでも、彼女にだって感情はあるはずだ。親友である私に対しては、少しくらい感情を持ってくれていると思ってる。
それから私は、好奇心の赴くままに彼女の感情を弾けさせようと努力を続けた。その輝きが見たくて。その色を知りたくて。その感情が気になって。誰か他の子が私よりも先に彼女のドロップを弾けさせるのもなんだか癪だったから、ずっと彼女の傍にいた。
ある日はわざと怒らせるようなことを言った。また別の日には彼女の好きなものをプレゼントしてみた。それからも色々試してみたが、彼女の感情は一向に弾けなかった。私が何をしても、何を言っても。
そこから、私の中に一つの結論が浮かび上がってきた。彼女は……私に無関心なのかもしれない、と。いや、私だけじゃなく、私以外の人にも。
あー、そうか。彼女にとって私は感情を向けられる対象でさえもないんだ。どんな感情でもいいから、私に向けてよ。それが怒りでも悲しみでも軽蔑でも、どんな負の感情でもいいから。本当に親友だと思っていたのは私だけだったのかな。こんなもの見えなかったらよかったのに、と初めてこの無意味な能力を呪った。ただ、私に少しでも感情を持ってもらいたいだけだった。私には『怒り』という感情さえも抱いてくれないのか、彼女は。
「あのね、私、最近感情見えるの」
「ん……?何それ」
「溜まった感情が弾ける瞬間が」
「ちょっと意味が分からないんだけど……」
うん、分かっている。それが普通の反応だ。私だって自分で何を言っているのか分からない。それでも止めることが出来なくて、自分の感情を、彼女に向けていた感情を、弾けさせながら言葉を続けた。カラフルで金平糖みたいな数えきれない感情ドロップを。
「私ね、ずっと貴女のこと親友だと思ってたの。なのに、なんでどんな感情も私に抱いてくれないの?」
その瞬間だった。彼女は目を見開き、私の方へ一歩近づいて来た。
「何言ってんの?私だってあんたがどんな感情を私に持ってるか全然分かんないんだもんっ!ずっと……××だったのに」
その言葉と同時に今まで見たことないような大きさの感情ドロップが彼女の頭上に現れ、弾けた。彼女の中に留められていた感情が一斉に弾けた。今まで見たこともない色。私に向けられていた、無数の感情。言葉の最後は、感情ドロップが弾ける音が大きすぎて聞き取れなかった。

「ずっと、ずっと、隠し続けようと思ってたのに」

***

「だって、言葉になんてできるわけないじゃん。この感情を認めるわけにも」

「うん、そうだね」

口に含んでいた檸檬味のドロップを噛んだ。
彼女の口の中で、そっと。


<終>


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このストーリーに関するコメント

19/03/01 雪野 降太

拝読しました。
自分に少しでも関心を持ってほしいと空回りする主人公でしたが、それでも疎遠にならないでいてくれた『彼女』はきっと親友であったのでしょう。他者の感情が目に見えるだけでなく、自分の感情も視覚化できるあたり、主人公はきっと自分をきちんと掴んでおられるのだろうなと思いました。
読ませていただいてありがとうございました。

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