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糸井翼さん

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夏よ終わらないで

19/02/18 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:1件 糸井翼 閲覧数:83

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「ねー、七瀬はそれでいいの?」
友だちは怖い顔をして私を見る。
「あの山田くんと二人でアイスを食べてたんでしょ」
「山田くんは幼なじみだから」
私は笑ってごまかす。この手の話題はあまり好きじゃない。山田くんにも失礼だから。
「山田くんが他の女に盗られていいの、ねえ」
「別に私のものじゃないでしょ、もー」
山田くんは幼なじみであり、私なんかにも優しくて、かっこいい憧れの人…なんかちょっと切ないな。
「見られてたの気づかなかったな…」

山田くんとたまたま帰るタイミングが同じだったので、一緒に帰った。同じ高校でもクラスは違うと意外と時間も合わない。
「もうすぐ夏休みだね。七の予定は?」
私のことを「七」と呼ぶのは高校では山田くんだけだ。幼稚園の頃からのニックネーム。山田くんに「七」と言われると体温が上がる。
「えー、何もないです。山田くんは?」
「俺も特にないな」
話が微妙な感じで終わった。山田くんはクールだけど、クールすぎて話を続けようとしないところがある。
話題を探そうときょろきょろしていると、カフェの期間限定メニューが目に入る。
「コットンスノーアイス」
「え」
「食べて行こう、美味しそう」
山田くんは甘いものが小さい頃から好きで、クールな顔のままだけど、美味しそうに食べるその顔を見てるこの時間は私にも幸せだった。
「幸せそうですね…」
かっこいい顔に見とれながら無意識に呟いた。
「うん、幸せ」
こんな時間がずっと続けばいいのに。私がアイスと一緒に買った冷たい紅茶のコップはもうびちょびちょだ。

これは恋かな?そう自分の胸に聞く。すぐに、違う、ともう一人の私の声がする。
私は優しくてかっこいい山田くんのファンにすぎない。この「好き」はそういう「好き」じゃない。
それに、誰に対してもかっこいい山田くんにとっては私はたくさんのファンの一人にすぎない。こうして幼なじみという立場を利用して一緒にいられる。それだけで良い。この時間を純粋に楽しみたい。

夏休みに地元の川で花火がある。いつも花火は自宅マンションで見ていたけど、山田くんに誘われたので河川敷に行った。
山田くんに浴衣を披露するのは5年ぶりくらいでちょっと恥ずかしい。
河川敷にはたくさんの人がいて、少しくらくらする。いつから場所取りしてくれていたのか、山田くんが良い席を準備していた。
「大変だったでしょう、場所取り」
「いやいや。きれいな花火のためだ」
山田くんは相変わらずクールで優しい。

ドーン…
大きな花火が弾ける。花火をこんなに近くで見たのは初めてだ。この町も捨てたもんじゃないな。
山田くんの横顔をちらりと見た。ずっとこの時間が続いてほしい。終わらないでほしい。私たちの時間が、この関係が弾けませんように…

花火が終わって静かになった河川敷。
「七」
「んー?」
「浴衣良いね」
「やったー山田くんに誉められた」
「…彼氏とか、ほしいと思わない?」
少し驚いて山田くんを見た。いや、花火を見て私の気持ちが浮かれてるだけで、そういう質問じゃないよね。幼なじみとしてのトーク。自分に言い聞かせてにっこりする。
「えー、まだいいかな」
山田くん。私はこの関係が壊れないでほしいんだ。
山田くんはクールな顔のままだけど、少しがっかりしている、気がした。がっかりしてほしいと思ったのかもしれない。
「…そっか」
「山田くんは?引く手あまたですよね。モテモテで」
私はどんな答えを期待しているんだろう。
「そんなことないよ…俺もまだいいかな」

「花火を見ると夏も終わりって感じしますよね」
「確かに。花火ってすごいきれいだけどさ、終わってしまう切なさがまた良いよね。夏が弾けるというかさ」
「ごめん。高貴な方の考えることはわかんない」
私はずっとこのままでいたい。でも終わってしまうことはわかってる。だから愛おしい。
夏がもうすぐ終わる。もう少し、終わらないで。




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このストーリーに関するコメント

19/02/27 雪野 降太

拝読しました。
王道に感じられる高校生の青春で、各場面の切り替えが掴みやすい作品でした。現状維持を選択した主人公の判断が、『誰に対してもかっこいい山田くん』とのこれからの関係性のなかでどのように影響を及ぼしていくのか気になる結末でした。
読ませていただいてありがとうございました。

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