みやさん

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Frajile

19/02/18 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:2件 みや 閲覧数:73

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キッチンで朝食の用意をしていると、十三歳の息子が二階から降りてきた。
「おはよう、ノエルにごはんをあげてくれる?」
息子は私の言葉を無視して冷蔵庫から牛乳を取り出しコップに注いでいる。
「聞こえてるの?ノエルにごはんをあげてって言ってるでしょ」
息子は更に私の言葉を無視して牛乳をゴクゴクと飲み干した。
「聞こえてるんでしょ!」
私は怒りにまかせて息子を怒鳴った。
「…ごはん食べなくてもノエルは死なないだろ。気持ち悪い」
息子は冷静にそう言って学生鞄を持って玄関に向かって行った。
「朝ごはんは?ちゃんと食べないと」
「僕、死にたいから」
死んだ目で息子は呟いた。私の足元では犬のノエルが目をキラキラさせてくーん、とごはんをおねだりしていた。

息子が学校に行った後に、私は一人で朝食を食べながら子供の頃に実家で飼っていた犬のイヴの事を思い出していた。ノエルと同じ小型犬で、小さくてとても可愛らしかった。私はイヴの事が大好きで、だからこそイヴが死んでしまった時には心の底から悲しかった。

ダイニングのテーブルにはガーベラの花が綺麗に咲いている。私は三年前に交通事故で亡くなった夫の事も思い出していた。生前に夫はよく私に花のプレゼントをしてくれた。その花は決まってガーベラだった。何故かと聞くと薔薇だと照れ臭いし薔薇以外の花はガーベラしか知らないからと笑っていた。私はテーブルのガーベラの花びらにそっと触れた。決して枯れる事のないその花に。

「息子がノエルの事を気持ち悪いって言うのよ」
オフィスに着いた私はロッカールームで同僚の女性に愚痴を零した。
「確かに言われてみれば気持ち悪いかもね、だって死なないんだから」
「死なないって素晴らしい事じゃない?永遠に生きられるのよ?」
「永遠に生きられる事の素晴らしさに気付いてないんじゃない?まだ子供だから」
「気付いてないと言うよりは否定的な感じ。いつも冷めていて…自分の感情を爆発させる事がないの。今日は死にたいとまで言ってたわ」
「今の子供達は感情が希薄だって言われてるからね…死にたいなんて思うのは今だけよ。それよりついに始まるみたいよエタニティー・ライフ・プロジェクトの人体実験が」

枯れない花があったら、死なない犬や猫がいれば、悲しい思いや辛い思いをしなくて済むのにーそんな人類の思いは遺伝子の研究により今では現実になっていた。それがついに人体で試される事になったのだ。この実験が成功すれば、私は永遠に生きられる。永遠に息子の側に居て守ってあげる事が出来る、死んでしまった夫の分までー

仕事を終えて家に帰るとポストに二通の葉書が入っていて、二通共エタニティー・ライフ・プロジェクトからだった。一通目は私が人体実験の審査に通過した知らせだった。私は嬉しかった。これで私は永遠に息子の側に居る事が出来る…二通目の内容を見て私は驚いた。プロジェクトの動物実験に不具合があった様で、ノエルが死んでしまう可能性が発生してしまったので改良を勧めるという事だった。

「ノエル!」
私は慌てて玄関の扉を開けて叫んだ。するとノエルはワンワンと吠えて元気に部屋から飛び出して来た。
「良かった…死んじゃってなくて…良かった…」
私がノエルを抱きしめて玄関で泣いていると、息子がやって来て冷めた目で言い放った。
「馬鹿なんじゃないの、ノエルが死ぬわけないだろ」
「研究に不具合があって、死んでしまう可能性が発生したんだって。だから、もう一度改良してもらって…」
「いい加減にしろよ!」
いつも冷静な息子の感情が弾けた瞬間だった。

「死なない犬とか枯れない花とか本当気持ち悪い。気持ち悪いんだよ!なんなんだよ、可笑しいだろそんなの。永遠なんて、なんの価値もないだろ?永遠に美しいものに興味なんて湧かないし、永遠に可愛いものに愛情なんて感じないんだよ!命には限りがあるから尊いんじゃないのか?だからこそ大切に思えるんじゃないか!」
「だって、大切な人や犬が死んじゃったら悲しいし、あなただってお父さんが死んだ時悲しかったでしょ?」
「悲しかったに決まってるだろ!だけど、だからって永遠に死なない方が良いなんて絶対に思わない…死ぬ為に生きて、産まれる為に死ぬんだって学校の先生が言ってた」

息子の弾けた感情が私の胸に突き刺さる。いつか枯れてしまうから美しい、いつか死んでしまうから尊い、その事実から私は目を逸らしていた。息子がそっとノエルを抱き上げた。息子がノエルを抱くのを見るのは久しぶりだった。
「ノエルだって永遠に死なないなんて辛いよな、しんどいよな…いつか死にたくなる時がきっと来る」
ノエルは息子の頬をペロペロ舐めて、息子は嬉しそうに笑った。それを見て私はエタニティー・ライフプロジェクトからの二通の葉書を手の中で握り潰した。


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このストーリーに関するコメント

19/02/22 雪野 降太

拝読しました。
生死をコントロールするためには、きっと感情を越えていかなければならないのだろう、と感じさせる内容でした。死に純粋な恐怖を抱く主人公と、それを受け入れる息子の姿に個の自立を感じました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/03/18 みや

雪野 隆太 様

コメントありがとうございます。永遠は魅力的ですが、刹那にもまた同じ魅力があるはずだと思います。

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