R・ヒラサワさん

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19/02/18 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:4件 R・ヒラサワ 閲覧数:178

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 見覚えのある女の名で夫あての荷物が届いたのは、火曜日の夕方の事だった。アサミはその事が無ければ、今日が何の日か気付かなかった。夫であるタツヤの誕生日だ。
 結婚して九年目だった。お互い二度目で子供は居ない。日々を何となく過ごし、二人で出かける事も殆ど無くなった。それはタツヤが転職した事で、出費を抑える必要が出来たからだ。結婚して四年目の事だった。
 転職後、タツヤの仕事は順調だったが、以前ほど収入は見込めないし、昇給も期待できなかった。
 タツヤは女性を惹きつける魅力の持ち主ではない。しかし、賭け事や女性問題が無く、経済面と精神面の安定が再婚時の決め手だった。
 今は経済面が不安定になった。大事な要素の一つが欠けたのだ。この先、タツヤと一緒に居て大丈夫なのかと思う。
『空気の様な存在』。いい意味ではなく、悪い意味でタツヤはそれだった。アサミはタツヤから離れてゆく心を感じずにはいられなかった。
 アサミはパートに出ることにした。久々の勤めは順調だった。仕事を覚えるのが早いと褒められた。しかし一週間が過ぎた頃、周囲とのズレを感じ始めた。
 周りは同じような年頃の子供を持つ親ばかりで、共通の話題が無かった。子供が欲しかったアサミには辛い事だった。コミュニケーション不足は、居場所を徐々に狭くした。
「無理に勤めなくてもいいさ。俺が頑張って稼ぐから」
 タツヤの言葉を有り難いと思う反面、勤めに出た理由を考えると複雑だった。悩んだ結果パートを辞めた。
 アサミにとってタツヤの魅力は真面目さだけになった。少なくとも女性関係の問題は無い事を願った。しかし、最近になって女の影が見え始めたのである。
 女はタツヤの会社の客である。小さな会社を経営しているようだ。
「営業担当でもないあなたがどうしてその女と会わなきゃいけないの?」
「さあ、それは向こうが指名してくるそうだから……」
 何とも曖昧な返事だった。アサミが疑うのも無理はない。女とは既に二回も会っている。それも、夜の時間帯に二人きりでだ。
 その矢先に届いたのが女からの贈り物。しかもタツヤの誕生日に。
 アサミは女からの贈り物を睨みつけたまま、タツヤの帰りをじっと待った。
「ただいま」
 ほどなくしてタツヤが帰って来た。何故か、いつもよりも帰宅時間が早く、どこか様子が変だ。何かやましい事があるに違いない。
「それ、俺あての荷物かな?」
 まるで届くのを待っていたかの様、タツヤはそれを持って隣部屋へと消えていった。
 しばらくして戻ってきたタツヤは「先に風呂に入るよ」と、アサミの返事も聞かずに行ってしまった。
 隣部屋にはスーツが用意してあった。見たことのないネクタイも一緒だ。女からの贈り物はこれに違いない。滅多にスーツを着ないタツヤは、いつも早めに準備をする。シャツとネクタイをセットして。
 タツヤが風呂からあがるなり、アサミはネクタイの事を聞いた。
「ねえ、近々会議でもあるの? そこにあの女からもらったネクタイをつけて行くわけ?」
「ああ、そのつもりだけど。でも、俺が着る服に興味持つなんて珍しいね」
「そうじゃなくって、とにかくアレが嫌なのよ!」
 アサミは次の日、百貨店に来ていた。開店とほほ同時だった。
 女のネクタイは、それほど高い物ではない。経営者のくせにお金を渋るなんて、タツヤへの想いも知れたものだ。
 アサミはそれの三倍の値はするというブランドから、タツヤ好みのネクタイをじっくりと選んだ。お金に余裕も無いのに、何故こんな事をしているのか、自分でもよく分からなかった。
 アサミはその日の夕方、買ってきたネクタイと、手間をかけた料理をテーブルに並べ、タツヤの帰りを待った。
「あれ? どうしたの、これ」
 帰ってきたタツヤは、驚いて声を発した。
「あら、あなたの誕生日じゃない」
「え? 誕生日は昨日じゃ……」
「おめでたい事は後でも良いっていうじゃない? 一日長く生きたのよ。早く着替えて、ここに座ったら?」
 何年振りだろうか。こんな感じで声を掛けたのは。結婚当初は、こんなやり取りもあった筈だ。その日は久々にワインを開けた。
「あの女には、もう会わないで欲しいわ」
「わかったよ」
 タツヤはアサミの選んだネクタイで会議に出るそうだ。女からの贈り物はいつか処分してやろうとアサミが持っている。
 ゆったりとした時間が流れ、結婚当初に戻ったような気分になった。
『空気の様な存在』
 普段あまり意識しないが、無くてはならない大事なもの。アサミは改めてタツヤの事を想った。
 翌日、タツヤは例の女社長と一緒に居た。
「ねえ、どうだった? 私からの贈り物」
「お陰様で、上手くいきました。結婚当初のような感じです」
「でしょ? 女って他人に奪われると思うと、結構燃え上がる人が多いのよね」


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このストーリーに関するコメント

19/03/01 雪野 降太

拝読しました。
勤め先で共通の話題を持てる同僚がいないのはきっと辛かっただろうと感じました。二人が引き続き一緒に暮らしていける結末でホッとしました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/03/01 R・ヒラサワ

イト=サム・キニー 様

コメントいただき、ありがとうございます。
今回は「贈り物」によって可能な効果について考えてみました。結末は良い方向にと思っていたので。
上手く表現出来ていれば良いのですが。
読んでいただき、ありがとうございました。

19/04/09 滝沢朱音

『空気の様な存在』の夫に対する、妻の気持ちの変化がとてもわかりやすく、ラストのあざやかなオチにくすりと笑ってしまいました。嫉妬こそ愛のスパイスなのでしょうか。面白かったです!

19/04/09 R・ヒラサワ

滝沢朱音 様

コメントいただき、ありがとうございます。
嫉妬に関わる話をと思い、書いてみました。作中の内容、一部実体験があったり無かったり……、ですが。
上手くお伝えする事が出来た様で嬉しいです。
読んでいただき、どうもありがとうございます。

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