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霜月秋旻さん

しもづきあきぞらと申します。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

性別 男性
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万年筆は語る

19/02/18 コンテスト(テーマ):第166回 時空モノガタリ文学賞 【 おくりもの 】 ※時空作者による選考回 コメント:2件 霜月秋旻 閲覧数:330

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 書きたいものが無い。何も浮かんでこなくなった。スランプだ。
 書斎で毎日、空白の原稿用紙と睨み合いをしているが、私の右手に握られた万年筆の筆先は、原稿用紙に触れることなく、ただ、インクが乾いていく。時だけが過ぎていく。トイレに入ってる間も食事の間も、アニメを観ている間もアイデアがちっとも浮かんできやしない。それを毎日繰り返す。四年前までは、人気小説家として何作も書けていたはずなのに。
 小説家・掛川垣介としての人生に、ピリオドを打つときが来たのかもしれない。担当編集者にいくら急かされようと、何も文章が出てきやしない。いさぎよく、筆を折ろう。そう決意した。
 そんなある日、私宛に差出人不明の小包が届いた。消印は四月五日。包みを開けてみると、中身は一本の万年筆だった。木軸のもので、だいぶ使い古されている【モミジ】という品名だ。誰だ?私の小説のファンからか?と、私はその万年筆を握って原稿用紙に試し書きをしてみた。インクフローがよく、ぬらぬらとした書き味。試し書きのつもりが、書くのが楽しくて、気がついたら即席で短編を一本書いてしまっていた。四百字詰め原稿用紙五十枚ほどの物語だ。書き終えた後で読み返してみると、自分が書いたものとは思えないほど面白い文章。書いてる間の記憶があまり無いことに気付く。それほど集中していたということだろうか。
 それからまた私は、その万年筆で短編をいくつか書いた。いずれも書いたときの記憶がはっきりとしないが、自画自賛。文句なしに面白い。その短編を載せた短編集を発表すると、大反響を得た。そして波に乗り、私はその万年筆を使って次々と作品を書き、いずれも大ヒットさせた。
 しかし複雑な気分だ。大ヒットしている作品は私が書いているのは間違いないのだが、まるで自分の作品とは思えないのである。まるで誰かの意志で書いている、書かされているようで、それを自分の作品と呼んでもいいのだろうか。そんな疑問を感じつつも、私は万年筆を走らせ続けた。自分で考えた作品だったらどれだけ嬉しいことか。
 区切りがいいところで一息つこうと、机に万年筆を置こうとした時だった。万年筆は私の手を離れず、まるで私の手を操るかのように、原稿用紙に「告発文」と書いた。
「なんだ?告発文?なんのことだ?」
 それから更に万年筆は、私の手を操り文章を書き続けた。
「私、掛川垣介は罪を犯した…?四年前、私は…」
 それを読んでいくうち、私は血の気が引いていった。
「やめろ…」
 私は万年筆から手を離そうとした。しかしできない。万年筆が私の手から離れようとしない。書くのをやめない。止まらない。
「やめろ…やめろ…やめろおおおおおお!!」




「自殺…ですか?」
 小説家・掛川垣介の自宅前にパトカーが数台止まっている。遅れてきた警官が、現場に居合わせていた上司に尋ねた。すると上司は溜息をつきながら答えた。
「ああ。直筆の遺書も現場に遺されている。自分の万年筆を喉に突き刺したのさ」
「うわぁ…。しかし、なんでまた自殺なんて…」
「罪の意識からだろう。遺書に書いてあったよ」


 告発文
 私、掛川垣介は罪を犯した。
 九年前、私はゴーストライターを使って、小説家デビューした。そのゴーストライターの名は、山岸由華。彼女のお陰で、私は人気を得ることができた。しかし四年前、彼女と報酬について口論になり、ついには彼女を殺してしまった。幸い彼女は天涯孤独で一人暮らし。親しい友人もいなかった。彼女を捜そうとする者はいない。私は遠く離れた山奥に、彼女の死体を埋めた。この文を読んだ者にお願いしたい。彼女を解放してくれ。場所をここに記載する。〇〇県〇〇市〇〇町〇〇区〇丁目の〇



 それから数日後、掛川垣介氏が遺した告発文に記載されていた通り、山奥から白骨死体が発見された。それから彼女が住んでいたと思われる家を調べてみると、掛川垣介宛に何かを送ったと思われる伝票の控えが見つかった。消印は四月五日だった。


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このストーリーに関するコメント

19/03/01 雪野 降太

拝読しました。
手にするだけで湯水のごとく湧き上がる傑作の数々……魅惑的な万年筆の存在に物語に引き込まれました。『まるで自分の作品とは思えない』主人公にとって本当に『書きたいもの』が何であったのかがわかるラストも興味深かったです。
読ませていただいてありがとうございました。

19/04/09 滝沢朱音

小説をすらすら書ける万年筆かあ、本当にあったらいいなあ…とわくわくしたのも束の間、サスペンス風の展開に驚き、最後の消印の一文にゾッとしました。切れ味のよいお話で、面白かったです!

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