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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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エナジードリンク「弾ける」

19/02/18 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:1件 小高まあな 閲覧数:285

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 テンションをあげることが苦手だ。
 黄色い声を出すことができない。プレゼントは本当に嬉しいのに、他の子みたいな「嬉しい!」ってぴょんぴょん飛び跳ねるような反応ができない。サプライズに対応できなくて、相手を不愉快にさせてしまう。
 感情を弾けさせることが苦手なのだ。自分で言うのもどうかと思うが、私の中にはしっかりとした感情があるのに。情熱があるのに。それを、表に出せない。
 だからクールな人、なんて言われてしまう。違うのに。
 文化祭のクラスメイトの演奏には感動したし、誕生日プレゼントの髪飾りは本当に嬉しかった。体育祭だってうちのクラスが勝てばいいって思ってた。本当は打ち上げのカラオケに行きたい。でも、カラオケでも私は合いの手を入れるとか、そういうことはできない。だから、盛り下げるかなと思って行けないでいる。そしたらまた「うちらとは仲良くしたくないんだよ」なんて言われてしまう。
 違うのに。本当はもっとみんなと仲良くしたいのに。
 そんな悶々とした気持ちを抱えながら生きていたある日、ネットで変なものを見つけた。「弾ける」というエナジードリンクのモニターを募集しているという記事だ。
 普段だったらスルーするその記事に目を通したのは「あなたの感情を発散!」というコピーに気を取られたからだ。
 曰く、ストレスの多い現代社会。自分の感情をうまく表に出せない人も多いのでは? ハロウィンではしゃぐ若者を見て、眉をひそめる一方「自分もあんなパリピになれたら楽なのかも」なんて思ったことありませんか? 「弾ける」ではあなたの感情を解放します。とのこと。
 そんな飲み物一つで変わったら苦労しないわ、と思いつつも、無碍にはできない自分がいる。感想さえ書けばタダみたいだし、やってみようかな。そう思って、モニターに応募した。
 数週間後、「弾ける」が一本やってきた。イベント事の前にお飲みください、と書いてある。
 明後日は球技大会だ。いつもなんとなく盛り上がれないまま、しかし微妙に活躍してしまうというこのイベント。今回こそは楽しく過ごしたい! 飲むのはその日だ。
 球技大会の朝、「弾ける」を飲む。よくある栄養ドリンクの味がする。まずくもおいしくもない味。
 飲み終わったところで、別に何も変わらない。本当に効くのかなー? そう思いながら、学校に向かった。
 クラス対抗の球技大会。私が出るのはバスケだ。球技はそこそこ得意。
 試合前、円陣を組む。この儀式が、いまいち苦手だ。どうしたらいいか、わからないから。でも、
「がんばるぞー!」
「おー!」
 自分でもびっくりするぐらい、素直に「おー!」の言葉が口から飛び出した。隣にいた子がちょっと意外そうな顔で私を見る。
「今日、気合入っているね」
「まあね」
 ふふっと笑う。笑いながらも内心驚いてはいた。こんな対応、普段の私はしない。普段ならキョドるだけなのに。
 試合が始まる。先制点を取ったのは、相手チームだった。
「どんまいどんまい、切り替えていこー!」
 そう最初に言ったのは私だった。
 敵も味方も関係なしに、「え、まじで? あの子が?」みたいな顔で私を見ている。それは私だって同じだ。
 いつもなら思っていてもなかなか口に出せない励ましの言葉も、チームメイトを讃える言葉も、パスを要求する言葉も、素直に口からでてくる。びっくりするぐらい、滑らかに。
 結局、うちのクラスはバスケは準優勝で終わった。
「超気合はいってたね! すごい!」
「私勘違いしてたかもー、もっとお高くとまってるやな子かと思ってた」
「意外と熱いじゃーん」
「ってか、打ち上げいくっしょ?」
 クラスメイトの言葉に、もちろん! と今日の私は笑顔で頷く。
 お好み焼きをはしゃいで食べて、一時間カラオケに行く。いつもは曖昧な笑みを浮かべて手を叩くことしかできない私が合いの手をいれた。スムーズに。
 びっくりするぐらい私ははしゃいでいる。楽しい。嬉しい。
 でも、高揚した気分は家に帰るころには消えた。
「つっかれた」
 ベッドに倒れ込む。
 心臓がばくばくする。不必要なぐらいに。
 体が重い。何もしたくない。やる気がでない。
「エナジードリンクって、寿命の前借りっていうもんな」
 きっと私はテンションの前借りをしたのだ。元々ないのにこんなに使って、この先ちゃんと生きていけるだろうか。クラスメイトにどう思われるだろうか。
 目を閉じる。
 確かに今日はとても楽しかった。でも、どこかで無理をしている自分も感じた。気持ちをさらけ出すことが、考えを言葉にすることが、爽快であると同時にどこか苦痛だった。
 どうあがいても私はパリピにはなれない。私の中にある情熱を、見つけ出してくれる人がどこかにいればいいのにな。
 ぽろっとこぼれた涙を無視して、私は眠りにつく。


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このストーリーに関するコメント

19/02/21 雪野 降太

拝読しました。
面白かったです。楽しかったことを認めながらも、寿命を縮めるかのような動悸と疲労感に包まれる主人公の姿に圧倒されるほどのリアリティを感じました。オモテに出にくいだけで内奥では感情が渦を巻いている……他力本願なのかもしれませんが、そんな主人公の渦をすくい上げてくれる誰かを、わたしも願わずにはいられませんでした。
読ませていただいてありがとうございました。

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