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霜月秋旻さん

しもづきあきぞらと申します。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

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復讐の板チョコ

19/02/18 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:1件 霜月秋旻 閲覧数:290

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 この高校一のイケメン教師と言われている速水ともみち。職員室にある彼の机の上に、三十個はあるだろうチョコレートがこんもりと乗っかっている。それに比べて齢六十近い薄毛の私は一個も貰えなかった。教師生活三十年、生徒から一個たりとも貰ったことが無かった。逆に凄くないか?義理チョコすら貰えないんだぞ?と誰かに問いかけたいくらいだ。
「いやぁ参ったなぁ毎年毎年こんなに!おやおやぁ?温水先生、もしかして今年も収穫ゼロですか?可哀想に。なんなら僕が貰ったチョコ、好きなだけ持っていっていいですよ?ハハハ」
と速水。私の肩を満面の笑みでポンと叩きながら言った。屈辱である。
「い、いえ結構ですよ。くれた生徒に悪いじゃないですか。それより速水先生、今日、久々に呑みに行きませんか?おごりますよ」
「お!いいですねぇ!さすが温水先生太っ腹!!」
 速水は大きな白い紙袋を持参していた。大量にチョコを貰うのは毎年のことだからと予め予測していたのだろう。貰ったチョコを、工場の流れ作業員のような手つきでホイホイと入れていた。どれも貰った生徒の名前は書かれていないようだが、それぞれどの生徒から貰ったチョコなのかはたして覚えているのだろうか?

 その日の夜、僕と速水は、高校から少し離れたガールズバーで一緒に呑んだ。
「こんばんはぁ、トモカですぅ。先生、今日はバレンタインでしょ?はい、私からのプレゼント!」
「お!嬉しいなあ〜ありがとう」
 速水はそのトモカというホステスから貰ったチョコレートを、例の白い紙袋に仕舞おうとした。するとトモカは「待って!」とそれを制止した。
「先生、仕舞わないで今、ここで食べてよ。私の目の前で!私が食べさせてあげるから」
「食べさせてあげるって君ねぇ…」
「いいから!先生がちゃんと私の手作りチョコを食べてるところを見届けたいの!」
「そこまでいうなら、いいだろう」
 トモカはチョコレートの包みを開けた。中身は板チョコのようだ。
「さあ先生、思いっきりかじってくださいね。日頃、思春期の生徒の相手で疲れてるんでしょ?ストレス解消にバリッといってくださいよ。ほら、あーん」
 トモカは板チョコを速水の口元へ近づけた。
「あーん」
 速水は大きく口を開け、口元へ運ばれたその板チョコを思いっきりかじった。するとその瞬間、天井にむかって彼の口から白っぽい何かが数粒バチーンと弾け飛んだ。同時に彼の側に置かれていた白い紙袋に、赤い斑点が付着した。
「いぎあああああああああ!!?」
 天井に叩きつけられて床やテーブルに落ちてきたものは、速水の前歯だった。彼の口をみると、上の前歯が四本ほど無くなって血が吹き出てる。速水の悲鳴は勿論のこと、バーの他の客やホステスの悲鳴がこだまする。そんななかトモカだけ冷静な目で、痛みで苦しむ速水を眺めていた。
「どう先生?ハガネ板入りのチョコの噛み応えは?」
「は、はが…歯が…歯が…歯がねぇ…はがねぇえええええええ!!」


「これでいいのかい?」
「ええ、ありがとう温水先生。これで少しは気が晴れたわ」
 実は僕は速水をここに連れて来るよう、事前にトモカから頼まれていた。
「しかしなんでまた、ハガネ入りのチョコなんて彼にかじらせたんだ?」
「だってこの速水って男、一ヶ月前初めてこの店に来たとき、私にこう言ったのよ。『こんなブスが相手じゃあ話にならない、ほかのホステス呼んでくれ。こんな顔じゃあ全然話にならねぇぜぇ』ってね。それにムカついて整形して源氏名も変えて出直して、復讐したかったの。どう?今度は話になったでしょ?」
「ハナシになったな…」
 速水は怒り狂うのと共に、弾けた自分の前歯を店中必死に探し回っていた。四本のうち三本は見つかったようだが、最後の一本がなかなか見つからないらしい。見つけて持って帰ってどうするつもりだろう?
 先程彼の歯が弾け飛んだときに一本、彼の白い紙袋の中に入ったのを僕は見たが、知らんぷりしとこう。


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このストーリーに関するコメント

19/02/20 雪野 降太

拝読しました。
想像するだけで思わず自分の歯が痛くなるような内容でした。抱いた怨みを溜め込まずに、1か月で復讐してみせたトモカさんの行動力に頭が下がる思いです。
読ませていただいてありがとうございました。

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