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ドーンヒルさん

趣味は、読書,旅行,写真です。 主に、純文学系の作品を書きます。 よろしくお願いします。

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僕の恋は苦み100%

19/02/16 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:2件 ドーンヒル 閲覧数:176

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 三番ホームは折り返しの下り列車を待つ人でごった返していた。けたたましい警笛を鳴らして列車が入線してくると、待ち人たちはすぐさまドア付近に群がる。一歩先に行くことで、次の数十分が大きく変わる。片道一時間かけて上京する登紀子も例外ではなかった。金曜日の4限はよく分からないが長い。そのため、ホームにたどり着いた時、列車は既に到着していて、多くの乗客を抱えている。一本乗り過ごせば確実に座れるのだが、生真面目な登紀子は、いつもと同じ列車に乗らないと気が済まないらしい。発車まで残り一分となった。
「それじゃ、また来週会おうね!」
 登紀子は猫のように甘く囁いた。僕は、うん、と頷いた。
 
 好きという感情しか抱くことが出来ない。そんな病気を抱えた僕は色々な人を愛した。でもそれは常に一方的で、相手から好かれることなんて一度もなかった。大学に入ったら何かが変わる。そんなとりとめのない期待が現実になった。始めて登紀子と出会った時、彼女はどことなく僕と似ている、と感じた。人当たりがいいので、最初は色んな人と仲良くなる。しかし、もっと親密になりたいと想ってオーバーヒートしてしまうと、ソーダのように弾けてしまう。そんなことを繰り返していくうちに、あいつは頭がおかしい、と言われてなんとなく避けられる。
「もっと好きになりたい」
 僕は登紀子のことが好きで、登紀子は僕のことが好きだった。二人でいるときは、どこまでオーバーヒートしても問題にはならなかった。むしろ、日々深まっていく愛情をお互い大切にしていた。笑う時は手を繋ぐ。泣きたくなったら抱きしめ合う。
「ありがとう。大好き」
 最後は二人でキスをする……。

 登紀子の後にも、多くの客が洪水のように乗り込んでくる。登紀子は僕の視界から消えてしまう。もう少しだけ登紀子を見ていたい。そんな想いは儚くも消え去る。
「登紀子……」
 発車ベルが鳴り終わり、ドアが閉まる。恰幅のいい男たちに囲まれて、苦しいだろう。可愛そうな登紀子……。僕はそう思った。
 列車が動き出し、小窓の隙間から登紀子の姿を確認することが出来た。思ったよりも笑顔で……スマートフォンを操作していた。

「あんまり使いすぎると身体に悪いんじゃない?」
「大丈夫だよ。みんな平気なんだから」
 登紀子に関して一つだけ気がかりだったのは、スマートフォンの濫用だった。僕の計算が正しければ、首をおおよそ30度、1日に5時間傾けていると、頭に血が溜まる。溜まり続けると、お餅のように膨らみ始める。彼女は初期の頃に買ったらしいので、10年が経過している。確かに彼女の頭は正常よりも10センチほど大きくなっている。これは中々厳しくて、もう少し大きくなると……パーンと弾けてしまう。

 いい加減止めて欲しい。登紀子には僕がいるんだから、SNSなんていらないじゃない。どうせ友達になったって、直ぐに終わっちゃうんだから。僕だけを見ていて欲しい……。僕は子供みたいに身勝手だ。こんな風にしか登紀子を好きでいられないことが、内心怖かった。

 月曜日になった。登紀子の頭は、僕の計算によると、間もなく弾ける感じだった。それでもスマートフォンを使い続ける。見るに堪えない姿勢。死にたいのか?そう問いかけたくなる。
「怖い顔してどうしたの?」
「うん?いや……なんでもないよ」
 このままだと必ずやってくるエックスデー。でもそれが今日だとは思いたくない。僕は何から逃げているんだろう?

 三番ホームはいつものように混雑していた。いつもの列車に乗り込んだ登紀子は、笑顔で手を振った。僕も精一杯手を振り返した。発車の前に男たちが乗り込んできた。考えてみれば、町を行き交う人みんなが、もうすぐ弾けちゃいそうだった。10センチを軽く超え、11センチ間近の人もいる。
 ドアが閉まりかけた瞬間、異常を知らせるベルが鳴り響いた。直後、甲高い悲鳴が響き渡り、パーンパーンと、風船が弾けるような音が連続した。列車は……血まみれになって右往左往する乗客たちの檻と化していた。
 発作的に誰かの頭が弾けた。恐怖を感じて血圧が一気に上昇した。連鎖的にみんなの頭が弾けた……こういうことか……。
 やっとの思いで扉をこじ開け、遺体の山を蹴り飛ばす。登紀子は一人蹲っていた。まだ生きている。呼吸が荒い。頭はわなわなと震えている。
「お願い……。みんなに知らせないと……。スマホ……そこらへんに落ちてない?」

 どうして?僕はここにいるよ?スマートフォン?みんな?
 



 もう終わりだ




「早く……スマホはないの?」
「キモイ……シネ……!」
 僕は力いっぱい彼女の頭を殴った。直ぐに弾けた。




「どうして……」




 彼女は最期にそう言い残した。
 
 やっと普通の人間になった。僕はそう感じた。


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このストーリーに関するコメント

19/02/18 雪野 降太

拝読しました。
スマートフォンの使いすぎに不安を募らせる主人公が、彼女の頭の大きさを冷静に見つめている姿が恐かったです。
読ませていただいてありがとうございました。

19/02/19 ドーンヒル

イト=サム・キニー様

お読みいただきありがとうございます。私自身、スマートフォンを使うことがないので、列車の中で見かける光景は不思議だと感じます。常日頃から感じていること、そして、先週たまたま見かけた光景を元に話を膨らませてみました。
私ごときが社会に警鐘を鳴らす、などと大それたことは出来ません。あくまでも、私自身が感じたことをありのままに書いてみたつもりです。
人生不器用、恋も不器用。寂しくてほんの一瞬楽しい。でも、それくらいでちょうどいいんだ、と感じる常日頃であります。

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