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田辺 ふみさん

性別 女性
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じいちゃん、はじける

19/02/16 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:1件 田辺 ふみ 閲覧数:192

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「なんだ、これ?」
 俺は思わず、声を上げた。
 目の前にあるのは、結婚式で花婿が着るような服。そうだ、タキシードだ。
 しかも、色はシルバーで光っている。
 ありえない。なんで、こんなものがじいちゃんの一人暮らしの家にあるんだ?
 ガチャ。
 家の鍵が開く音に俺は慌てて、玄関に行った。
「じいちゃん」
「なんだ、智史、もう、来てたのか」
「これ、母さんから」
 バレンタインのチョコを渡す。
『おばあちゃんが亡くなって、寂しいだろうから、うちで暮らそうって言ったのに。一人暮らしなんて、意地はっちゃって。チョコなんて、あげるのは私だけでしょ』
 もちろん、こういう母さんの本音は内緒だ。
「コーヒーが切れてたから、買ってきたんだ。チョコと一緒に飲もう」
 じいちゃんはコーヒーメーカーに豆をセットした。
 俺はカップを並べる。
「ミルクは?」
 俺は冷蔵庫を覗いた。
 甘い匂いが飛び出した。中には色とりどりの箱が並んでいる。
「これ、もしかして、全部、チョコ?」
 じいちゃんはにやりと笑った。
「いいだろう。義理チョコじゃないぞ」
 俺なんて、母さんからしかもらってないのに。なんで、じいちゃんが?
「じいちゃん、このチョコをくれた人の中に好きな人っているの? もしかして、結婚を考えてる? 部屋にタキシードがあるのを見たんだけど」
 じいちゃんは首を振った。
「まさか。結婚なんて考えてない。タキシードはダンスの衣装だ。このチョコもダンス仲間からもらったものだ」
「ダンス?」
 堅物で有名だったじいちゃんが?
「社交ダンスさ。お前もやるか? モテるぞ」
 このチョコの数を見ると、モテるのは本当かもしれない。って、俺がおばあちゃんたちにモテてどうするんだよ。
「お前にも食べさせてやるよ」
 じいちゃんはチョコレートをいくつか取り出して並べた。母さんのチョコレートより、ずっと、高価そうだ。
「その代わり、ホワイトデーに何を返すのがいいのか教えてくれ」
 俺はすぐにネットで調べてやった。
 チョコレートはものすごく、おいしかった。


 シルバー社交ダンス大会。
 スポーツセンターには派手な垂れ幕が下がっていた。
 駐車場は車で一杯だ。こんなにたくさんの人が社交ダンスをしているなんて、知らなかった。
 俺はじいちゃんから動画を撮ってくれと頼まれて来たのだが、同じ年頃の人はいない。
 応援らしい家族連れは小さな子供を連れた人が多い。孫に雄姿を見せようと老人たちは張り切っているのだろう。
「じいちゃん、がんばれよ」
 タキシードを着込み、薄くなった髪の毛を固めたじいちゃんは不安そうな顔になった。
「大丈夫、なかなか、かっこいいよ」
「そうじゃないんだ」
 じいちゃんはため息をついた。
「今日は連続四回も踊らないといけないんだ」
「ああ、種目が色々、あるんだろう」
 俺も少しは調べてみたから、わかっている。ワルツ、タンゴ、チャチャ、それから、何だっけ?
「そうじゃない。四人のパートナーと踊るんだ」
「えっ、そんなことしていいの?」
「男性は少ないから、許されているんだ」
「でも、一人だけ選んで、あとは断ればよかったのに」
 俺は小声で言った。
「そんな、選ぶなんてできないよ。時間がかぶった相手には先着順ということで断ったけど」
「えっ、四人以上からパートナーの申し込みがあったの」
 じいちゃんはうなずいた。
 それはすごい。
「チョコレートをもらったし、断れなかったんだよ」
 バレンタインの時に浮かれていたのが嘘のようにしょんぼりとしている。
「ばあちゃんがね」
 話し始めると、じいちゃんがあわてて、顔を上げた。
「じいちゃんのいいところは約束を守るところだって言ってたよ。無理なお願いでも約束したら、守ってくれたって。ダンスするって決めたのなら、がんばれよ」
 話しているうちに、じいちゃんの目に力が戻って来る。
「俺も応援しているから」
「わかった。任せろ」
 そう言って、立ち上がったじいちゃんは男らしかった。
 一人目、上品なおばあちゃんがパートナー。
 じいちゃんは優雅に踊る。
 二人目、やや若いおばあちゃん、じいちゃんを振り回すように踊っている。
「坂本さん!」
 おばあちゃんに対して、声が飛ぶ。意外に大きな声でみんな、応援している。
 三人目、太めのおばあちゃん。
 寄りかかられると、じいちゃんは倒れそうだ。
「がんばれ!」
 思わず、声をかけた。
 四人目、最後だ。少し、背が高い。
 じいちゃんは手を思い切り、上げているがしんどそうだ。笑顔が引きつっている。
 でも、いい笑顔だ。
 俺は叫んだ。
「リア充、爆発しろ!」


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このストーリーに関するコメント

19/02/18 雪野 降太

拝読しました。
祖父に付き合う主人公と、若々しい祖父が興味深い作品でした。
読ませていただいてありがとうございました。

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