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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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炭酸使いのMくん

19/02/15 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:3件 待井小雨 閲覧数:190

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「僕には炭酸飲料の泡を操る力がある」とクラスの地味男子・Mくんが言った時、誰もが何言ってんだコイツ、と思った。
「胃の中の泡を何倍にも膨らませて、それを僕の意思で弾けさせることができる」
 ボンッ、と爆発だ――という言葉に教室が静まったのはわずかのこと。
「何あれキモい」
 誰かのその言葉を契機に、あちこちから「キモい」の声が上がる。私も変な奴、と思いながら雑誌に視線を戻した。

 帰りにコンビニに寄って外に出ると、ゴミ箱のそばに薄ぼんやりとした男子が座っているのを見つけた。
「Mくんじゃん」
 私の声に顔を上げたMくんは「あ」と私の手元を見る。
「炭酸だ」
「そうだけど?」とMくんの隣に座る。
「あんなのさ、誰も信じないよ」
 ごくごくとジュースを飲む。
「前世の記憶があるとか特別な力があるとか、そんなのあるわけないし誰も信じてない。――やれるんならやってみ?」
 Mくんを挑発する。ゲップが出そうなのは年頃の乙女としてどうにか堪えた。するとMくんは頼りなく笑う。
「そうだよ、そんなの出来るわけない」
 あっさりとした返答に鼻白んだ。
「特別な力どころか、みんなが当たり前にできることも僕にはできないんだ」
「じゃあ何であんなこと言ったの? 気味悪がられてるよ」
「いいんだ、それで」
 ごく穏やかにMくんは言う。
「僕みたいな奴は卒業したら皆にすぐに忘れられてしまう。記憶にとどめてくれる友達だって作れない。――だけどさ、みんな炭酸は飲むじゃない?」
 話の飛躍に「んん?」と声が出る。
「僕らの歳ってみんな飲むじゃない。それでさ、飲む度に思い出すんだよ、僕のこと。気持ち悪いと思ってもらえたなら上々だ。そういう記憶は強烈だから。大人になってたまに炭酸飲もうととしてもさ、僕の顔を忘れてても『泡を操れるって言ってた奴がいたな』って何となく居心地悪くなるんだ」
 Mくんの意思で膨らんで破裂する泡。誰もが信じてなくて、でも想像したかもしれないそんなイメージを私も頭の中に描く。炭酸を飲んだ奴のお腹を指さして、Mくんはニヤリと笑って泡を操る。
「そんなこと考えるなんてMくんやっぱり気持ち悪いね」
 Mくんは恥ずかしそうに頭をかく。
「でも確かに、喉乾いたなーってコレ手に取った時Mくんのことよぎったよ」
 きっと今日、他の誰かも飲み物を選びながらMくんの気持ち悪さを思い出しただろう。胃に手を当ててしゅわしゅわ弾ける心地を確かめたりもしたかもしれない。
「でしょ!?」
 曇り一つない満面の笑みに、私はなぜか急に悔しさを覚えた。
「何か、狡い」
「えっ」
「私たちは炭酸飲む度にMくんのこと思い出すかもしれないけど、Mくんは? Mくんは自分のこと忘れられるって言うけど、Mくんもきっとクラスの誰のことも憶えていられないよ」
 人間の記憶の容量は無限じゃない。関わることも繋がることもなかった人のことなどすぐに忘れる。
 それに、関わりがあったとしても――。
 上辺では友達だと言っていても、私はきっとクラスの子達のことなど忘れてしまうだろう。そして同様に忘れられてしまう。それだけの付き合いしかしていないから。
 それに比べれば気味悪がられてでも自分の存在を刻もうとするMくんの方がずっと上等だ。
「……ねえ」
 提案してみる
「これ飲まない?」
 Mくんがきょとんとしたのは一瞬で、すぐに顔を赤くした。
「か、間接キスになっちゃうよ……っ」
「間接キスをするの! 照れすぎでしょ」
 私は回し飲みに慣れているからMくんが一人で意識すればいいと思ったのに、過剰な反応にこちらまで恥ずかしくなった。誤魔化すために勢いよくジュースを差し出す。
「これを飲めば、Mくんは炭酸を飲む度に間接キスしたことを思い出す!」
「へ……」
 Mくんがもし交流のないクラスの皆のことを忘れてしまっても、思春期に間接キスをした想い出だったら忘れずに残るんじゃないだろうか。私のことを憶えていてくれるんじゃないだろうか。
 私も刻み付けてやるんだ、Mくんに。
「嫌なの?」
 問い掛けるとMくんはペットボトルを手に取った。
「嫌、じゃない」
 Mくんは泡の弾けるジュースを一気に飲んで、そしてすぐに口元を押さえる。
「な、何よ。間接キスが不満なの」
「ち、違う。痛くて」
 顔を覗き込むと、涙を浮かべるMくんの瞳とぶつかった。
「しゅわしゅわするのが、痛くって」
 照れ笑いのその表情に、私はしばしぽかんとする。
 い――いやいや、そんな顔は全く私の好みではないはずだしMくんのことはやはり変な奴としか思えない。
 なのにおかしい。私は動揺している。
「悔しい。――狡い」
 炭酸を飲む度どころか、たぶんこれからずっとMくんのことが頭から離れない。そんな気がする。
 私は悔し紛れのパンチをMくんに繰り出した。


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このストーリーに関するコメント

19/02/16 霜月秋旻

え、Mくーーーん!!!(笑)
 待井小雨さん、拝読しました。これでMくんの記憶にパンチの衝撃が上乗せされたわけですね(笑)炭酸飲むたびに「あれは痛かったな〜」とか言ってそう(笑)
 甘酸っぱい学生時代が懐かしくなる優しいお話、ありがとうございました。面白かったです。

19/02/18 雪野 降太

拝読しました。
注目してほしい、特別に見られたい、他者の記憶に残りたい、という『Mくん』。何かを成して記憶されるよりも、気味悪がられることで印象を残したいとする彼のどろどろとした顕示欲の強さが感じられる作品でした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/02/19 待井小雨

霜月 秋昊様
お読みいただきありがとうございます。
「甘酸っぱい」いただきました! とても嬉しいです!!
このくらいの年代の少年少女の感じを上手く表現できているか不安でしたので、「甘酸っぱい」の評価が一番嬉しいです! ありがとうございます(^^)

イト=サム・キニー様
お読みいただきありがとうございます。
どろどろとした自己顕示欲を持つ男子というよりは、地味ながらも明後日な方向に頑張る実は変わった男子、というイメージで書いておりましたので、それが伝わるように表現できなかった自分の力不足を痛感しております。
ですが、そういった風にも読めるのだな、と勉強になりました。ご感想をいただき、ありがとうございました。

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