1. トップページ
  2. 膨らんじゃった絶望

繭虫さん

よろしくおねがいします。

性別
将来の夢
座右の銘 ダンベルのようにモチベーションを持ち上げられるようになりたい。心のマッチョになりたい。

投稿済みの作品

3

膨らんじゃった絶望

19/02/15 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:3件 繭虫 閲覧数:314

時空モノガタリからの選評

子供から大人への移行期である思春期特有の苛立ちが印象的でした。思春期とは、世界と自分が分離していくかのような不安感に満ちた時期なのかもしれないですね。過激なキャラクターを表現する場合、それ自体が目的化し全体から浮いてしまうことが多いような気がしますが、この作品は最終地点に向けて集約していくようにきちんと構成されていると感じ、鮮烈でした。

時空モノガタリK

この作品を評価する

「クラスの男子、全員殺そう。」

放課後の教室で、箒を片手にミサキは呟いた。

「ンッフ。」

掃き掃除をしながらユウは妙な笑い声を上げる。

「わりと本気なんだけどな。」

――ミサキとユウ。二人は幼なじみで、小学校では親友だった。
今は、よくわからない。あまり口を利かなくなったな、とユウは感じている。
中学に上がってから、ミサキは急激に女っぽくなっていった。可愛い下着に文具、綺麗に整えられた眉毛と髪の毛。あと、変な笑いかたをしなくなった。一緒にセミの脱け殻を集めて笑っていた彼女はもういない。しかし、それはミサキだけではない。
クラスの女の子のほとんど、体も心もいろんな所が膨らんで、弾けそうだ。
ユウは周囲のその急激な変化に着いていくことが出来なかった。
しかしこの時、自分から遠く離れた所に浮かんで行ってしまったミサキが、少しだけ、セミの脱け殻を集めていた頃の彼女に戻ったような気がしたのだ。

「どうやって殺すの?」

だからつい、話に乗ってしまいたくなった。
ミサキは、得意気に腕を組んで口を開く。

「まず、高橋。アイツを最初に殺すの。アイツが一番悪くなくて一番不愉快だから、一番最初に殺すの。」

「あぁ。高橋か。いいと思う。」

ミサキの言わんとする、『一番悪くなくて一番不愉快』だという意味をユウは理解している。

まず高橋は、ミサキにわかりやすく好意を抱いていた。
そしてその好意は、どこかねちっこい。
小学校までの「〜ちゃんが好き」というような可愛らしいものとは逸脱している。ヘドロのような泥臭さを感じさせるものであった。

そんな高橋から向けられる視線が、ミサキは気持ちが悪くて仕方がなかったのだ。

「高橋がこっち見てニヤニヤしてきたら……お願い、私と一緒に高橋に向かって塩を撒いて欲しいの。」

「高橋はナメクジかなにかなの?」

「高橋はそれで退治できるわ。」

「高橋はナメクジかなにか――ま、いいか。」

追及するだけ無駄な気がした。
ミサキの弾けんばかりの笑顔に水を差すのは気が引けたのだ。

「次は、誰を殺すの?」

ユウの質問に、ミサキは嬉しそうに頷いて話し始める。

「三好。次は三好。あいつは絶対やらなきゃダメ。」

「三好か。それはみんな、喜ぶだろうな。」

三好は、小学生の頃からとにかくうるさい奴だ。
中学に上がってから、声の大きさはそのままに「歩く下ネタマシーン」と化したのである。
その下ネタの内容は異性に対するものがほとんど。しかし、いずれも同姓に媚びる為。所謂、ウケ狙いというやつだ。異性に興味がある「フリ」をしているだけで、彼が考えているのは同性間での地位を確立することのみ。その為にクラスの女子を貶めることを厭わない。
だから一層タチが悪かった。
彼の大きな声は、女子を傷付けることに躊躇が無かったから。

「キモいこと言った三好の鼻の穴に花をいっぱい挿すのよ。ありったけ、綺麗にね。」

「それはさぞかしスカッとしそうだけど、三好はそれで退治できるの?」

「花に水分を奪わせて、よく喋るあの口もカラカラにさせて、脱水させる。」

わけわかんないよ、ミサキ。と、出そうになった言葉をユウは呑み込んだ。
彼女は笑っている。しかしその笑顔の奥に、キリキリと張りつめる怒りが覗いている。

ミサキはその後も一人一人クラスの男子を殺害する計画を語っていった。
どれも、現実味のない馬鹿げたものばかりである。
ただ、ミサキの行き場のない殺意だけをユウは受け取り続けた。

「うん、いいじゃんね。男子なんか、全員退治しちゃおう。」

と、相槌を打ちながら内心ユウは首を傾げる。

中学に上がってから、ミサキにとって男の子というのは、奇声を上げたりクラスの女の子の名前をおっぱいの大きい順に並び替えたりしている生き物のことだ。

彼女は、そんな男の子達を排水溝に溜まった髪の毛を見るような目で見ている。
女の子達にとってクラスの男子は世界中の何よりも見下していい生き物だった。
殺意を抱くのもおかしくない。

しかし、目の前の彼女の様子はなんだかおかしい。
明らかにいっぱいいっぱいだ。色んな感情で膨らんで、はち切れそうになっている。
「殺意」とか「怒り」とか、あと、なんだ?


「……ねぇ、なんか、あったの?」


最初から、この一言だけで良かったのかもしれない。

張りつめた糸が弾けたように、ミサキの頬からポロポロと零れていく。
膨らんで膨らんで、溢れてしまった「気持ち」が零れていく。

「……ユウ、あのさ……」

久しぶりに、名字じゃなくて名前で呼ばれた。
やっぱり、『親友』だと思った。


「……私、好きな男の子が出来た……。」


絶望したような声音と、ひどく温度の籠った瞳が、ユウに向かって注がれている。



コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

19/02/15 クナリ

大きく激しい回り道の後のラストシーンが印象的ですね。
暴走する思考と、あふれていく感性が目まぐるしく展開するのが、変な言い方ですが、どこか心地いです。
鮮やかですよね。

19/02/16 雪野 降太

拝読しました。
面白かったです。話の締め括り方を特に評価したいです。過激派発言で始まって、よくわからないまま読み進めたのですが、その熱情の根源が何であるのかをのぞかせる文章が巧みだと思いました。
読ませていただいてありがとうございました。次回作を楽しみにさせていただきます。

19/03/18 繭虫

クナリ様
鮮やかと言っていただけて、嬉しいです。複雑な年頃の女子が持つ、特有の鮮度(?)のようなものが表現できていたのなら幸いです……!
コメントありがとうございました!


雪野 降太様
ラストに関しては、読んでくださった方の想像に委ねる部分も大きかったので不安だったのですが、そう言っていただけてとても嬉しいです。
コメントありがとうございました!

ログイン