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若早称平さん

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モテバブル崩壊

19/02/13 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:3件 若早称平 閲覧数:332

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 校門をくぐるその瞬間に、彼は無言で私に手紙を押し付けてそのまま走り去っていった。見かけない顔だったので一年生かもしれない。
「お前またラブレターもらったのかよ? マジですげーな」
 幼馴染みの真治がからかい半分に後ろから覗き込む。それに気付いた私はさっと手紙を制服のポケットにしまった。
「見てたの?」
「一部始終な」
 真治が白い歯を見せる。私は恥ずかしさで自分が赤面しているのが分かった。それを隠そうと両手で頬を押える。いつまでも治らない私の癖だが、ここ最近のモテ期の始まりはこれせいなのだから複雑だ。

「文化祭の実行委員さ、藤吉ちゃんやりなよ」
 突然の抜擢だった。スクールカーストの頂点付近に位置する武元さんの鶴の一声により、クラスの地味な女子ランキング上位だった私が大役を任されることになった。高校生活で初めて脚光を浴びた瞬間だった。また私が周りから「藤吉ちゃん」と呼ばれていることを知った瞬間だった。
 そのままクラスの出し物を決める会議の司会にかり出された私は教壇に立ち、クラスメイト全員からの視線に晒された。緊張と羞恥で顔が真っ赤になったのは言うまでもない。小学生の頃から散々笑い者にされてきた。だが、
「なんか藤吉ちゃん可愛くない?」
 そう言ったのはやはり武元さんだった。嘲笑ではなく、友好的なざわめきが教室に広がっていく。流れが変わるのを感じた。

 私自身なにも変わってはいない。ただ周囲が変わった。今まで私を透明人間かのように素通りしていた人達が笑顔で挨拶をしてくる。話しかけてくる。弁当を食べるのに誘われるし、放課後のカラオケにも誘われるようになった。「誰々が藤吉ちゃんのこと好きなんだって」という噂を耳にし始めたのはそれからすぐのことだった。
 初めて手紙で学校の近くの公園に呼び出されて告白をされた時、私は自分でも驚くくらい冷静に、こういうのってテレビや漫画だけじゃなくて本当にあるんだ、と思った。彼の気持ちはありがたかったけど、深々と頭を下げて断った。
 それからというもの、まるで何かのドッキリ番組の仕業かと勘ぐりたくなるくらい次々と告白が続いた。戸惑う私に武元さんは「完全にモテ期入ったね」となぜか興奮気味だった。
「だれか適当な奴と付き合っちゃえばいいじゃん。楽しいよ、彼氏がいるって」
 一方、真治に電話で相談してみると答えは真逆だった。
『モテ期の時に近づいてくる奴なんてろくなもんじゃないぞ。本当のお前をみてくれてる奴じゃなきゃ辛い思いをするだけだかんな』
「本当の私って?」
『それは自分で考えろよ。あとお前自身も最近浮ついてるぞ。そんなんじゃ足下掬われるぞ』
「なにに?」
『それも……自分で考えろよ』
 全く頼りにならない真治の電話を切った。ただ最近浮ついてるというのは図星だった。気を引き締めなくては。明日からはいよいよ文化祭が始まるのだから。

 文化祭当日の実行委員は忙しい。校内のあちらこちらでトラブルが発生し、対応に追われる。「分身の術が使いたい」そう武元さんに漏らすと「ホント藤吉ちゃんは面白いよね」と笑った。陣中見舞いの焼きそばを掻き込むように食べていたが、残念ながら完食する前に委員長からの電話が鳴った。
『急遽で悪いんだけどさ、閉会式の挨拶やってくれない?』
 突然の抜擢だった。電話の声が漏れ聞こえたのか武元さんが興奮気味に「やりなよ!」と息巻く。
「でもなんにも準備してないし、もう時間もないし……」
「そんなのノリでなんとかなるっしょ!」

 委員長よりも武元さんに押し切られる形で私は舞台袖に立っていた。かつてない大舞台に私は心臓が飛び出ないよう必死に胸を押えた。名前を呼ばれ、震える足でなんとか舞台中央に辿り着き、マイクを握る。
「イジョーヲモチマシテー」
 緊張で裏返った声に大爆笑が起きる。パニックになった私は顔を真っ赤にして舞台袖に逃げた。背中から聞こえたのはかつて散々聞いた嘲笑だった。

 どん底まで落ち込みながら帰路に着く私を「あの」と呼び止めたのはこの間私に手紙をくれた一年生だった。そういえばまだ返事をしてなかった。
「あの手紙なんですけど、やっぱなかったことにしてください」
 え、と呆気にとられる私を置いて、彼は走り去った。
「ほらな」
 代わりに現れたのは真治だった。
「見てたの?」
「一部始終な。ほら、あれだな。バブル崩壊だな。モテバブルが弾けた」
「平成も終わるのに昭和の話しないでよ」
「ばっか、バブル崩壊は平成だよ」
「なんでもいいけど、私の青春を日本経済なんかと一緒にしないでくれる?」
「それよりわかったか? 本当のお前をみてくれるやつじゃなきゃって話」
「そんなのどこにいるのよ」
「いるだろ……ここに」
 口ごもった後、急に真顔になった真治に私の心臓は弾け飛びそうになった。


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このストーリーに関するコメント

19/02/15 クナリ

周囲からの制御できない影響は、大変ですねえ…。
翻弄される心の転がりように変化があり、楽しく読めました(主人公さんには申し訳ないですが…)。

19/02/15 雪野 降太

拝読しました。
赤面症が可愛らしい主人公の翻弄される様子は気の毒なようであり、一方でそれもまた愛嬌があるようにも感じられ、興味深く読ませていただきました。主人公をずっと見続けていた幼馴染君はさぞ冷や冷やしたことでしょう。
読ませていただきありがとうございました。

19/02/16 文月めぐ

拝読いたしました。
タイトルが秀逸です。
どきどきする青春小説、とても面白かったです。

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