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つつい つつさん

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しょうらいのゆめ

19/02/10 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:2件 つつい つつ 閲覧数:98

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 頭からふとんを被り、縮こまっていた。
 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!
 鳴っていないはずの音が頭の中で響き渡った。その度に体がビクッと硬直した。僕はさらに耳を手で塞いだ。
 アパートのドアを慌ただしく開ける音がすると、父さんが大声で喚き散らす声が聞こえた。
「お前ら、何寝てんだ。こっちは仕事して帰ってきたんだぞ!」
 僕は怖くて父さんが帰ってくるまで寝たことなんて一度もなかった。
「すいません。すいません。すいません」
 微かに母さんの謝る声がする。足音が近づき、押入の戸が開く音がすると、むせるくらいお酒のにおいがした。
 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!
 頭や肩や背中に確かな衝撃が来た。僕は少し安心した。もう少ししたらやっと眠れる。
 しばらく衝撃が続いた。昨日と一昨日殴られた箇所をまた殴られてジンジンと痛んだ。でも、これくらいだったらそのうち忘れて眠れそうだった。
 朝になり、父さんと母さんが出かけたのを見計らって、僕は押入から出た。キッチンのテーブルにはロールパンが三個あった。僕は牛乳をコップに注ぎ、パンを一個食べた。
 やることがなかったから、僕はまた押入に戻り膝を抱えて座った。勝手に電気を点けたりTVを見ると父さんに怒られる。だから僕はじっと座るしかやることがなかった。
 今年の四月に中学生になってから一ヶ月くらい学校に通ったけど、担任の先生が家に来て以来、父さんは僕が学校に行くのを禁止した。僕は食べるのがそんなに上手じゃなかったから、給食を食べなくていいのは少し嬉しかった。小学校の時はよくおかずをポロポロこぼして、みんなに笑われた。
 押入の中でずっと考えていた。今日はひょっとしたら父さんは帰ってきてすぐに寝るかもしれないと。週に二回くらい父さんは機嫌良く歌を唄いながら帰ってきて、そのまま寝てしまう。三日連続で殴られたから、今日はそのまま寝る確率が高い。僕はウキウキした。夕方になると母さんが帰ってきて押入をそっと開けた。
「良太、何か食べた?」
 僕がうなずくと、安心したように母さんは押入を閉めた。あんまり僕に優しくすると、父さんは余計に僕を殴る。父さんは話さなくても母さんが僕に優しくするとわかるみたいで、前に母さんと二人でケーキを食べた夜なんて、何時間も僕を殴り続けた。僕は何日も痛みと熱で動けなかった。だからケーキなんて二度と食べたくない。
 そろそろ父さんの帰ってくる時間だと思い、いつものようにふとんの中にもぐっていると、父さんの喚く声がした。僕の予想は外れ、僕は四日連続殴られた。
 ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!
 目をぎゅっとつぶってるからわからないけど、最近父さんの顔がさらに怖くなっているような気がした。昨日より一昨日より強く痛く殴られた。泣いたらさらに怒られるから必死で声が漏れないように泣いた。
 父さんと母さんが出かけてしばらく時間が経っていたから、もうお昼ぐらいだろう。体中がズキズキしていたけど、無理矢理起きあがりトイレに行った。ガラス戸越しにベランダに赤いものがユラユラしているのがわかった。本当は昼間僕がいることがばれないようにベランダに出ると怒られるんだけど、気になったのでガラス戸を開けると、赤い風船が引っかかっていた。僕は誰にも見つからないようにさっと風船を取った。
 赤い風船をしばったひもの先には水色の紙がくくりつけてあった。その紙を見ると(しょうらいのゆめ りょうしさんになりたい りょうた)と、書いてあった。 
 僕はこんなもの書いた覚えはなかったけど、素敵だなって思った。昔、遠足で海を見たことがある。キラキラと海も空も輝いていてすごく綺麗だった。
 りょうしさん、いいなぁ。りょうしさん、かっこいいなぁ。僕の夢はりょうしさんになることだったんだ。知らなかったけど、嬉しかった。僕にそんな夢があったなんて。僕は風船はまたベランダから空に飛ばして、夢を書いた水色の紙は押入に隠した。それから背中がズキズキするのも忘れて、りょうしさんになる自分をずっと想像した。
 その日の晩、父さんはさらに荒れていた。最初は背中を殴られたけど、そのうち、押入から引きずり出されて、お腹も顔も肩もそこら中殴られた。
 その後、僕はしばらく寝込んだ。痛みと熱で朦朧としていて、あれから父さんにまた殴られたかどうかもわからなかった。
 目を覚ますと体中に激痛が走った。だけど、僕はなんとか押入から這い出た。でも、体を動かした痛みでその場にうずくまってしまった。涙が出た。そんな僕の頭の上にあの水色の紙がヒラヒラと落ちてきた。僕はそれを握りしめると、なぜか叫んでいた。
 アアアァアァゥウゥアアアアァ!
 僕はひどく痛む体を無理矢理起こし、這いずるように外へ出た。そして、海があるだろう方へと、一歩一歩体を動かした。


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このストーリーに関するコメント

19/02/11 イト=サム・キニー

拝読しました。
その日を切り抜けることしか考えられない状況に追い込まれた主人公の思考が装飾なく描かれていると感じました。また、パンパンに膨れてしまった閉じられた世界に、針を刺すように不意に訪れる展開に読者としては望みを託すような気分になりました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/02/12 つつい つつ

イト=サム・キニー様、感想ありがとうございます。
主人公の進む先に少しでも光が射すように願いを込めて書きました。
かすかな望みを感じてもらい嬉しいです。

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