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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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私の可愛い弟くん

19/02/09 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:3件 浅月庵 閲覧数:248

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 弟の優弥が私の部屋を訪れて「○○デビュー」するって、ちょっと勿体ぶってから言ったのに、私は「○○」の部分が聞きとれなくて、この子って音楽の才能や文才なんてあったっけ?と困惑する。
「よく頑張ったね! おめでとう」
「お姉ちゃん。頑張るのはこれからだよ」
 あらら。私が手探りで行なった反応は、どうやら間違いだったらしい。

 それで詳しい事情を訊けば、中学校を卒業して春休み中の弟は、この期間を利用して通学鞄やら通学用スニーカーやら制服の着こなしまであか抜けさせようと画策しているらしかった。
 私は自分の見た目を劇的に一から改革しようと試みることは人生で一度もなかったので、だから「高校デビュー」って言葉が自分には無縁で、弟の堂々たる宣言が耳に入ってこなかったわけだと、勝手に納得している。
「優弥も女の子に興味が出てきたってわけね」
「うーん。せっかく頑張って入りたい高校に入学できたからさ、自分を変えるチャンスかなと思って」
 好きだった漫画やアニメを控えて勉強に打ち込んでいた彼の努力を私は知っている。
「優弥は向上心があって偉いね。若さ弾けてるねぇ」
「なに年寄りみたいなこと言ってんのさ。お姉ちゃんだってまだ若いでしょ」
「いやいや。25歳で彼氏の一人もいないし、それに、」
「あーっと、話が脱線しそうだから本題に戻しちゃうけど。単刀直入に言うと僕は、お姉ちゃんに訊きたいことがあるんだよ」
「なに?」
「……女子にモテるにはどうしたら良い?」
 あはは。結局モテの話が本題なのね。
「とりあえずその鬱陶しい髪は美容室で切ってもらいなぁ」
「美容室なんて緊張するな。そうだ! お姉ちゃん、付いて来てよ」
「良いよ。私が一緒で優弥が恥ずかしくないのなら」
「全然。ついでに登校用の鞄や靴も一緒に選んでよ!」
 私のセンスが悪くて高校デビューが上手くいかなかったら、とうとう優弥にまで見放されてしまいそうだ。
「お金はあるの?」
「お母さんから最低限はもらってる。あと、お年玉とかも貯めてたからね。妥協はしたくない」
 妥協はしたくない、か。私たちはやっぱり姉弟だねぇ。

 こうして私たちは街中へ出かけた。
 美容室とアパレル関連のお店15軒を周り、目的を果たしたところで私たちはヘトヘトなので、街中のレストランで休憩がてら夜ご飯をとることにした。
「今日は付き合ってくれて本当にありがとね。なんでも好きなの食べてよ」
 丁度十歳下の弟にご飯を奢ってもらうことになるとは、私も落ちたものだ。
「これで高校行ったらモテモテっすね、優弥さん」
「なにその口調。んー、あとは性格だけかな」
「性格? どこを変えんのさ」
「僕って基本大人しいからさ。もっとチャラく?でもないけど。パリピ?みたいな。はは、なんか変な表現しかできないけど、明るくならなきゃと思って」

 ーー私は優弥が優しい子だってこと、誰よりも知ってるよ。

 大学での就職活動中に私は三社、入りたい会社をピックアップした。それ以外の選択肢は妥協としか思えなくて、でも現実は非情で面接で落とされ、存在否定された気になって、私は心が折れて部屋にこもりがちになってしまった。
 この三年間、未来のある弟の優弥に両親は期待をし、私はただそこにいるだけの終わった人間として腫れ物扱いだったのだ。まぁ当然だ。

 そんな日々の中で、就職先も探さずに部屋で毎日時間を食い潰すだけの虚しさを埋めてくれたのは、私がこんなになってからも変わらず接してくれた優弥だけだった。
 毎日私の部屋を訪れて、学校であった話を一生懸命したり、わからない問題を訊きに来た優弥。
 きみが私を家族として認めてくれ、繋ぎ止めてくれようとしてくれることがなにより嬉しくて、だから今日まで生きて来られたのだ。

「優弥はそのままで良いよ。優しいし良い子だし、中身まで無理に変える必要は無いんじゃないかな」
「急にどうしたの? 気持ちわるー」
 あはは。キモいと言われてしまった。

 ーーでも、優弥が勉強を頑張る姿と心の底から変わりたいと願い、努力する姿を見て、私もなにかしなきゃって思わされたんだよ。
 若さ弾けるきみに若いって言われたんだから、私だってまだまだいけるはずだし、この年齢でフリーターなんて恥ずかしいとか妙なプライドを持っていたけど、働かざる者食うべからず。恥ずかしいを蹴っ飛ばす「恥蹴る」覚悟でコンビニバイトでもなんでも取り組むぜ!なんて言い出したら、つまんない親父ギャグだって年寄り扱いされるかな。

「お姉ちゃんもそろそろ頑張ってみるわ」
 私の可愛い弟くん。
 きみにご飯を奢ってもらって、ヘラヘラしてるわけにはいかないのだよ。
 反対にお寿司でも奢ってあげて、お小遣いをあげるくらいじゃないと、立派なきみのお姉ちゃんだって、胸張れないでしょう?


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このストーリーに関するコメント

19/02/09 雪野 降太

拝読しました。
主人公の弟の優しさが終始伝わってくる作品でした。それを理解しながら、穿った見方をすることなく受け止めていた主人公の素直さも読後感を明るくしていたと思います。
読ませていただいてありがとうございました。

19/02/14 霜月秋旻

浅月庵さん、拝読しました。
弾けるに恥蹴る(笑)そう来ましたか!
若々しい弟君から、私も元気を貰いました。
前向きなお話ありがとうございました。

19/02/15 クナリ

きょうだいの愛情がさわやかで温かく、いいお話でした。
仲良く明るくしているその裏には、様々な表に出していない感情があると思いますが、とても前向きな思いが心地よかったです。

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