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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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夏、弾ける

19/02/07 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:116

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 自転車のペダルをぐっと踏み込む。洋美と香は電車で来るから、駅で待ち合わせをすることになった。花火は八時からで、待ち合わせは七時。腕時計にちらりと視線をやると、ちょうど七時を差していた。ここに来て長い踏切に引っかかってしまった。これはついてない。耳の前を流れる汗を手の甲でぬぐう。私はぱたぱたと手でかすかな風を送った。その時。
「田島?」
 後ろから名前を呼ばれた。振り返らなくても声だけで誰だかわかった。
「久保くん」
 そこには自転車にまたがった同じ学科の久保広明の姿があった。
「花火大会行くの? 鈴村と谷垣が一緒?」
 そう言いながら、久保くんが私の隣に自転車を並べる。うん、とうなずくのがやっとだった。自転車のブレーキをきゅっと握った久保くんの手の甲が見える。骨ばって、血管が浮き出ている、手。私のそれよりも少し日に焼けて――。
「鈴村と谷垣、間に合うかな」
「え、どういうこと」
 待ち合わせ時刻に間に合っていないのは、むしろ私の方である。私は首をかしげる。
「あいつら、電車だろ? さっき事故があったらしくて、電車、止まってるらしい」
 その言葉にはっとしてスマホを鞄から取り出すと、洋美からメッセージが来ていた。確かに久保くんが言うように、事故があったみたいだ。そして、花火に間に合うかどうかわからないと書かれている。
「俺、耕太郎と寿と一緒に花火行く約束だったんだけど、あいつらも電車だから」
 たぶん間に合わない、と続ける久保くん。どうしよう、ここまで来て引き返すのも嫌だ。だけど、一人で花火を見るというのもむなしい。大学一年生の夏だ。田舎から出てきて、都会の大学に入った。今日は大迫力の花火を見れると思っていたのに。洋美と香が来ることを願って、場所を確保しておくべきなのか――。
「どうする、田島?」
 私の迷いを察知したのか、久保くんが俯き加減の私の顔をのぞき込んでくる。
 久保くんと、目が合う。
「よかったら、花火、一緒に見ない?」
 弾けるように顔を上げるのと同時に、遮断機がすっと持ち上がる。久保くんの自転車がぐんと進む。私も慌てて足に力を入れる。
 
 駅前に適当に自転車を止めると、私たちは並んで歩きはじめた。屋台が並んでいて、フライドポテト、たこ焼き、から揚げ、スーパーボールすくいなどの鮮やかな文字が踊っている。祭り独特の匂いが辺りに満ちて、私たちはその間をかいくぐる。花火観覧の場所までたどり着くと、狭いスペースを確保した。辺りはレジャーシートだらけで、家族やカップル、友人同士などで盛り上がっている。浴衣を着ている人も多く、祭りの雰囲気が漂っている。
「もう間に合わないよ、あいつら」
 そんなことを言いながら久保くんは芝生に腰を下ろした。私もその隣にゆっくりと座る。額の汗が、止まらない。これでは化粧が落ちてしまう。久保くんは、どこから取り出したのか扇子で首元をあおいでいる。時計を見ると、花火開始まであと十五分。私たちの間に、特に会話はない。普段から特に親しく話す間柄ではない。それに私は緊張して、何を話せばいいのかわからない。久保くんの場合は、特に私に興味がないからだろう。
 鞄からタオルを取り出して、額に当てる。夜になっても、風は生ぬるい。ふと視線を感じて隣を見ると、久保くんがこちらを見ていた。
「田島ってさ、俺のこと嫌い?」
「え」
 次の言葉が続かなかった。久保くんは苦笑しながら言葉を続ける。
「田島、耕太郎や寿とは普通に話すじゃん? 俺、なんか田島に嫌われるようなことしたかなって思って」
 そうじゃない。嫌いじゃない。むしろ、
「俺はさ、田島と話すとき緊張しちゃうんだ。何話していいか、わからなくなる。他の女子とは気軽にできる会話ができない。なんか、すげー言葉に迷ってしまう」
 周囲のざわめきがすっと静まった。頬が熱くなるのがわかった。
「俺は田島のこと、もっと知りたい。俺、お前のこと――」
 大きな破裂音で声はかすかにしか聞こえなかった。久保くんの真剣な顔が明るく照らし出される。彼が何を言ったかはわかった。私の右手を優しい掌が覆った。
 夜空には鮮やかな光が弾けている。


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このストーリーに関するコメント

19/02/08 イト=サム・キニー

拝読しました。
ド王道の展開に身悶えました。大学一年生の夏……彼ら、彼女らは二年生、三年生……とどのような夏の景色を見るのでしょう。きっと、そこにもパンッと弾けるような瞬間が目白押しなのでしょうね。個人的に『額の汗が、止まらない。これでは化粧が落ちてしまう。』という箇所が好みでした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/02/20 糸井翼

前の方のコメントと同じく、まさに身悶える話ですね。うらやましいです。この長さでは物足りない、話の前後のストーリーまで気になってしまいました。
素敵なお話をありがとうございます。

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