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19/01/31 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:2件 64GB 閲覧数:210

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 墨の中 仏の姿探すとも 十重二十重と 今日も生きれり

 この村に来て一年、いつの間にか私は一丈(約3メートル)の土中に生きたまま仏になるために座り、読経し瞑想している。目を開けて見える暗黒は、目を瞑っているよりも暗い。

「てめえが仏? てめえだって鬼か畜生だろうが!」
 暗闇から現れた男はかつて廻船問屋の番頭で、私が殺した男だ。私は彼の罪を被って縄を打たれた。私には継ぐ家がなかったからだ。ただ死に別れた女房との間に白痴の子供がいた。罪を被る代償に子供の面倒を一生みると約束したので罪人として腕に墨を入れた。しかし、その男は子供を川に突き落とし殺した。その時から私の中に鬼が住んだ。彼を見つけ出し、なますにして店の壁に細かく吊るした。すぐに御用になったが仔細を御番所に届け出た者によって温情を戴き仏門に帰依した後所払いとなったのだ。

「お坊さん!どこから来たの?なんて名前?」
 村の入り口で屈託のない眼をした男の子が話かけてきた。
「江戸からさ。名前は壊行(かいこう)と言う者だ」
 村に一つだけの寺は和尚が死んで荒れ果てていたので、この地に留まり皆の為に経を読んでやろうと決心して経を読んでいると、腹が痛いとか、肩が上がらない、蛇に噛まれた等の病人が来るようになった。そこで腹をさすってやると「不思議だ!法力によって治った!」という者が現れるようになった。
いつのまにか壊行海上人と呼ばれていた。村人は供物を日増しに多く寺に届けるようになり、私はすっかり上人様と持ち上げられていた。私には御仏がついている。その自信が思い違いをしていたのだろう……目の前で喜んで治ったと叫ぶ村人を見ていると仏に導かれてこの地に来て本当に良かったと思った。

「上人様、今日から漆を始めさせていただきます」
 村人がやってきて言った。
 竹をくり抜いたものが二本地面に突き出している。そこに漆の樹液を流すのだ。体を腐らせないようにするためである。漆は体には毒となる物なので、漆を飲めばもってあと二日かと思われれる。わかったという意味を含む鈴の音をさせる。

コロンコロン……

 暗闇から村の長が現れた。
「あなた様は誠にもって徳の高いお坊様じゃ」
 村の長が酒を注ぎながら言った。
「この数年流行り病だの飢饉だのと死ぬことに困らない世の中になっておりました」
「いかにも」
「しかし、上人様が来られてからは村人達は元気を取り戻し、イナゴも飢饉も来なくなった。本当に礼を申します」
村の長は深々と頭をたれた。
「いや、それは違う。私ではない。ただ御仏の力が現れているにすぎないのだ」
「いえいえ、上人様の法力でございます。そこでお願いがございます。誠に言い辛い話しでございますが……」
そこで村の長は居ずまいをただした。「生きたまま滅し仏となりその法力で次の世もまた次の世もこの村を御守りいただけないでしょうか?」
 あまりに突然だったので何も返事ができないでいると「上人様お願いだよ!お願いだよ」
突然村の童が入ってきて袈裟に縋り付いてきた。最初に見たあの童であった。その純粋な目が心の奥まで一気に何かを運んできた。
 熟慮した上でそんなにも願われているのであるならばと、申し出を受けることにした。
どうせ人を殺めた身なのだ。心残りもない。この村の幸福を祈願し続けるのも悪くない。

 漆を飲んで二日経ったと思う。意識が繋がっているのか、もうすでに死んでいるのかわからなくなった時分に村人がやって来た。
「もう漆でおっ死んじまった頃だな」
「この坊主は元罪人だろう?村に来た時にちらっと刺青があるのを見たぜ」
「こんな奴に村に居座られたら本当に面倒だったぜ」
「村長の知恵っていうのかい?こんなに簡単に始末できるなんて思いもしなかったぜ」
「あ?簡単なんかじゃなかったよ。うちの童に飴まで買ってやって芝居させたんだぜ。十文もかかったんだからよ」
「俺だって痛くもない腹を痛てえって芝居をわざわざしたんだ」
「まあ、俺たちにしたら厄介払いをしたうえで村の柱になってもらえれば損はねぇ」
「はははははっ! まあそういうことだ」

 歯が細かくカチカチと鳴っている。

おのれ……たばかったか……よくも……

お前らのためになぜ私は死なんとならん……

呪ってやる……

死にたくない……

こんなところで……

よくも……

死にたくない……

死にたくない……

死にたくな……

死にたく……

死にた……

死に……

死……

……

 次の日、漆を届けた村人は竹が二本とも弾けたように裂けているのを見た。


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このストーリーに関するコメント

19/02/01 雪野 降太

拝読しました。
閉じられた世界に安寧を見出す集落らしさが表現されていると感じました。よそ者は爪弾きにされる、という意味でもコンテストテーマに添った内容であったと思います。
読ませていただいてありがとうございました。

19/02/01 64GB

火奈樋 ソギ様
お待ちしておりました。秀逸なコメントありがとうございます。一捻り入れてくるところなど流石としか言いようがありません。(^^)

今回は書いていて自分で具合悪くなるという作品になりました。書いていて楽しくなかったので、読んでくださる方も具合悪くなってしまうでしょうね。多分この手のものはもう書かない予定です。
(c" ತ,_ತ)

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