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村沢走さん

村沢走と申します。現在、月に一度のペースで執筆中。

性別 男性
将来の夢 恐竜になる事
座右の銘 石の上にも三年

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ハッシュ

19/01/23 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:2件 村沢走 閲覧数:161

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 深閑たる平原を抜けると、其処に湖は在って、二人は水上ボートの横に着く。「乗ろうか」「云」。と呟き合って、其の日二回目のチャンスが来る。僕は、美織ちゃんの手を引くと、漫ろ足になって、湖を渡る。――美織ちゃんは、クラスのマドンナだった。斯うしてデート出来たのも、小百合の御蔭であった。小足払いにも似た衝撃で、ぐらりとボートが揺れる。僕は、「きゃ」と残した美織ちゃんを支え、船着場の板を愛でた。有り難う。小百合。御蔭で斯うして良い所を見せられた。人知れず夕紅を食み、手漕ぎボートの横迄来る。美織ちゃんは呆けた様に、「こ、此れに乗るの……?」と、呟く。「云。今の時期はコイツが良いよ」と言って、僕は仕舞った。と零してしまう。彼女との――小百合との思い出が、此れだった。小百合とは、幼稚園の頃から一緒だった。只、何の因果か、斯うして離別していた。美織ちゃんは、優しい人でもあった。「良、良いの――……? 小百合ちゃんに誤解されちゃうよ?」とは残し、デートの誘いに応じてくれた。「構わないって」と、告げた僕は、何処かで物寂しさを感じてはいた。小百合の方からの御薦めでもあった。美織ちゃんとは、正式な御付き合いをしたかった。只、小百合の告発は、僕に幾分かの不安を与えた――……。美織ちゃんはね、洋次。幾人もの男を誑かす男泣かせの女よ。其の一言で、デートの意味は変わってしまった。残念な事に、他に当て所もなかった僕は、小百合との思い出の場所迄、美織ちゃんを導いてしまった。此処は、二年前、初めての演習に使用した場所だった。小百合は言った。「洋次は晩生だからねえ。私が、付き合って上げるわよ。嗚、でも勘違いしないでよね。私、ボート乗りたいだけだからね」。小百合は言った。「少し位不器用だって良いよ。其の方が、異性として、意識出来るもん」。斯うも言った。「後、デート代は、自腹を切る事。駄目よ。女の子に負担させちゃあ」。幾多の情景が浮かび、僕は美織ちゃんを好意の対象として見れなくなっていた。薄切りの料理が食べたい。其れは、小百合が最も得意としている料理であった。恐らく、今頃は自宅で家事でも手伝っているに違いない。不義に弁説を繰ると、美織ちゃんも意地になって、僕を引き止める。小百合ちゃんからの紹介だって事は分かっていたけど――……と結んで、抱き着いて来る。湖の端で、僕等はぎこぎこ左右に揺れる。「此んなにも思い通りに行かない事って、有る物なのね……」。美織ちゃんは、良い香りがした。柔らかかった。人目も憚らずに、ロマンチックだった。僕は当て所を見付けた気がし、そっと、美織ちゃんを引き離した。「僕から誘って置いて御免――……。でも、僕には、想い人が居るんだ――……其れが、今日のデートで、はっきりしたんだ。御免よ――……美織ちゃん。本当に御免――……」。僕は駆けていた。来た道を戻り、必死で漕いで来た自転車を繰る。ハンドルを取られ、一回、あわや、という所迄傾き掛ける。美織ちゃんには、悪い事をしちゃったなあ……と、自省し、内証し、弾ける。もう僕を止める物は無かった。幼稚園の砌から、一緒だった。今でも互いの家を行き来していた。此れから其れが変わろうとしている――其れが、何んな風にかは、知らない。知りたくも、ない。只、我武者羅に出鱈目に、必死に自転車を漕いでいる。分かった事が有る。あの、薄くスライスされた、肉料理。其れこそが、僕に取っての、『家庭の味』なのだと。僕は思った。斯うも思った。自然涕が溢れて来て、美織ちゃんの姿がチラ付いた。でも駄目だ。此処で消えるんだ。――僕の行く手には、一軒のマンションが有り、509号室で、彼女は待っていた。「ど、如何したの――……」と、煎餅を齧りつつ、此んな風に告げる。美織ちゃんは――……? 正か、捨てて帰って来た訳じゃないわよね――……? 其の言に、斯う応えた――……。云。御免。御前の努力は無駄になった。只、一度で良い。あの肉料理を振る舞ってくれないか――……? 其の言に、呆れた様に折り返すと、彼女はそそくさと自室の扉を潜った。そして其処から出て来る事は、二度となかった。只、一言。此んな風に告げた。「私――……私も、洋次の事、好きだよ」。


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このストーリーに関するコメント

19/01/25 雪野 降太

拝読しました。
『でも勘違いしないでよね。私、ボート乗りたいだけだからね』というセリフに何とも言えない懐かしさを感じました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/26 村沢走

 火奈樋 ソギ様。有り難う御座います。会話の妙というのが苦手気味なので、そう言って頂けると幸いです。2000文字というのは難しいですね。

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