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霜月秋旻さん

しもづきあきぞらと申します。 日々の暮らしの中からモノガタリを見つけ出し、テーマに沿って書いていきます。

性別 男性
将来の夢
座右の銘 不言実行

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居場所

19/01/21 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:0件 霜月秋旻 閲覧数:333

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 自分の手と足をどこかに置いてきた。

 最近、どうも手と足の感覚が無いなとは思っていた。もっともそんなこと言うと、じゃあどうやってメシ食ったり仕事行ったりしてたんだ?と誰かに問われるだろう。たしかにその通り。自分でもよくわからんのだ。メシを食ったという感覚が無いのに腹はいつのまにか膨れているし、職場の俺のタイムカードにはしっかり就労時間が印字されている。まるで自分の肢体の操作権を誰かに乗っ取られてるかのようだ。誰かが俺の代わりに為すべきことを為しているのかもしれない。そう考えているこの頭と、呼吸をしているこの胴体だけはどうやら正真正銘、自分自身のもので間違いないようだ。
 自分がなにかをしている、していたという課程は無いのに、メシを食ったという結果だけが、俺の胃袋に残っている。これじゃあまるでタダメシ食いだ。こんな状態になったのはいったいいつからだろう?この肢体は、物理的には俺の胴体にくっついていて俺の手足に間違いない。しかし精神的には違う。分離している。いつからかはわからない。
 手と足だけじゃない。目と耳も口も、顔にくっついているだけ。ただあるだけ。見えてはいるが観てはいない。聞こえてはいるが聴いていない。なにを食べても舌は味を感知しない。手も足も目も耳も、ただそこにあるだけ。ただ形を成しているだけ。自分の意志で動いている、動かしているという感覚が無く、ただ時間だけがどんどん過ぎていく…。
 まわりの人間が動いたり話したりしているのを、俺はただ見たり聞いたりしているだけ。自分の家でさえ、まるで自分の家では無い、仮住まいのようだ。かつて自分のものだと思っていた体、名前、住所、固定資産、電話番号、道具、家族、仲間だと思っていた人間など、なにもかもが、考えれば考えるほどどんどん自分のものではないように思えてくる。すべて誰かから借りていたものだ。

 きっと今の俺は、なにをどうしようが誰にも関係なく迷惑もかけない、自由な身なのだ。そう言えば聞こえがいいが、悪く言えば、いてもいなくても、誰にとってもどうでもいいということ。それもそうだ。俺はいままで、どんなことからも逃げてきたのだから。自分が負うべき責任、自分がすべき物事を常に誰かにおしつけ、楽ばかりしていた。目立つようなことはせず、人間関係が面倒だからと人付き合いも避けてきた。能動的な行動を避けてきた、その結果が今の俺だ。誰にも相手にされず、地に足がついている感覚が無い。この世界に存在しているという、存在している感覚が、まるでない。
 俺はいったい何者だ?俺の居場所はいったいどこだ?なにをどうしたら、誰かにこっちを見てもらえるのだろう?そんなことを考えながら、あっちこっち道をふらついていると、突然野良犬に尻を噛まれた。その瞬間、鋭い痛みが全身を駆け巡った。野良犬は吠えながら俺を睨んで、今にもまた俺に襲い掛かりそうだった。全身を震わせ、地面を足で踏みしめながらゆっくりと後ずさりして逃げようとしている俺が、確かにそこに存在していた。 


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