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mokugyoさん

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落下中着地中

19/01/21 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:1件 mokugyo 閲覧数:89

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俺は、青空をどこまでも落下している。

雲をぬけて青空をどこまでも落ちていく。遠くに見える太陽がまぶしいのだが、そんなまぶしさ以上に空しいのが、なかなか着地しないことだ。

ようやく見えてきたのが空に浮かぶプラットホーム。あんな所に落ちたくはないと思っていたが、残念ながらアスファルトがはげかけているプラットホームに、見事に着地した。

勢いよく落ちても死ななないものだなと思っていると、小さな木のベンチで列車を待っている老人がこう言う。

「無様な着地だな。そんな姿勢では終われないだろう」

なんと、ふてぶてしい老人だ。初対面の人間に対して失礼な。だが、礼儀以上に俺はこの不思議な状況について疑問を抱かざるを得ない。

「教えてくれ、空に浮かぶこのプラットホームは何だ?あなたは誰だ?俺はどこから落ちているんだ?」

「質問したら必ず答えてもらえると思うな。さあ、列車が来る」

老人がそう言うとおり、空の彼方よりブルートレインが走ってくる。あの列車に乗れば、俺も目的地に到着できるのか。

わずかな期待を胸に列車を待っていたが、風でプラットホームが大きく揺れる。平衡感覚を失っていた俺は足を踏み外して、再び俺は大空に落下した。ブルートレインに乗り込んだ老人が俺を見降ろしながらこうささやく。

「そのまま着地を続けるんだ」

着地を続けるとはどういう意味だ?地に足を着けたい気持ちはあるが、大空に対し俺は無力だ。

しばらく落下すると、今度は雲の中に落ちていく。何層もの雲を抜けると、唐突に地面に土が現れた。勢いよく着地したショックでしばらく状況が呑み込めない。

象の鼻息が顔にあたり、ようやく俺は起き上がって周囲を見渡すことになる。

空に浮かぶ小さな動物園に着地したようだ。猿とキリンと象とフラミンゴがいる。俺が着地したのは、幸いにも人が動物を眺めているスペースだ。檻の中ではなくほっとしている自分の傲慢さに呆れる。幼稚園児の少年が一人で猿を眺めていたが、俺の存在に気付き、こう話しかけてくる。

「空の上でどうやって動物が生きているの?」

俺が答えられるわけもない。だが、少年の瞳には逆らえず、思わず俺はこうこぼす。

「着地している限り、どこかに足を着けているかぎり、人も動物も生きていられるんだ」

この答えで合っているのかは分からなかったが、少年はわずかに微笑んだ。

そして、また猿や象を楽しそうに眺めている。彼は、一人でこんな場所にいて心細くないのか。

そんな疑問を投げかけている暇もなく、俺はまたバランスを崩し、動物園の端から落っこちる。

またもや青い空を落下してく俺。どこまで落ちれば気が済むのだろうか。この先にきちんと着地できる大地はあるのだろうか。雲にまみれている大空をかなりの勢いで落下していると、きちんと周囲を見渡すこともかなわない。

黒い雲の塊を何層も抜けて、巨大な文字が書いてある床に着地した。文字はよく見たら数字だ。長針につまづき、ようやく自分が巨大な時計の上に着地したことを知る。

自分が着地したのは、人間の体の6倍はある巨大な時計だ。周囲には無数の小さな時計が浮かんでおり、それぞれ別々のペースで時を刻んでいる。

足元の巨大な時計が12時を指すと、ゴーンという巨大な音が鳴った。6の数字が書かれていた板が開き、時計の中から女が現れる。女は体中に時計を巻き付けていた。

「落ち続ける気分はどう?」

開口一番、冷めたまなざしでこう質問してきた時計の女に対し、俺はしぶしぶ答える。

「あんまり良いものではない。不安定でどこに行くか見えない。地に足を着けて生活したいもんだよ」

これ以上の気の利いた返答が浮かばない。女は呆れた表情でささやく。

「簡単に着地できると思っちゃダメよ。過去のあなたも未来のあなたも、一時的に着地しているに過ぎない。常に時間は動き、着地点は絶えず変化している。それに気付けただけでも、あなたは幸運なの」

女の説教はよく分からなかったが、何となく俺は安心感のようなものを覚えてバランスを崩し、時計から落下した。

暗い雲の中をを落下していく。今度こそどこかに着地し終わるのか。

そう思った矢先に雲が晴れ、青い海が視界に入ってきた。

海をのぞむ崖の上に着地し、しばらく意識を失った俺。

太陽に反射する海の光で目覚めて気付く。

崖から身を投げたつもりがバランスを崩し、大空に落下してしまったのだ。時間と記憶までも超えて未来と過去の自分を通り過ぎ、時間の番人に説教を受けて、ここまで戻ってきてしまった。落ち方が下手過ぎてまともに着地もできないから、このざまだ。

とりあえず地に足は着いた。だが、まだきちんと人生を着地させることはできないようだ。俺は海と空の青さに笑い、海を背にして歩き出した。

(終)


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このストーリーに関するコメント

19/01/23 イト=サム・キニー

拝読しました。
『質問したら必ず答えてもらえると思うな』。おっしゃるとおりだと思いました。
読ませていただいてありがとうございました。

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