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クナリさん

小説が出版されました。 『黒手毬珈琲館に灯はともる 〜優しい雨と、オレンジ・カプチーノ〜』 マイナビ出版ファン文庫より発売中です(表紙:六七質 様)。 http://www.amazon.co.jp/dp/4839958211 twitterアカウント:@sawanokurakunar

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将来の夢 絵本作家
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獣の別名

19/01/21 コンテスト(テーマ):第165回 時空モノガタリ文学賞 【 弾ける 】 コメント:4件 クナリ 閲覧数:173

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 高校二年の十二月。放課後の、人影のない帰路で、クラスメイトのホナミが私に言った。
「ハルノ。あなた、エクスプローダだよね」
「違うと思うけど」
「絶対そうだよ。私、お兄ちゃんがそうだから分かるの」
「やめてよ」
「試してみればいいよ。ほら、あそこに野良猫がいるでしょう。手をかざして」
 ホナミが私の手を掲げる。三メートルほど先の路地にいる猫に掌を向けさせられた。
「破裂する光景をしばらくイメージするだけで発動するから。お兄ちゃんがそう言ってた」
 そう言われて、十数秒後。
 いきなり猫の頭が弾け飛んだ。
 私は悲鳴をあげ、ホナミは「やっぱり」とうなずく。
「そんな……」
「ハルノ、自分では知ってたの?」
「そんなわけないじゃない……」



 エクスプローダは、ほとんど普通の人間と変わらない。
 ただ、手をかざして念じると生物の頭を破裂させることができる。
 その存在が確認されたのは、十数年前。相次いで発見された彼らは当然、世界中で大問題になった。
 自分がエクスプローダかどうかは、生き物の頭を爆破しなければ確認できない。しかも、犬猫以上のサイズの哺乳類でなくては発動せず、例えばトカゲや虫では確かめられない。一生自覚しない人だって、多分にいる。

 ホナミの兄は、私たちよりも一つ年上で、同じ高校に通っていた。
 私も何度も会っていたし、それなりに心を許してもいた。
 それが今年の夏、担任教師の頭を爆破して、逮捕された。彼にはエクスプローダの自覚があったので、意図的な殺人として扱われた。
 夏休み明けにホナミが、
「未成年だし、死刑ではないみたい。票を握ってる人権団体の影響もあるって」
などと言っていた。呑気なものだな、と思った。



 冬休みが過ぎ、三学期がやってきた。
 国内各地と同じように、学校の周りでも、エクスプローダの仕業らしい通り魔事件が二三件起きている。
 でも、私の生活は特に変わりはなかった。ホナミも「私の頭を爆破したりしないでしょ? そしたらハルノは普通の人間と変わらないじゃん」と笑っていた。

 その事件が起きたのは、一月最後の金曜日の放課後だった。
 校舎裏で待ち合わせしていたホナミが、なかなか来ない。
 スマートフォンを握った時、「ハルノ」と呼ばれた。
「ホナミ。どうしたの、それ」
 ホナミは、紺のコートと制服をひどく乱れさせ、泣きはらした顔で歩み寄ってきた。
「高木先生に襲われたの。部室棟に呼び出されて、いきなり……。ハルノお願い、あいつを殺して」
「何を」
「エクスプローダの爆破なら、誰がやったか分からないでしょ? 私はもちろん誰にも言わない。だから」
 ホナミが私にすがりついてきた。
「できないよ……」
「お願い、ハルノ。私は高木が許せないの」
「お兄さんを逮捕させたから?」
 ホナミの動きが、ぴたりと止まった。
「お兄さんが担任を爆破したって証言したのが、高木先生だよね。報道はされなかったけど、その担任と高木先生は、二人で、お兄さんが私に空き教室で乱暴してきたのを止めてくれたの」
 私の顔のすぐ下で、ホナミが目を剥いた。本当に知らなかったようだ。
「ホナミ、私にはできないよね。私はエクスプローダじゃない。普通は、人間はもちろん、猫だってそんなに簡単に殺せない。私はあの猫の爆破を、イメージなんてできなかったんだもの。なのに猫は死んだ。それができたのは、ホナミしかいない。目的は、私をエクスプローダだと思い込ませた上で、憎い高木先生を殺すためだったのね。もし私が後から自責の念に駆られても、私が自首するだけ。エクスプローダかどうかなんて、自己申告だもの」
 ホナミが私から離れた。涙は止まっている。
「ホナミは、私が言われたままに高木先生を殺すと思ったの? それなら、随分私の価値観とはかけ離れてる。そうなるまでに、今まで何人くらい爆破したの? 学校の周りの通り魔事件は――練習のつもり?」
 ホナミが私に向かって、うかつにも右手をかざした。
 その手を、私は、抱きつかれた時には既に握り込んでいたカッターナイフで切りつけた。鮮血が舞う。
「ぐっ!」
 殺すつもりはない。でも、両手の掌を無力化しなくては。踏み込んだ時、視界の端に人影が見えた。
 一年生の女子のようだ。掌を私に向けている。
「動かないで!」
 ぞっとした。
 今だけ見れば、私は、暴行魔だ。それを、正義感に駆られたあの子が、近づかずに止める方法が――彼女がエクスプローダであるなら――自明にある。
 待って、と言う前に、ホナミが私に左手を向けていた。
 私は自分の頭が弾ける音を聞いた。

 彼女にとって、私は何だったのだろう。
 私にとって、彼女は何だったのだろう。

 細切れになった脳髄で、私は宙を舞いながら、最後にそんなことを思った。


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このストーリーに関するコメント

19/01/25 イト=サム・キニー

拝読しました。
条件付きとはいえ任意の対象者の頭を爆散させる超能力は驚きの設定でした。『十数年』の月日を経てもなお『自己申告』でしか罪に問えない社会構造のなかで、ここまで生き抜いてきた主人公はきっと強い人だったのだろうと感じました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/02/02 クナリ

火奈樋ソギさん>
私の場合、掌編は世界観の説明を(最小限しか)しないで展開だけ書くのが好きなので、突飛な設定や世界観をよく出すのですが、これはその最たる例ですね…。
コメントありがとうございます、励みになります。

19/02/06 霜月 秋旻

クナリさん、拝読しました。
面白かったです。まさかホナミがエクスプローダだったとは!これ、映像化したらかなりエグいですよね(苦笑)観てみたい反面観るのが怖いです(笑)

19/02/09 クナリ

霜月秋旻さん>
ありがとうございます!
映像面に関してはみなさまの想像力におすがりしていますが、ビジュアル的にはかなりヒドイですね(^^;)。
よくこんな能力者と共存してるなあ、と感心します(おい)。

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