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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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ふらい あんど らんでぃんぐ

19/01/21 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:2件 そらの珊瑚 閲覧数:170

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 写真部の部室に入ると何かが臭った。
「この写真撮ったの誰?」
 そう言って中にいた部員の一人に詰め寄り、持ってきた校内新聞を見せた。
「これなんだけど」
 陸上部特集と題されたいくつかの写真の中で、自分が走り高跳びをしている写真を指さす。
「それならたぶんテッシーじゃないかな。テッシー、お客さんだよ」
 呼びかけに、黒い幕の中から女子が出てきた。
「お客さん?」
「大した用でもないんだけど、キミがこれ撮った、テッシー、さん?」
「……はい。えっ? は、原大地? 本人?」
「まあ」
「あ、呼び捨て、ごめんなさい。でもなんで? もしかしてクレームとか。ごめんなさい、ごめんなさい。陸上部のスター選手の原さまを、わたくしごときが写真撮っちゃって。でも、これはあれでして。ちゃんと学校の要請に基づいたものでして。決して盗み撮りとかじゃないんです。ええい、もう、白状すると時々原君の跳ぶの、こっそり屋上から撮ったりもしちゃってて。写真の出来もイマイチでしたか? ああ、本当にごめんなさい」
 テッシーと呼ばれるその子はひどく狼狽して、しかも饒舌だった。たぶん自己完結して自滅するタイプなんだろう。頭を上げた顔は、湯気の出そうなほど蒸気して赤かった。
「クレームなんかじゃないよ。どっちかっていうとその逆。真逆」
「へっ?」
「ありがとう。お礼言いたくて。走り高跳びの写真って普通下から撮るじゃない。でもこれは空から撮ってるよね。空から、っていうのも変か。屋上から望遠で撮ったのかって思ったらやっぱりね。僕、こんな風に空を見て跳んでたんだね。しかもちょっと笑ってる」
 テッシーは大きな目玉をさらに見開いた。そしてみるみるうちにそこから透明な水を排出した。テッシーって、火は吹かず、涙を吹き出す怪獣なのか。
「ぼんどですが? ごじらごそ、あびがとう」泣き怪獣と化したテッシーは、うまく言葉を操れなくなってしまったらしい。
 傍の部員が「ほんとですか? こちらこそ、ありがとう、と言ってます」と人間の言葉に通訳した。
「ところで、これ何の臭い?」と聞くと
「びりゅむの、げんじょの、ざくさん……ぐざくで、ずみまぜん」答え、すかさずまた部員が
「フィルムの現像に必要な溶剤の酢酸のにおいかと。臭くてすみません」と通訳した。ナイスフォロー。臭いのがまるで自分のせいだといわんばかりに頭を下げるテッシーの姿に、僕の心のイガイガ怪獣のイガが少しだけ軽くなった。
 走り高跳びで高校一年で出したインターハイ記録が、日本国内歴代10位に入り、天才だともてはやされてから半年。最近は伸びなやんでいた。「あいつ終わったな」という噂する陸上部員もいた。イガイガ怪獣が育つにつれ、その分だけ僕は重くなり、空を跳べなくなっていたのだった。

 それを機に、テッシーは僕の専属カメラマンになった。

 しかし、残念ながら高校三年で出場したインターハイではいい成績を残せなかった。

 三年生となり部活を引退してからも僕は日課のように運動公園を走っている。高跳びで高く跳ぶ為には、助走の脚力も必要なのだ。
 途中でカメラを構えたテッシーがいつものようにシャッターを切る。そんな日常も卒業すれば終わる。
「お疲れ」
 ロードワークを終えた僕に、テッシーが投げて寄越したスポーツドリンクが放物線を描き、ずしんと僕の手に着地した。
「原君は進路決めた?」
「迷ってる。実業団か、大学か」
「そうなんだ。でも走り高跳びは続けるんだよね?」
「実はそれも迷ってる」
「私、原君の空を跳ぶ姿、好きだったなあ。一瞬、時が止まるかんじがして」
 空を跳ぶ。重力から解放される一瞬の快楽。後ろ向きに落ちていく怖さ。マットに着地した安堵感。震えるバーを見つめる。バーよ、落ちるなと祈る。その繰り返し。時々跳ぶ為に着地するのか、着地する為に跳ぶのか分からなくなる。意識したことはなかったけど、それをテッシーのレンズが支えてくれていた。
「ふうう」
 テッシーが道に生えている白い綿毛を飛ばした。
「秋にたんぽぽって珍しくない?」
 綿毛が空へ散っていく。それぞれ着地した場所で生きていくんだろう。
「てしがわらさん、元気で」
「やだ、私の苗字知ってたんだ。私のことなんか興味ないと思ってた。ああ、英会話勉強しなくちゃ」
「これから? 武士の情けじゃ、それを無謀と呼ばないでおく」
「ニューヨークでくじけそうになったら、原君の跳んでる写真を見るよ。私の最高の被写体だから」
 被写体という言葉に僕の心のどこかがちくりとした。卒業後テッシーはアメリカへ留学し写真の勉強をするという。相変わらず自己完結してる。でももう自滅はしないだろう。
 僕らは跳び、そして別々の場所に着地する。
 くじけそうになったら、僕はテッシーの放つ酢酸のにおいを思い出すよ。


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このストーリーに関するコメント

19/01/21 村沢走

 ごじらとゴジラが掛かってるのかな、と思いました。時々、跳ぶ為に着地するのか、着地する為に跳ぶのか分からなくなる、という一文にじーんと来ました。面白かったです。

19/01/22 そらの珊瑚

村沢走さん、読んでいただき、またコメントもありがとうございます。
ごじらの部分は、意図はしていなかったおですが書いてたらそうなりました。
気づいていただけて嬉しかったです。
テーマ「着地」について考えた時、跳ばなきゃ着地はしないなあと思い、それをセットにして
お話を考えてたら、こういうお話になった次第です。
面白いといっていただけてまたまた嬉しかったです♪

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