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森音藍斗さん

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そらをとぶもの

19/01/21 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:1件 森音藍斗 閲覧数:110

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 おおきくなったら鳥になりたくて、でもなれないから飛行機に乗ったんだ。
 速度、高度、風と気圧、左右上下前後のバランスを、体で感じることはできないけれど、数字と窓とにらめっこしながら雲の上を旅するのもなかなか楽しいものだった。
 隣に座る相棒は、ちょっと気に食わないけれど。
「今日はウラノスが荒れてんな」
 相棒が呟く。
「まあ、雲の上に出ちゃえばこっちのもんだ」
 滑走路の端に機体を付ける。ゴーの合図とともに、駆け出す。
 地響きの如く鳴っているのは、アスファルトを撫でる車輪の音と、機首が掻っ切る大気の音。
 普段生活していても意識しないけれど、僕らの周りは大気に満たされていて、そして、僕らはそれに触れる術を持つ。
 飛べる。
 そう確信したのと同時に、翼がふわりと風を掴む。車輪が地を離れる。
「気流を掴め、風に乗れ! 雲の上まで一直線だ!」
 高度とともに気持ちが上がる。世界は加速し、鼓動も加速する。相棒が徐に手を叩く。
「bravo」
 彼のこういう斜に構えて格好つけたところが苦手なんだ。僕は肩を竦めた。その瞬間に、機体がぐらついた。
 相棒が慌てて拍手をやめ、操縦桿を握った。
「何やってるんだ、馬鹿」
「すまない」
 肩なんて竦めたら、翼の角度が可笑しくなるのは当たり前だ――いや、じゃあ、手を叩いていたお前は一体。
「俺は嘴を鳴らしていたんだよ」
 都合のいいことを。
 僕は今度は肩を竦めず、kidding meと呟いた。

 気圧の谷だ、気を付けろ。積乱雲に巻き込まれるぞ。
 あっちに螺旋を描く上昇気流が分かるかい?
 このモンスーンを掴めば、あとはジェット気流でひとっ飛びだ。

「降りるぞ」
 相棒が頭を下げたのを見て、僕もそれに続く。
 翼を斜めに構え、滑走路をぐるりと回る。あそこに降り立てそうだ。上手くいけば、だけれど。
 翼を小刻みにコントロールし、速度と高度を落としていく。少し前を行く相棒が、とっとっとっと頼りない足で地面を辿り、翼を仕舞った。格好つけるだけあって、成程確かに技術はある。それもそれで憎たらしいのだ。彼のあとに続くべく、僕も翼を立てて、地面に向かって足を伸ばす。実は着陸は僕が最も苦手とするところだ。雲の上で風を読むのは好きなのだけれど、いずれは降りなければいけないのが難点だ。
 緊張の一瞬。
 突如、横風が吹いた。
 僕は思わず足を引っ込め、その横風を掴んで再び舞い上がった。
「俺なら降りられたな」
 相棒が僕の真下でそう笑った。これでは鳥の名が廃る。いつになったら慣れるのだろうか、彼に笑われるのは不本意だけれど、笑われるだけの臆病風は吹いたと自覚できるのがまた癪だ。
 吐いた溜息が腹から尾に流れ、僕は体勢を立て直す。
 もう一度。
 高度を下げる。速度も下げる。空気を抱くように翼を丸め、地面に足を伸ばす。
 足先が地面に触れるのを感じ、僕は翼を引き上げた。
 風を切る音に、車輪が地を滑る音が重なった。がたりと小さな揺れが、コックピットの椅子越しに伝わる。空を舞っていた鳥が、翼のついたただの自動車に変化する。
 着地成功。
「お見事」
 拍手が聞こえる。僕は安堵の息を吐く。相棒は満足げに微笑む。機体はゆっくりと滑走路を走行し、到着口を目指す。
 おおきくなっても鳥にはなれなかったけれど、空を飛ぶことは確かにできた。
 そして、
「着地の瞬間に力はいるのは相変わらずだな」
 わざわざ僕を揶揄う彼も、苦手な着地も、案外嫌いではないんだ。
 鳥にはなれなかったけれど、鳥に生まれずここに座っていることを、誇りに思っているんだ。


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このストーリーに関するコメント

19/01/21 雪野 降太

拝読しました。
妥協した結果としてのパイロット……とでも言うかのような冒頭に対して、『鳥に生まれずここに座っていることを、誇りに思っている』という締めくくりは、主人公の自負を感じられる力強いものに感じられました。
読ませていただいてありがとうございました。

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