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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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足枷同盟

19/01/20 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:3件 小高まあな 閲覧数:172

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 三十代後半。友人が次々と結婚して、子持ちになっていく。
「お前もそろそろ地に足つけろよー」
 そんな言葉に苦笑いを返す。
 地に足つけるって、なんだよ。どういうことだよ。どいつもこいつもバカにして。ムカムカしながら食事から帰った翌朝、俺は宙に浮いていた。五センチぐらい。まじかよ。
 歩いても進まないので、家具に捕まりつつ、手で進む。
 いやいや、地に足ついてないって、物理的にかよ。
 医者に行こうかとも考えたが、こんな不可思議な状態を人目に触れたら、人体実験でもされそうだ。怖いな、やめようかな。っていうか、どうやって行けばいいんだ?
 体調不良で休む旨を会社に伝えると、そのままスマホで検索を始めた。
 まあ、宙に浮き出したなんて事例、全然見つからないけど。
 キーワードを変えたりしてネットを彷徨うこと、数時間。一体何をいれて、どうやったのかは不明だが、そのページがひっかかった。
「足枷同盟?」
 変なタイトルに首を傾げつつ、とりあえず開く。
「人生的な足枷こそが、地に足をつけることなのです」
 トップページの文字が目に飛び込んできた。おおっ、これでは?! いや、わかんないけど!
 藁にもすがる思いで、ページを読み進めていく。
 そのページによると、地に足をつけるということは、仕事とか家族とかそういうしがらみという名の足枷をさせられることにより、足が重くなり、地に足がつくっていうことらしい。なんか、モテないやつのひがみっぽいな。こじらせてんな!
 自分の足を見る。
 でもまあ確かに、俺には特にしがらみがない。独身だし、カノジョもいないし、仕事も特に責任もないヒラだし。
「そりゃあ、地に足着いてないっていわれるよなー」
 しかし、それがわかったところで、俺はどうしたらいいのか。今すぐにそんな足枷をつけれるわけでもないし、っていうかそれが現状を打破するとも限らないんだけど。
 と、ページをスクロールしていくと、某通販サイトの広告が表示されていた。「地に足をついている状態を偽装したい人にオススメ!」なんていう煽り文言とともに。
 そのページに飛ぶと、足枷が売っていた。重りつきの。なんぞ、これ。
 どうも買った人にしか見えないもので、でもつけると地に足がついた落ち着いた大人に見えるらしい。うさんくせー。
 でも販売しているのは大手通販サイトだし、値段も2千円でこの宙に浮いた奇怪な状態を解決してくれるなら安いし。そして、後10分以内に頼むと本日中のお届けだし。
「えーい、ままよ!」
 ポチった。
 その足枷とやらは、一番遅い荷物で届いた。取り出してみると、漫画で囚人がつけてそうな重りつきのやつだった。ほらあの、丸い重り。
「うーん、うさんくさい」
 まあ、気に入らなければ外せばいいし。仕事溜まってるから明日は出社したいし。一生宙に浮いたままってわけにはいかないし、歩けないから。
 背に腹はかえられず、つけてみる。
「お、おお?」
 確かに足は重たいが、宙に浮いていた俺の足が地面についた。無事、着地だ。
「すげー」
 問題はこれが本当に他人から見えないのかだが。見えてたら俺、やべーやつだよな。足枷つけてるなんて、SMプレイ?
 ちょっと悩んでコンビニに向かうことにする。すれ違う人が俺をジロジロ見る……なんてことはない。
 弁当を買って、レジに行って。レジのにーちゃんも何も言わない。
「あ、あの、この足、どうですかね?」
「はぁ?」
 やべーやつだから関わらないようにしているのかと思ってそう聞いてみると、変な顔をされた。今この瞬間にやべーやつになった。
「何がっすか?」
「あ、なんでもないです」
 すみませんすみませんと頭を下げて家に帰った。
 翌日、普通に出社してみたところ、会社の人にも特に何も言われなかった。まじで見えないらしい。いやーでもよかったよかった。このまま宙に浮きっぱなしだったらどうしようかと思った。

 さて、足枷だが奇妙な副産物もあった。
 地に足がついた大人に見える、というのは間違いではなかったらしい。なんだか最近しっかりしているよなと評価があがり、給料があがった。割と好ましく思っていた同僚が、「最近なんかいいよね」と声をかけてきて付き合うことになった。
 難点は、足が重いのでちょっと素早い行動ができないこと。結果妙に足の筋肉がついたこと。
 そして、鍵を無くしたので外せないことだ。まあ、仮に鍵があったところで、この足枷補正がかかった状態での評価をなくすのは怖いから、きっと俺は外せないけれども。
 この不思議な力に頼りきっている、俺の心はまだふわふわと宙をさまよっているから。


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このストーリーに関するコメント

19/01/21 村沢走

 拝読しました。過剰修飾が無くて読み易く、且つテーマにも沿っている。是非入選して欲しい作品だと思いました。大変面白かったてす。

19/01/21 文月めぐ

拝読いたしました。
テーマに対するアプローチの仕方、面白いと思いました。
テンポが良く、読みやすい作品でした。

19/01/21 イト=サム・キニー

拝読しました。
面白かったです。部屋の中を5cm浮いた状態で移動するのは大変そうだと感じました。『歩いても進まないので、家具に捕まりつつ、手で進む。』とあるので、手が何にも届かなかったらきっと絶望しただろうな、と感じます。翌朝になって浮いていたということは、寝ていても浮いていて、きっとトイレもままならないことでしょう。
読ませていただいてありがとうございました。

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