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若早称平さん

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そして、動き出す

19/01/18 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:1件 若早称平 閲覧数:168

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 ドラえもんが靴を履かないのは少し宙に浮いているからだ。そう教えてくれたのはたしか中学時代の同級生だったと思う。それを聞いて俺と同じだな、と思った。
 ほんの少しだけ、数センチ宙に浮くことができるようになったきっかけをもう覚えていない。ただ人に話したら研究所に連れて行かれて一生人体実験をされるという恐怖心があったのはよく覚えている。この能力をどう使おうか悩み、人にバレたらどうしようと悩み、高校のときに親友の高瀬に相談したことがあった。もちろん直球でではない。「もしちょっとだけ浮くことができたらお前どうする?」といったものだ。彼は暇つぶしの話題だと思ったのだろう、よく考えもせずに、宗教を作るだとか、足跡を使ったトリックで完全犯罪をするだとか言っていた。

 その高瀬から久しぶりに連絡があった。卒業してもしばらくは交友があったのだが、就職してお互いに忙しくなってからは自然と疎遠になってしまった。まあ、よくある話だ。
 待ち合わせたのは駅前の居酒屋チェーン店だった。十年振りの再会とはいえ三十過ぎのおっさん二人が抱き合う姿は周りにどう映っただろう? そんなことも気にすることなく俺達は思い出話に花を咲かせた。不思議とお互い近況には触れない。きっとあまりうまくいっていないことをお互いに察していたのだろう。
 どれくらい飲んだだろう? 酔い覚ましに夜の町を歩き、人気のない公園の前を通ったとき、前を歩いていた高瀬が振り返った。
「お前昔『もし宙に浮けたら……』って話してただろ?」
「よく覚えてるな、そんなこと」
 俺はもちろん覚えていた。なにせ自分自身の秘密にもっとも肉薄した瞬間だったから。
「本当に浮けるんじゃないか?」
「なに言ってんだよ。そんなわけないだろ?」
 言葉とは裏腹に一気に酔いが醒めた。
「俺今まで超能力とか信じてなかったんだけどさ、使えるようになったんだ」
「なにを?」
「超能力を」
 そう言って高瀬は足下の枝を拾った。それを高く投げる。「な?」
 なんのことだか分からない俺に高瀬は手を開いて見せる。さっき投げた枝がそこにあった。
「時間を止められるんだ。ただし、ジャンプしている間だけ」
 にわかには信じ難い。なにかトリックがあるんじゃないかと考えるのが普通だろう。だが、他ならぬ俺自身に超能力があるわけだ。それに高瀬はこんなくだらない嘘をつくような男ではない。俺は大きく深呼吸をした。すーっと全身が重力から解かれる感覚に包まれる。この能力を発揮したのは五年振りだが、相変わらず浮かべるのは二三センチというところだ。
「その状態で俺をおんぶするのは可能か?」
 試したことがなかった。なにせ人に見せるのだって初めてのことだ。高瀬が俺に背中に飛び乗るが彼の体重を感じることはなかった。
「すげーぞ! 最高の能力だよ!」
 俺の背中で高瀬が興奮気味に言う。
「ジャンプ中なんて長くても一秒も持たないだろ? どう使うかこの力を持て余してたんだよ。そんなときにお前のことを思い出してさ。ほら」
 高瀬が指差した先で散歩中の人と犬が不自然な状態で止まっていた。
「お前も人生そんなにうまくいってないんだろ? 俺と組もうぜ。最高のコンビニなれるぞ」

 それから俺は高瀬と行動を共にするようになった。やることといえばスリや窃盗といった犯罪だ。俺は浮いている間泳ぐようにして少しづつしか移動できない。それでも時間を止めるというのは実に完全犯罪向きだ。一年が経つ頃には高級マンションへ引っ越していた。
 その日は銀行の前で自動ドアが開いた瞬間時を止めた。いつものように空中を泳いで中に入る。俺達の完全犯罪はその手口こそ解明されていないものの世間を賑わすネタになっていた。犯罪が起きる現場にいつも居合わせる二人組がいたのでは疑いの目が向けられてしまう。現場から離れた場所で能力を使うようにしていたが警察の警戒も厳しくなっていた。「潮時」という二文字が俺の頭でちらつき始めていた。
「そろそろ足を洗う時期なんじゃないか?」
 ATMから引き出しされた現金を懐にしまっているとうっかり心の声が漏れてしまった。「辞めるっていうのか?」高瀬が背後で怒気を帯びた声を出す。だが一度声に出してしまってはもう止められない。
「もうしばらく遊んで暮らせるだけの金は手に入れたろ? せめて時間を空けないか? 一度地に足をつけてさ」
「そんな必要ない。俺達は完璧なんだよ。バレっこない。冷静になれよ」
「冷静になるのはお前の方だろ。俺がやらなきゃこの手口は成立しないんだ。俺はしばらくやらないぞ」
「そんなの許さねえぞ!」
 高瀬が後ろから首を絞める。抵抗するために両手の持っていた札束を投げ捨てる。あっ、と小さく呟いて高瀬が俺の背中なら離れる。彼の足が床に着地した瞬間、時は動き出した。


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このストーリーに関するコメント

19/01/18 雪野 降太

拝読しました。
面白かったです。中学時代には『宗教を作るだとか、足跡を使ったトリックで完全犯罪をするだとか』というアイデアを『よく考えもせずに』と切り捨てていた主人公――うまくいかない日々ゆえの鬱屈した想いもあるのでしょうが、自身の特殊性を躊躇なく犯罪行為に向けるようになった彼の成長の仕方が興味深かったです。
読ませていただいてありがとうございました。

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