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W・アーム・スープレックスさん

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着地失敗

19/01/10 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:3件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:188

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 惑星探査ロケット『クマタカ』は、その名のとおり鳥のように軽やかに地面を離れると、上空高く舞い上がっていった。めざすは地球から3万キロへだてた宇宙空間にうかぶ小惑星『ONIGASIMA』だった。
 『クマタカ』が無事離陸した瞬間、管制室でおおきな歓声があがった。だれよりよろこんだのはプロジェクトチームの主任であるサユリ・チャイカだった。彼女は精神分析医の権威でありまた、超能力研究においてもその名をしられる存在でもあった。
 彼女のまえには『クマタカ』を追尾するモニター画面と、もうひとつ、特別室の内部を映しだす画面がならんでいた。その室内には6名の男女が手をつなぎながら車座になっていた。かれらの一心に意識をこらしている様子はさながら、座禅僧のようだった。
 ここにいならぶ連中は、今回の『クマタカ』計画のためにサユリがそろえた世界でも有数の超能力者たちだった。『クマタカ』の推進力がかれらの念力によるものだということは、今回の計画がこれまでのものと比べまさに画期的とよばれるゆえんだった。この計画が発足した当初、そもそもそんなことが可能なのかというといかけに、サユリは参加した超能力者のひとり、アニタという女性を例にだして説明した。
 アニタはどんな物体も念力によって空中にもちあげることができた。重量は関係ない。約半トンの『クマダカ』くらいわけなかっただろう。ちなみにアニタは、このメンバーのなかのエンザという男性の妻で、二人は超能力者夫婦としても有名だった。
 他の4人もまた同様の超能力の持ち主ばかりで、過去数度の実験用ロケッを月に飛ばすことにも成果をだしていた。既成のイオンエンジンを使用すると、目的の小惑星に到着するのに3年あまりの年月がかかるが、かれらのサイキックパワーだと、おどろくなかれ、十数日ですんだ。なぜそんなことが可能かというと、メンバーの一人オカノが、テレポーテーションでは右にでるものがいないほどの天才で、彼の尽力によって何年もかかる距離を、瞬間移動することによって端折ることができたのだ。
 彼を今回のプロジェクトに参加させたのもサユリ自身だった。彼女がオカダを買うのはあくまでその類まれな能力のみで、彼の人間性にはかたく目をつぶっていた。男盛りのオカダは、女には目のない人間で、これはと思った相手なら何がなんでもものにしては、すぐに飽きて捨てるという体たらくを性懲りもなくくりかえす、サユリからみればまったく唾棄すべき男だった。また本来その方面ではタブーとされている精神感応力によって女の心をコントロールするという噂もあり、今回参加中のアニタのことが気がかりだったが、サユリが彼に直接、決して公私を混同しないようにと釘をさすとさすがに彼も、問題ないと、神妙な面持ちで誓った。 
 その彼が、こともあろうにアニタと手をつないで座っているのをサユリはみた。眼前には夫のエンザが座っている。事前にサユリはエンザに、奥さんの隣に座ったらとわざわざ水をむけてやったが彼は、厳粛な場に家庭をもちこむと気が散るといって辞退したのだ。
 サユリは、そんなかれらにまつわるこもごもした思いをふりかえりながらも、なにはともあれ『クマタカ』が、めざす小惑星に着地するまでの間はこのまま、何事もなくいってくれますようにと、心から祈りたい気持ちでふたたび、特別室を映すモニター画面に目をやった。
 超能力者たちがつくる円陣が、かすかに波打つようにうごいている。これは精神を集中するあまり全員が、一種のトランス状態にはいったことをものがたっていた。ひとつにまとまったかれらの念力がいま、強力な推進力となって探査ロケットを小惑星にむかってかりたてているのだ。   
 室内が完全防音になっているのもそのためで、わずかな物音、空気のながれひとつでさえ、超能力者たちの集中力をさまたげる原因になりかねなかった。
 しかし、その懸念も、ロケットが予定より数日はやく小惑星上空に到達したことで、一掃された。サユリの安堵ははかりしれなかった。
 あとは、『ONIGASIMA』に降下したのち、無事大地に着地するばかりとなった。
 そのとき、特別室を映していたモニター画面内に、異変がおこった。いきなりエンザが血相かえてたちあがると、オカダにとびかかっていったのだった。あとでわかったことだが、『クマタカ』が小惑星上空にきたとき、メンバーたちがほっと気をゆるめたときをのがさず、オカダがすばやくアニタのなかに、精神感応力でもぐりこみ、肉体の内側から彼女を犯そうとしたのをエンザが察したという次第だった。二人がもみあいながらころげまわったため、周囲のめんめんははげしく心をかきみだされた。
 管制室から、探査ロケットがきりきりまいしたあげく着地を失敗して大破した報せが、そのときサユリの耳にとどいた。


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このストーリーに関するコメント

19/01/12 堀田実

面白かったです。
近未来の超能力や科学が発達した世界でも人間の性は変わりませんね。

19/01/13 雪野 降太

拝読しました。
超能力者が一般に認知される社会では、産業も学術も法制度もきっと想像もつかないような構造になっているのだろうと空想したくなる作品でした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/13 W・アーム・スープレックス

実さん、コメントありがとうございます。
人間の性という意味では、類人猿の時代も現代も、そんなに変わりはないのではと、ときにおもったりすることがあります。


入戸月づきしさん、コメントありがとうございます。
そういう時代がいつか本当にくるとしたら、唯一超能力だけは、ロボットにはまねできない分野だと思います。

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