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堀田実さん

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未来人田中

19/01/05 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:2件 堀田実 閲覧数:281

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田中はいつにも増して憂いていた。なぜならいつまで経っても車が動かなかったからだ。車といっても多くの人が考え想像するような車ではなく、人間で作られた車であるという点を除けば確かに普通の車であることに違いはなかった。が、ここは100年後の日本であるのでそんなことも有りうるのだ。
なぜ100年もの間でこんなにも世界が変わってしまうのだろう、きっと多くの人がそう思うに違いない。なぜなら2019年の日本と言えば1年後に東京オリンピックを迎え5月には新元号になった新しい時代の転換点だったからだ。まさか100年後にはすべてが原子力あるいはクリーンエネルギーであることはおろか石油燃料さえ通り越して人力の時代を迎えているとは思うまい。
なぜ時代の変遷がこのような一見非効率な発達を遂げたかといえばすべては中国のバイオテクノロジーの想像を越えた発達に起因している。彼らにはかつて西洋人が発達させてきたモラルというものに全く興味がなかったので禁忌とされてきた遺伝子操作をなんの躊躇いもなく推し進めたのだ。
アメリカに代わり世界第一の経済軍事大国に躍り出てからは彼らの嗜好は今まで抑圧されていた西洋人に対する反感から、いとも簡単に遺伝子操作された白人の奴隷を作り出した。奴隷と言っても従順で決して反抗しないように遺伝子操作された試験管ベイビーなのだ。彼かには人という人権は与えられなかったし、そもそもそれは生体ロボットである、というのが彼らの主張だった。
もちろん当初は世界各国から反感があったが世界第一の大国に躍り出た中国のとっては煩わしい蠅の羽音としか思われなかった。
やがてかつては生体ロボットに反対していた国々も生体ロボットの輸入をはじめるようになる。中国からの圧力があったのは事実だが何よりそれは便利であり自尊心を満たしてくれるのだ。何でも言うことを聞く生体ロボットは従順なメイドになるし学習能力も人工知能に学習させるより簡単だった。
世界第二位に陥落したアメリカがいち早く彼らを輸入し始めた。自尊心を傷つけられたアメリカ人にとっては古き良き過去ーーー開拓時代ーーーを思い起こさせるのでなおさら受け入れられた。
ついで取り入れたのは意外にも日本だった。それには様々な考察があるが、日本は常に模倣の国だとか、アメリカの属国だからだとか、鉄腕アトムの国だからだとか、各国の研究者が主張している。
いずれにしろ日本をはじめ世界各国が彼らを取り入れてからは世界のエネルギー事情はすっかり変わってしまった。
2011年以降目指されていたクリーンエネルギーへの熱はすっかり冷めてしまいなぜならこの時既に、先導役のヨーロッパの国々が相次いで戦争をはじめていたので、新しいクリーンエネルギーとして消極的に彼らが受け入れられるようになっていた。
彼らは環境を破壊するどころか肥料を生成するしジャンクフードも食べないのでエネルギー効率は人間よりも優れていた。つい最近の新しいモードとして光合成タイプの生体ロボットが誕生するともはや排泄さえ必要ではなくなった。
エネルギーから労働への効率的な転換は20世紀の課題であったが、最高度の生体知能を持つ彼らにはそれが容易だった。彼らは自我を持たずに高度に考えることが出来るように改良され続け、ついには平均IQは人間で言えば200を越えるようになっていた。
彼らは人間より優れた機械であり生体知能であり、人間の欲望さえ満たしてしまうものなのだ。
しかし最近こんなことが起こりはじめている。それは日本に住む田中にも起こったことなのだが、最近彼らの労働効率が低下しはじめているのだ。エネルギーも知能も申し分がない。それにも関わらず人間で言えばやる気がない、というような症状を呈しはじめている。しかもそれは世界各国で同時に、同じような症状を呈しはじめているのだ。
中国の研究者たちはそれを一時的な不調、あるいはウイルスによる感染と説明していたが田中にはそうは思えなかった。
「きっとバチが当たったのだ」田中はそう思った。
あまりにも彼らの心を蔑ろにするので彼らの心が壊れてきているのだ、遺伝的に、積み重ねられた負債として。品種改良を重ねてもきっと先祖の記憶は残り続けるのだ。
「だとすればどうすればいい?」田中には考えても考えてもわからなかった。生体科学には詳しくないし、中国企業へクレームを入れたところでどうにもなりはしない。所詮生体ロボットの心なのだ。彼らは人間とは違う。きっと企業は心を改良するのだろう。田中はそう考えると怒りが込み上げてきた。「高い金を出したのに、まったくこのポンコツが」
数ヶ月後、田中の乗っていた車はリコールされる。それが100年後の世界の着地点なのだ。2019年に住んでいた人々はこのような世界を想像できただろうか。いや、出来なかったに違いない。


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このストーリーに関するコメント

19/01/12 雪野 降太

拝読しました。
『人間で作られた車』というものがどんな外観なのか想像ができませんでしたが、きっと作者様にはイメージが浮かんでいらっしゃるのだろうと思いました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/12 堀田実

おっしゃる通りですね。
僕のイメージではタイヤの部分から人間の足が出ているような四輪の人力車のようなイメージでした。
ご指摘ありがとうございました。

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