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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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恋は落とし穴

19/01/04 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:1件 浅月庵 閲覧数:258

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 俺の周りにはキュートな女の子がいっぱいいるので、みんなのことが好きになる。それで手当たり次第女神たちに告白しまくるけど玉砕続きで、だけど次々気になる子が出てくるもんだから、ずーーーっと幸せ。

 そんな思考回路が周りから見れば結構キツいみたいで、実際一人の女の子に人間性を咎められる。
「ちょっと頭おかしいんじゃないの」
 菱山時子。大学のサークルとバイト先が一緒で、家の方向も一緒なので、たまに二人で帰る。吊り目でいつも口調が厳しくて、全然可愛くない女の子だ。
「失礼なやっちゃな。どういう意味だよ」
「あんたが次から次へと好きな女の子変えて告白するから、周りからサイコ野郎だと思われてるよ」
「誰かが俺の連敗記録をストップさせてくれれば、それで終わるんだけどなぁ」
 俺はヘラヘラ笑うけど、彼女はまるで笑みを零さない。
「あんたのこと誰も知らない土地に拠点移して、そこで一から周りとの関係を構築するくらいじゃないと厳しいんじゃない」
 そこまで言われて俺はちょっとだけ凹むけど、好きな人がいっぱいいるって、別に悪いことじゃなくない?

 そんな風に、ポジティブに捉えて日々を過ごしていた俺の元に、ある日突然面倒事が飛びこんでくる。

「どしたん、その顔」俺は菱山さんの顔に貼られたガーゼを見つめながら聞いた。
「彼氏にやられた」
「え、菱山さんって彼氏いたの。なんか意外」
 俺の失礼な発言を受けて、間髪入れずに菱山さんの靴裏がスネの辺りに飛んでくる。
「そこはどうでもいいでしょ」
「ごめんごめん。え、殴られたってこと? なんで?」
「……バイト帰りに私があんたと二人で帰ってるとこを彼氏がたまたま見かけたらしくて。浮気を疑ってるというか、勘違い」
 うわー! すっごい交通事故。
「なんか悪いことしたな」一応謝る。俺だって常識くらいあるところを見せつける。
「そんで悪いんだけど。うちらの関係が潔白であることを、彼氏に証明したいの」
「俺も同行したらいいってわけね。いつ?」
「今日」
「喫茶店かどっかで?」
「うぅん。私の家で」

 修羅場到来!
 でも俺、一ミリも悪いことしてないから、別に謝る必要もないよな。

 ーーなぁんて思って菱山さんの家に着くと、すでに彼氏が腕を組んで待っている。
 船橋トールは売れないホストみたいな髪型をしていて、鮮度の悪い魚のような面をしていて“Im fine.”と書かれたTシャツを着ているので、俺は会った瞬間からムカついている。

 それで俺は菱山さんとの関係性を一から説明して、船橋を説得しても説得しても奴は聞く耳持たずで、舌打ちしたり「あーん?」なんて挑発してくる。
「こんなブスと俺が付き合うわけねぇだろ!」って馬の如く嘶きたいけど、そこは俺も大学生で良い大人なのでどうどうどう。

「てめぇ、いい加減認めろよコラ!」
 だけど船橋がテーブルを乗り越えて俺の胸倉を掴んできたとき、俺のなかでバチンとスイッチが入ってしまう。二人して立ち上がると船橋はかなりのチビなので、もう俺は火山大噴火。
「どうだ、痛いだろ! 自分がやられて嫌なことは、他人にしちゃいけないんだぞ!!」
 俺は小学生を諭すような格好悪いセリフを吐きながら、船橋トールをボッコボコに殴り倒して蹴り散らかす。菱山さんが泣きながら止めに入るけど、こんな奴どうなったって良くない?
「二度と菱山さんに手出すなよ! わかったか!?」
 船橋も泣きながら何度も頷くから、俺はようやく胸をスッとさせてその場を去る。

 それで一件落着は落着なんだけど、菱山さんはサークルを辞めバイトも辞め、俺とかなーーーり距離を置いて生きていくことになる。
 俺が菱山さんの彼氏を滅多打ちにした話は大学内に広まっているようで、さらにヤバい奴のレッテルを貼られるけど、俺は懲りずにミューズを探し続ける。どこだ、俺のミューズ!

 運命の子は残念ながらまだまだ見つからないけど、たまに見かける菱山時子の顔にまたガーゼがあって「まだあんな奴と付き合ってんのかよ」って思うけど、思うだけでなにもしない。これは本人たちの問題だ。

 ーーそんな毎日のなかで、ふと思ったことがある。恋は落ちるものって言うけど。
 きっと菱山時子も俺も、違う形をした恋の穴に落ち続けているのではないだろうか。他人になにを言われても自分を制御できない、そういう先の見えない穴に。

 Q.“恋”は落とし穴、では着地先はどこでしょう。
 A.もしかして“愛”だったりする?

 そんな恥ずかしいことを考えてみるけど、多分答えがわかっても、その解き方の過程を充実したものにしなければ「なるほどね!」って心が満足しないんだよね、きっと。

 ーー俺たちは多分、落ち着く場所を探している。
 そういう場所にいつか、菱山さんも俺も辿り着くと良いね。


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このストーリーに関するコメント

19/01/11 雪野 降太

拝読しました。
自己中心的に愛を探し続ける主人公。刹那主義かつ他者の本質に興味なんてないように見える彼にとって、『菱山さん』とのエピソードもまた、すぐに忘れ去ってしまうものなのかもしれません。そう考えると何とも寂しいお話に感じられました。
読ませていただいてありがとうございました。

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