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夜降雪都さん

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13/01/23 コンテスト(テーマ):【 映画館 】 コメント:1件 夜降雪都 閲覧数:1760

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カタカタと映写機の回る音が後ろから聞こえている。
スクリーンには子供が映し出されていた。
楽しそうに笑う顔や興味深々に蟲を捕まえ眺めている顔が映し出されている。
古いフィルム映画のようで、モノクロの映像は音もなく、気持ち早送り気味に写し出されていた。
映像の中の子供はどんどん成長していき、青年になった。
女性と出会い、恋をして、自分の気持ちを打ち明けるまでの葛藤や苦悶が写されていた。
そして告白し、想いは成就した。
友達や家族に祝福され、式を挙げた。
やがて、子供ができ家族が増えていった。
青年から父親になっていった。
子供を育てていく過程で、自分が子供だった頃の親の有難味を噛み締めていた。
そして子供との気持ちのすれ違いや、叱った後の後味の悪さに涙するシーンもあった。
しかし、やがて子供が大きくなり親になる頃、自分の子に「ありがとう」といわれ報われた気持ちでまた涙していた。
相変わらず音は無かったが、所々で字幕が出ては会話を説明していた。
そして幾時かのシーンが流れ、男の臨終が来た。
彼の周りには家族が集まり、意識の覚めない男に涙ながらに声をかけていた。
ふと、男の瞼がうっすらと開いた。
手を握る妻に「すまない、先にあちらで待っているから。」と告げると、家族を見回し微笑んだ。
「俺は幸せだった。」
男はそう言うと瞼を閉じ、二度と目を開けることはなかった。

ぷつりと音を立てて映像が止まった。
後には光だけが映されていた。
それを見ていた男がいた。
満足そうに微笑みながら俯いた。
「そうそう、これは生まれる前にも一度見せられたんだったなぁ。」
そう呟いた男に映写機を操作していた人物が声をかけた。
「良い人生だったようですね。最後に見返してみて如何でしたか?」
問われて男は振り向いた。
「おぉ、そこに居たのかい。いやぁ、生きてる間は生まれる前に見た人生の粗筋なんてちぃっとも思い出さなかったが、うん、俺はずれることなく幸せに生きた。悔いはないよ。」
「それはそれは。では未練無く逝けますね。」
「あぁ。あの世への道案内頼みますよ。」
そう言って男は席から立ち上がった。
「それでは走馬灯の上映を終了致します。」
そう言うと映写機の明かりが落ちた。


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このストーリーに関するコメント

13/03/08 石蕗亮

訪問いただきありがとうございました。
こちらからもまた訪問させていただきます。

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