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邑生ゆじさん

自分で文章を書き始めてからまだ数年ですが、これまで読むばかりだったところから一歩踏み出してみたことで、その奥深さや楽しさを日々実感しています。

性別 女性
将来の夢
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時を紡ぐ悠久の奇跡

19/01/02 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:2件 邑生ゆじ 閲覧数:274

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「今度はボクの番だって、生まれた時からわかっていたことだから」
 そう呟いた穏やかな笑みの中にいくつもの感情が混じり合う。それは抗えない運命への諦念であり、己の存在が消えることへの怖れでもある。そして何より、自分の最期を見届ける兄たちが既に無いことへの哀しみと、役目を果たした三百六十四人の兄たちと同じ場所へ行けることへの安堵でもあった。
「ボクが在るのは兄さんたちのおかげだ。見てて、きっとやり遂げてみせるから」
 決意を滲ませ発した声音は少し震えていた。彼ら兄弟の生きる意味、為すべき仕事はそれぞれが担う二十四時間を恙なく終えることにある。たった一つでも二十四時間が失われれば、後に続くべき全ての兄弟たちが消失するのだから。
 それは役目を果たせば消えゆく運命よりも恐るべき事態であり絶望だ。誕生した瞬間から命のカウントダウンが始まり、責務を果たせば全てが終わる。わかっていても、理不尽だと叫んだ記憶は新しい。
 だが二十三時間を超える頃になると、消えたくないと荒ぶる心を満たすものがあった。それは先に逝った兄たちがねぎらう気配であり、次に生まれ来る弟の息吹のようなものだ。
 二〇十八の年に生まれた三百六十五の兄弟たちの末弟の名を、十二月三十一日という。時刻は二十三時五十八分、四十二秒。兄たちが文字通り命を紡いで護った二〇十八の年。それを今、身をもって終える彼の眼に映るのは、次世代を担う二〇十九の年に誕生する最初の一子だ。
 受け継がれる名は、一月一日。彼から始まり、紡がれ、そして終わっていく。無事に最後の兄弟まで受け継がれたなら、今この身に宿す十二月三十一日の名もまた引き継がれるのだ。  
 連綿と連なる二十四時間、三百六十五日。そのひとつひとつが奇跡なのだと、十二月三十一日は身をもって知った。
 己の存在意義や可能性、それらを想って限定された命の使いみちを嘆いたが、命の期限というものが生ある者たち全て異なるように、時の子として生まれ落ちたからには、定められた二十四時間を精一杯生きるしか選択肢はないのだから。
 新たな子が誕生する時、時を司る塔の内部は二十四時間を担う時の子の命の粒子で満たされる。そして一秒過ぎるごとに粒子はさらさらと塔から零れ落ち、やがて残る最後の一粒が粒子の本体である時の子だ。
 任務を全うする瞬間、塔に残った本体は最後の一粒として塔からこぼれ落ち、二十四時間を次へと託す。
 リミットが迫っていた。二十三時五十九分、五十八秒。十二月三十一日は最後に大きく、胸いっぱいに新鮮な夜の空気を吸いこんだ。 
 しんと冷えた空気が隅々まで行き渡る。これで終わるというのに、始まったばかりのように身の内が清められる気がして少し泣いた。
 先程までとは異なる穏やかさが胸を浸すのは、兄たちも同じ気持ちで次を担う弟へと託していったに違いないという思いが去来したからだ。
 真冬の冷気にも負けない、温かく輝かんばかりの可能性を秘めた次の弟が目覚めの時を待っている。こんなにも清らかな弟ならば、きっと見事な二十四時間を紡ぐに違いないのだから。
「頼んだよ。ボクの……、ボクたちの大切な弟、一月一日よ」
 願いを託し、十二月三十一日は二十四時間を全うすべく時の塔から大きく飛んだ。
 悠然と浮かぶ雲のように、美しく空を渡る鳥のように。十二月三十一日は夜空を抱くように落ちていく。
 身を包む真夜中の冷気は刺すように冷たく、僅かな迷いや不安を次々そぎ落とす程に怜悧に冴え渡っていた。自らの死と、次に生まれ来る生の狭間の時間は静謐に満ち、ごうごうと逆巻く風の音もとうに聴こえない。それを心地いいと感じる一念さえ自分のものなのか否か判断がつかず、ふと浮かんだその疑問さえ、浮かぶ端から柔らかくほどけた。
 視界は暗いが温かく、その感覚はふいに自身が生まれ落ちた瞬間の記憶を呼び起こす。
 あぁそうか、わかったよ。繋がっているんだね、こうしてずっと。
 間もなく誕生する弟は、かつて兄だった者たちの誰かなのだろう。たとえ記憶がなくとも。全うされた生は清廉な夜に濯がれて、再びまっさらな始まりの命として生まれ来る。いつかの兄弟たちの一人として。
 かつて十二月三十一日だった者は消えゆく間際に満ち足りた笑みを浮かべて新年へと時を繋ぎ、彼が着地した大地から芽吹くように、まっさらな二十四時間が産声をあげた。


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このストーリーに関するコメント

19/01/07 雪野 降太

拝読しました。
365日の擬人化とでもいうべき作品で、時間の進み方を思うと果てしない気持ちになりました。
御作の設定にあるとおり、毎日誰かが塔から飛び降り、そして着地しているかのような時の流れは本当に慌しく感じますね。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/11 邑生ゆじ

入戸月さん、コメントありがとうございます。
感想をいただけるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。
わかりづらい設定になってしまいましたが、温かいお言葉を胸にまたがんばっていきたいです。

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