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64GBさん

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Like the Zombie

19/01/01 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:2件 64GB 閲覧数:201

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 ゾンビのように男が歩いている。
 夕方のNYの路地を焦点が定まらずに下唇一杯によだれを溜めて、ズルズルと歩いている。全米で55万人以上いるホームレスの一人が日本人観光客のグループの目にとまった。
「あれ見てください!あのまま歩いて行ったら街灯にぶつかりますよ」
「本当だ!完全に前見てないよね」
 彼らの予想通りその男は頭を柱に打ちつけた。痛がるかと思ったが、なんと頭を柱につけたまま歩こうと手足を振っている。しばらく手足を動かしていたもののフリーズして柱の飾りのように動きが止まった。口から糸を引くよだれが風に流されながら足元に落ちた。

 頭を切って捨てたい……

 幼い僕は心配している。
 父だと思っていた人は動かなくなって一時間になる。息はしているもののまるで死体だ。お腹がすいたが家には何もない。ピザの皿についていたケチャップもいつだったか舐めてしまった。テーブルの天板の隙間に住んでいるゴキブリすら食べられそうと思ってしまう。

「ああ、あれはコカインかLSDでしょうね」添乗員が一瞥した。「街の角に立っているコーナーと言われる人に声をかけると簡単に手に入ります」
「アメリカの移動販売はすごいですね」
「ドラッグストアですか」
「薬という意味なら英語ではメディスンですね」

 頭を切って捨てたいんだ。

 少年の僕は怒っている。
 父だという男がいきなり妹を撃った。僕は倒れた妹を抱いて病院に走った。病院では「そこに寝かせておけ、手が空いたら看てやる」と言いやがった。もちろん妹は死んだ。血が出ているとHIV扱いで後回しなんだと。

「LSDはスティーブ・ジョブズが人生のなかで最もすごい経験だったと言ったことで、創造性が高まるなんて噂が広がって手にする人が増えましたが、ただ幻覚を見るだけですよ」
「見たい幻覚を見れるのですか?」
「それなら買う」
「まさか!悪夢を見るのがオチですよ」

 頭を吹っ飛ばしたい。

 青年の俺はどうしていいかわからないでいる。
 父と偽る男が「これをキメてみろ」と言って薬を渡してきた。幸せになれる薬らしいが、彼を見ていると幸せそうにはまるで見えない。辛すぎる現実の中では小さな幸せはやはり小さいのだ。

「ではあの人は固まっていますが幻覚か何かを見ているのですか?」
「そうですね。その可能性はありますね。長ければ14時間くらい醒めません」
「14時間!短い映画7本以上だ」
「そうですね。毎日悪夢を14時間みたらゾンビみたいになっても不思議じゃないですよ」

 成人した俺は幸せだ。
 理由は言えないが夏休みの初日のようなウキウキした気分だ。目障りで汚らわしい父だという男を殴り殺したとしてもこんな爽快感はない。何かいいことあったのかと朝からたくさんの人に聞かれている。これがよく言うハイってやつさ。

「ジョン・レノンも確か……」
「そうですね。その当時のタイプのとでは少し違いますが、幻覚を見ることはかわりありませんね。LSDを飲むことでむしろ才能を失った感じがしますね」
「日本の芸能人でも薬をやる人がいますけど創造性が増えるのではないのですか?」
「添乗員さんが知っているわけないでしょう」
「きっと、彼らもやってられないだけだと思いますよ」

 俺様は無敵だ。
あのクズ野郎をゴールデンゲートブリッジから蹴落としてやった。
するとあの野郎、木の葉みたいにフワフワと落ちやがって、俺様はトドメを刺すために走ってきた車を捕まえて思いっきり投げつけるのさ。

「添乗員さん、なんでそんなに薬物のことに詳しいのですか?」
「ああ……昔、友人が薬絡みで自殺してましてね、『見ろ!オレは飛べる』と言ってビルの屋上から飛んだんですよ。もちろん着地できず隣のコンドミニアムのベランダに布団を干すような格好で発見されて……いいやつだったんですけど薬に手を出してからどんどんおかしくなっていって、今でもどう言ってあげてやれば良かったのかわかりません」

 柱の飾りになっていた男は覚醒したのか袖で口元を拭いた。
そしてどこかに去って行った。
 添乗員は「Could be better」(きっと良くなるよ)と口の中で言った。


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このストーリーに関するコメント

19/01/06 雪野 降太

拝読しました。
『頭』に執着していた『幼い僕』がいつからか、それに対する関心を失っている。無力さから解放されたようでもあり、理性を喪失したようでもあり、やるせない気持ちを抱かせる街角の風景でした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/08 64GB

いつもありがとうございます。このところの時空の楽しみは入戸月づきし様の忌憚のないコメントです。特に褒められて育つよりも打たれて大きくなるタイプなのでガンガン墨をつけていただければありがたいです。今後ともよろしくお願いします。

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