1. トップページ
  2. 進めない着地

うたかたさん

どこにでもいる高校生です!

性別 男性
将来の夢 安定した職に就くこと
座右の銘 今を真剣に

投稿済みの作品

0

進めない着地

18/12/30 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:1件 うたかた 閲覧数:212

この作品を評価する

 そのとき僕は、白くて柔らかなしかく確実な踏み心地のある地面に着地した。いや、地面というよりは雲だろう。自分の身体が浮き上がるような感覚に襲われた。立っていられない。思わず僕はしりもちをついた。
 不思議だ、きっと夢に違いない。違いないのだが、夢の中でもこれだけ意識がはっきりとしているものなのか。

「……た、たすけて」

 僕は一言も発していない。どこからか女子の独りもがき苦しむような声が聞こえてきた。きっと僕と同い年くらいだろう。次の声を聞くためにすぐに耳を澄ませた。

「…………」

 聞こえてくるのは快晴のもと流れる爽やかな風の音。だが、その音に交じって微かに声のようなものが聞こえていた。それも雲の下からだ。
 僕は急いで雲に耳をあてた。
 それは、空気との境目がわかりづらく、ひんやりと冷たかった。

「なんでこうなるんだ……そんなはずじゃ」
「俺だけに苦しい思いさせやがって」
「あいつのせいだ……」

 恐ろしくて急いで身体を起こした。柔らかい地面に二、三歩足を取られ後ずさり。
 雲の下からは、老若男女問わず数えきれないほどの悲嘆の声が響いていた。聞き分けることさえ困難。おそらく夥しい数の人々がこの雲の下にはいるのだろう。
 この雲の上にいることすら僕にとっては恐怖であった。いつか僕もこの下にいくのだろうか。
 決して見えはしないが、確かに聞こえてくる惨憺たる声。雲の上はこれほど澄んで安らかだというのに。
 荒れた呼吸を整え辺りを見渡してみると、右手日光らしき光が差す方向に、人影らしきものを見つけた。
 僕は何か不確かな希望を見つけたような気がして、走りにくい地面を何とか走ってそのもとに向かった。

「あ……助けてください……」

 そこにいたのは、下半身腰のあたりまで地面に埋まった制服姿の女子だった。

「はい」

 僕はしっかりと返事をしたのかわからないが、急いで彼女の両手を掴み引き上げようとする。

「いてっ……」

「ごめんなさい!」

 彼女が痛がっても僕はその手を引く力を緩めることはなかった。そのときも確かに彼女はものすごい力でこの地面、雲の下にゆっくりと引き込まれつつあったからである。その力に何とか打ち勝とうと、柔らかな地面に思いっきり踏んばった。

「うあっ!」

「ひゃっ!」

 彼女を引き上げた反動で、二人とも雲の上にうつぶせに倒れた。

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ……」

 息を切らした僕はやっとの思いで返事をする。倒した視線から眺めた彼女の顔はとても嬉しそうな涙を流していた。
 声を聞いてわかったが、ここに来て初めに聞いた声はきっと彼女のものだったのだろう。
 すると、その次の瞬間には僕は突然の睡魔に襲われていた。

「え、ちょっと! すみません! 起きてください……」

 僕はその声を聞いたのを最後に、この平和に己惚れた雲の上に眠ってしまった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

19/01/06 雪野 降太

拝読しました。
地に足着いていない、ふわふわとした浮遊感が伝わってくるお話でした。
読ませていただいてありがとうございました。

ログイン