1. トップページ
  2. 最初の一歩

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

2

最初の一歩

18/12/27 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:6件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:307

時空モノガタリからの選評

人間的な名誉欲や野心が、まるで生物のような惑星のアレルギー反応によって阻まれるところがユーモラスでした。もしかして、この惑星は人間が上陸した後に荒らされてしまう自分の未来を予測したのでしょうか。英雄として描かれがちな宇宙飛行士たちが、俗っぽく書かれているのも面白いと思います。

時空モノガタリK

この作品を評価する

 地質学者のハーンがもたらした分析結果が、惑星調査船ギ・ルレア号の搭乗員たちを心底驚嘆させたその数時間前、惑星上に着陸したギ・ルレア号のエアロックから出た十名の隊員たちは、スロープ式タラップにずらりとならんだ。地表には呼吸するに充分な大気がみちているので、簡易式生命維持装置をまとったかれらは、短いタラップを、はやる気持ちをおさえておりはじめた。
 処女惑星におりたつときの感激はまたとなかった。無人探査機の調査では危険とおもわれる生命体は存在せず、地上はゆたかな植物におおわれ、川や湖には満々と水がたたえられていた。
 みんなは、言葉にこそださなくても、最初の一歩をふみだすのはじぶんだと、腹ではきめていた。最初におりたった者はちゃんと記録に残される。二番手三番手も記されることは記されても、だれがそんなことを名誉とおもうだろう。
 ことにこのような、人類の生息が可能な惑星とあれば、その記念すべき一番手はやがてここに人間たちがきて社会が築きあげられたあかつきには、公の場に銅像となって賛嘆のまなざしをむけられることだってありえるのだ。
「マユ、ぼくがみんなをおさえているから、さきにいくんだ」
「ふたりいっしょに、記念のスタンプ――足跡をおしましょうよ」
 それもいいかとタラップのはずれでたちどまるとゴドは、彼女にあわせてゆっくりと片足をあげた。
「よし、それじゃ、イチ、2、3――」
 二人の足がほぼ同時に、心もち湿り気をおびてみえる土の上に、いままさにふれようとしたその瞬間、突然地面がボコッとへこんだ。
「ひゃあ」
 マユとゴドは危ういところで足をひくと、けげんな面持ちで足元の窪みをみやった。
「わあ」
 横ではみんなも、いまの二人と同じように、踏みおろそうとした地面がいきなりへこんだために、バランスを崩しかけた体をたがいにささえあっている。
「おかしいな」
 もう一度足を踏みだそうとしたゴドだったが、地面はやっぱり彼の足から逃れるように、沈みはじめた。
「まるで、わたしたちを避けているみたい」
「まさか」
 ギ・ルレア号から全員に、引きかえすよう指示がくだった。
 船内にもどると、今の状況をモニターでみていた隊長がみなに、
「いま地表のサンプルをとっているところだ」
 それをきいたひとりの隊員が、
「とろうとすると、地面がへこみはしないのですか」
「いや、ロボットアームはちゃんと土の標本を採取した。あとはハーンが分析してくれるだろう」
「それは、いつわかるのですか」
「二、三時間後だ」
「それまで我々は、船内でまちぼうけですか」
 短気なゲンが、苛立ちもあらわにいった。
「ボートでなら――」
 人間の足は拒否した大地だが、ロボットアームは受け入れたところから、ボートならいけると隊長は判断したらしかった。
「我々でいかしてください」
 ゲンがいうと、おなじ地質調査班のコッラも同行を願いでた。ボートは四人乗りなので、あとからゴドがマユとともに申し出た。
「いいだろう」
 隊長の許可がでたかれらは、さっそくボートにのりこむと、地上一メートルの空間を静かにすべりだした。
 オートで運行する透明な球体形のボートから四人は、眼下をなめらかにはしりすぎる地面を注意深くながめた。
「なんの反応もみせないようだが」
 ゴドがゲンと目をみかわした。
「ギ・ルレア号が着陸した辺りだけが、あのような異常反応をおこすんじゃないのかな」
「その可能性は十分ありそうだ」
「どうだい、ボートをとめて、おりてみないか」
 コッラがボートの停止装置に手をふれながらいうと、おなじことを望んでいたとみえ他の三人も、即座に賛成した。
 ボートは地上五十センチのところで停止した。開いた出口から四人は、無表情でまちうけている大地をみおろした。
 このときもかれらのなかには、例の『最初の一歩』がまちがいなく意識にあった。宇宙の果てまでやってくるほどの高度な文明をもつ人類でありながら、先を争う人間臭い欲望にだれもがかりたてられていた。
 だから、ボートの出口から四人全員、五十センチ下の地面にむかってほとんどいっせいにとびおりたのだった。
 とたんに、それまで堅そうにみえていた地面に深々と穴があいたとおもうと、たちまち四人の体はそのなかにきえていった。
 そのときボートの無線から隊長の、緊迫した声がきこえた。
「ゲンたち、すぐもどるんだ。分析の結果この星の大地は、人間に対してはげしいアレルギー反応をおこすことがわかった。まんがいち大地にのみこまれるようなことがあったら、花粉で人がくしゃみをするように、惑星そのものが、くしゃみに該当するものを――」
 その声の途中で突如、大地が裂け広がり、地中から黒煙とともに真っ赤なマグマが、地上のなにもかもをまきこんで高々と噴きあがった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

19/01/06 堀田実

とても面白かったです。
よくできたお話で大好きです。

19/01/06 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
この作品を気にいってくださった実さんも、私は大好きです。

19/01/06 雪野 降太

拝読しました。
着地を拒む惑星がアレルギー持ちだったとは……意外な展開で楽しく読ませていただきました。
また、『人間に対してはげしいアレルギー反応をおこす』ということは、過去に誰かしら人間(アレルゲン)が降り立ったことがある(抗体が作られている)ということでしょう。この惑星に既に到達していた先人の行く末を想像すると壮大な気持ちになります。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/06 W・アーム・スープレックス

アナフィラキシーショックというやつですね。そこまでは考えていませんでしたが、ご指摘のとおりのことがあるいは、過去にこの惑星で起こっていたのかもしれません。深読みしてくださり、ありがとうございました。

19/02/27 光石七

入賞おめでとうございます!
拝読しました。
まさかのオチに苦笑しつつも、妙に考えさせられるものがありました。
面白かったです!

19/02/27 W・アーム・スープレックス

光石さん、お久しぶりです。
いまだになかなか思うようなものが書けずに難儀していますが、この作品に関しては案外、すらすらまとまりました。私自身が花粉症だったせいかもしれませんが。思うようなものがそのとおり書けたら、そこでストップしてしまうかもしれず、これからも難儀しながら書きつづけていく所存です。ありがとうございました。

ログイン