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村沢走さん

村沢走と申します。現在、月に一度のペースで執筆中。

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将来の夢 恐竜になる事
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バンジージャンプ

18/12/26 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:2件 村沢走 閲覧数:234

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 此の命綱が切れたなら、如何なるのだろう。
 私は、足許に広がる異観を見た。
 春容は只漠然と其処に在って、其れで私は怖くなった。
 思えば、人生は何時も斯うだった。
 中一の時、好きな子が出来た。
 彼は、戒君といって、学年でもモテていた。
 私の存在意義等、気にも留めない人だった。反動で、高校ではモテにモテた。毎年、二十人位から、ラブレターをもらった。私は、矢張り戒君の事が、忘れられなくなっていた。もう一歩踏み出せば、其処は知らない別天地となる。怖くて、がくがくと膝が笑う。駄目だ。飛ぶんだ。私は張り手を頬にして、カウントダウンの時を待った。
 完全なる剛体とは無いと聞く。ツァイガルニク効果の信憑性を説くならば、今が正に其れであった。きっと斯ういう時期には、必ず失敗する。今迄送って来た人生の教訓である。エスペラントにしか、聞こえない風景。社員旅行の御褒美が、此れだった。高さ百メートルからの直滑降。正確には、飛翔。此れは現実となった今でも直視出来る物ではなく、想像上の生き物に迄見える。足末に巻かれた、命綱が一本。後は、中空へとダイブするだけである。
 戒君。戒君に、想いを告げる事が出来たらなあ。
 場違いにも、其んな事を考えては、いた。頸細し綱は、伸縮自在素材だとかで、其れで、正確には、長さが違うんじゃ、なんて思ったりもする。駄目だ。駄目だ、駄目だ。私は自分を変えるんだ。其んな思いで飛翔する。時が経ち、私は宙を舞っていた。「きゃああああああ」なんて可愛いらしい悲鳴が上がり、其の音で宙を、舞っていた。アプレ・ラ・プルイ、ル・ボー・トン。フランスの諺が浮かんで、次いで走馬灯の様に、人生が流れた。あれは、中二の夏だった。意を決して、戒君に告白しようと、決めた。だが、現実は甘くなかった。クラスの女子達から不評を買い、序でに好きな人からも拒絶された。一言、アンタ、誰……というのが、戒君の返答だった。私は、私に負けていた。勝負する前から、此んな事も有ると、言い聞かせては、いた。結果が如何なったかは。其れは、もう、告解等とも言えない程の有り様だった。悔しくて悔しくて涕が出た。高校に入ったら、絶対、遊び人になって遣るんだ。なんて調子っぱずれな事も思ったり。其の高校では、碌な男子が居なかった。煤けたジーパンに、青白い頬。こけた双眸が印象的だった。社会人になって、斯うしていると分かる。パワハラやセクハラ。人生は苦難の連続だ。荒波に揉まれてなくたって哀毀骨立だ。美辞麗句も良い所だ。私は、毎晩の様にせっ付かれ乍ら、多忙な毎日を送っていた。
 一言、戒君に、想いを告げる事が出来たなら。其の時も、「アンタ、誰……」と、素っ気無い態度で、阿られるんだろうか。「嗚呼。私って此んなにも変わってないんだなあ」なんて思うのだろうか。
 おい。人生の先輩よ。見ているか? 今、此の瞬間の私を、眺めては、いるか? 真下から吹き上がる憎悪の波に、私は身迄焦がされる。此の先、生きていたとして、何か良い事が有るんだろうか。夫を持って、家庭を持って、其れで、其れで……。
 私は、知らず知らずの内に泣いていた。気付けばびよんびよ〜んと跳ねていた。もう終わったのか。其れとも此処は別天地だろうか。柄にも無く、殊勝な心掛けを旨とする事が出来る様になっていた。今では、分かる様な事が有る。地面は、偉大な迄に偉大過ぎる事である。血の気が引いて、地の底からは、公務員さん達の声が聞こえる。以前、一度、一緒に旅行した事も有る、一団さんであった。偶々、此の旅行先でも、同じだった。「おお」「凄いな」「嬢ちゃん。遣るな」なんて生きた心地の良い言葉が飛び込んで来る。私は業務員さんに足先を弄られた後、一際大きな声で泣いた。今度は、人目も憚らずに、泣いた。「戒く〜ん。戒、く〜ん」と、自然な毒が抜けて行く。公務員さんの一団で、スマホを用意して私を撮ってはいて、御蔭で十分な、毒が吐けた。矢張り、自分は自分であった。此んな思いをして迄も、上司には逆らえないし、きっと明日も小言を受ける。でも、良いんだ。私は、私なんだ。今はそう思った。そして、ごしごしと頬を拭い、同僚の許へと帰った。


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このストーリーに関するコメント

19/01/05 雪野 降太

拝読しました。
社員旅行の『御褒美』のバンジージャンプで毒を抜く。不器用というかズレているというか……主人公『私』の述懐を楽しく読むことができました。
『公務員さんの一団で、スマホを用意して私を撮ってはいて、御蔭で十分な、毒が吐けた』という箇所がよくわかりませんでした。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/06 村沢走

 井渡月ヅキシ様。コメント有り難う御座います。自分を客観視してくれる一団の存在に因って、自分の至らない部分を客観視出来たのだ、という意味です。読んで頂いて有り難う御座いました。

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