1. トップページ
  2. 犯罪差別

戸松有葉さん

ショートショート:小説投稿サイト「小説家になろう」で1001作以上、本サイト「時空モノガタリ」で入賞複数。 他、長編ライトノベルやエッセイなども。コメディ得意。 Amazon Kindle(電子書籍)http://amzn.to/1Xau7kMで活動中。(←URLは、Kindleストアを著者名「戸松有葉」で検索した結果。)代表作は『ショートショート集厳選集』とラノベの『二次元最高美少女』。 ツイッターは@tomatuariha3lb

性別
将来の夢 積極的安楽死法案
座右の銘 常識を疑え

投稿済みの作品

0

犯罪差別

18/12/25 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:2件 戸松有葉 閲覧数:65

この作品を評価する

 同じ境遇の人たちが集まり、交流することはよくあるが、その集まりは少し特殊だった。「同じ境遇」の幅が広めで、直接は関係ない識者や一般人も混ざっていたからだ。
 集まっているのは、刑期を終えた犯罪者、犯罪加害者家族、犯罪被害者やその家族、冤罪を被った者やその家族――犯罪関係の人々が中心となっている。そこに、犯罪関連の専門家および、一般の人まで参加している格好だ。
 当初、加害当事者やその家族へは、「同じ境遇」に該当しないから分けるべきとの意見もあったのだが、話を聞いてみると、なるほど確かに「同じ境遇」だということがわかり、今では被害者が加害者に共感を抱くことも珍しくない。
 境遇とは、犯罪という非日常の近くにいた経験があると、社会から差別を受けるというものだ。
 就職就学から婚姻、親戚関係、友人関係に至るまで、不当な扱いを受け、排除される。
 過去に犯罪をした者だから、信用できない――そういった理由が方便だとよくわかる事実でもあった。もし本当なら、何故当人ではない家族や、被害や冤罪であっても、同じ結果を突きつけられるのか。合理的な説明など付けられようがない。
 謂われない差別。その一言に尽きる。
 この国は差別を明確に禁じている。最高の法である憲法で平等が保障されている以上、差別は許されない。具体的な不利益が、たとえ小さなものであっても生じるならば、法の裁きを受けることになる……はずなのだが。
 社会には、これまた明確に、差別が存在している。一般人・企業・マスコミはもちろん、時には公的機関や役人までが、差別を当然のようにしており、それを社会全体として容認しているのが実態だ。具体的な不利益があってさえも、事実上法に訴えることはできない。おそらくは法が整備されていっても、多少程度が軽くなるだけで終わる。それに法では裁けない差別は絶対に残るのだから、そこは決して変わらない。
 この集まりでは、そうした悲観的な現実もあって、議論とも愚痴ともつかない話がまとまりなくされがちなのだが、せっかく集まっている以上、何らかの結論を得たい、境遇改善を目指したい、と思うのも自然だった。
 しかし、差別する側の心情・事情もわかる。そこがまた議論を難しくしている。「排除したい」わけだが、これは他の差別のような差別感情――基本は自己愛とそれに伴う攻撃性――が原因ではない。自分を犯罪といったもののテリトリーに入れたくないのだ。遠くのニュースなら好奇心を持つが自身はまったく触れたくない。そして、その感情は多くの人が持っているのだから、他人から自分も差別を受けないためには、やはり自分も差別をするしかなくなる。企業といったものなら、不利益さえ生じるため、なおのこと神経質に差別を行わなければならない。
 世の中の人は理不尽なことをすると嘆くも、その人たちの立場で考えれば理解できる。何とも着地点を見付けられない議論になるため、結局、議論とも愚痴とつかない話に終始してしまう。
 さてこの集まりには、犯罪を客観視しやすい、あるいは差別をする側でもある、専門家や一般人も参加している。この何とも結論の出ない集まりに意気揚々と入ってくる新参者には、決まって行なう指摘があった。

『刑罰以上の罰は法治国家である以上与えてはならないが、実質の罰とも言える社会の差別はあっていいのではないか。だからこそ、犯罪はしてはならないということになる』

 差別の容認について、理由を付けたものだ。
 だがこの指摘は、答えの見付からないこの集まりの中にあっても、はっきり否定されるものだった。

『犯罪がいけないというのは子供でも知っている。してはならないも何も、私はしていないしするつもりもない』

 犯罪者以外の被差別者からすれば、そんなことを言われてもどうしようもない。加害当事者でさえ、ここの参加者は更生済み扱いで、犯罪グループに所属しているでもない。そしてこの世から犯罪はなくならない。「差別もあるから犯罪は駄目」など、何の意見にもなっていないわけだ。
 ある時、うんざりする「犯罪は駄目」論に対し、自身の経験も述べることで、なさそうで実はあった犯罪差別の着地点を示した者が現れた。

『私は、犯罪とは無関係に、元々差別を受けていました。差別があるのなら、どうせ同じだからと、犯罪しても構わないということで、犯罪に手を染めました。その後の人生は私の予想通りでした。理性的に動ける人間がなくせるのは、犯罪のほうではなく――』

(了)


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

19/01/05 入戸月づきし

拝読しました。
『結局、議論とも愚痴とつかない話に終始してしまう』という箇所が上手く活かされていると感じました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/06 戸松有葉

コメントありがとうございます!

ログイン