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nekonekoさん

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504号室のヤンヤンバァ

18/12/25 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:0件 nekoneko 閲覧数:172

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「すいません」社会福祉法人心の里の駄々広い玄関の中で私の声が響き渡る。インターホーンを押しても誰も出てくれなかった。唐突に来たのが悪かたのか。奥の方からは人の喋り声聴こえてくる。なにか忙しそう。聴こえていないのかも。仕方ない。それではもう一度、更に大きな声を出そうとした時に具然、職員らしき人が通りかかる。「アッすいません」私の喉元から肩透かしを食った様な声が漏れ出た。「あら、御免なさい。いらしゃたの気が付かなかった」職員の表情がちょっと笑ってから済まなそうな顔に変わる。「いえ」「御面会のお方かしら」「はい」「どちらのお方に」「504号室の樋口さんですけど」「504号室・・えっ。ヤンヤンバァに」職員が驚いた様な声を上げる。「貴方って、もしかしてメル友の方とかだたりして?」「へっメル友。・・ハイマァそうの様なモノですけど。それが何か」私の話す言葉は少ししどろもどろになっていた。思ってもいない言葉が返って来たので今度私が驚いたからだけど。「チョツト待っててね」と言うと慌てた様に奥へと消えて行く職員。確かにメル友はメル友なんだけど、樋口さんとは面識は無かった。勿論知り合いでも無かった。なのにメル友になったのは樋口さんからの誤メール。1〜2回の誤メールなら気にしないけど、それが5回6回と続く。私は樋口さんにメールにアドレスが違っていませんかと返信した。その後直ぐに樋口さんから謝罪のメールが返されて来た。私ておちょこちょいだから御免なさい。それから二人のメールのやり取りが始まった。樋口さんは自分は特別養護老人ホームに入所していると言っていた。みんなといつも和気あいあいとやっていると言っていた。楽しそうに過ごしている樋口さん。私はそんな樋口さんを想像していた。
 それから、先程の職員が別の人を連れ立って戻って来た。別の人はここの所長だと名乗り、今、樋口さんのご家族に連絡したからと話した。それまで、こちらでお待ち下さいとも続けた。「あのぉ、どいう事なのでしょうか。お待ち下さいて?。御家族て」「貴方の事は亡くなった樋口さんのご家族から来る事を聞いていました。これから御家族の方がこちらに来られます。」「亡くなられた。樋口さんがですか」「はい。後はご家族の方からお話を伺って下さい」所長が話したのはそれだけだった。私は案内された部屋に入ると椅子に腰かけ、出されたコーヒー啜った。「質問させてもらっても構いませんか」反対側の席に座る先程の職員は僅かに微笑んで軽く頷き返してくれる。「樋口さんが亡くなられたのは何時頃の事なんですか」「先月です」「先月ですか」と言って私は口を噤んだ。1週間前にも樋口さんからメールが届いていた。是非、ホームに遊びに来て下さいませんか。私の部屋504号室を見せたいのよ。それがメールの内容だった。だとすると誰がその後のメールを送って来てたのだろうか。だけど、それを職員の方に聞く訳にも行かない。押し黙っていたら職員の方から話しかけて来た。
 「樋口さんてメールでも結構うるさい方では有りませんでしたか」「いえそれ程でも無かったですけど」「そうですか・・」ちょっと不思議そうに私を見てくる。それから、亡くなった人の事を悪く言うのは好きじゃないんですけど。と断った上で話してくれた。「樋口さんて、結構口うるさい所がありまして、ヤンヤン何かに付けて小言を言ってくるんですよ。だから、504室のヤンヤンバァてあだ名まで付いていたんですよ。それはもう煩かったんですから」と嫌な事を思い出す様に語る。ヤンヤンバァてそう言う意味だったのか。目の前のこの人が、私が来た時にポロリとつぶやいていた言葉。その言葉の意味が今分かった気がした。メールを繰り返す内に私は勝手に樋口さんの想像を作っていた。だって、メールには楽しい事や嬉しい事が多く語られていたから。きっと樋口さんて、私が樋口さんに抱いていた想像が少し崩れた気がした。それから、しばらくして樋口さんの娘と言う人が現れた。少し私の抱いていた樋口さんの想像に合わなくもない。
 「母の生前中には大変お世話になりましてありがとうございました。見も知らぬ母の為にメールのやり取りをして下さりまして」「いえ、それ程大袈裟なものではなく、始まりが間違いメールからでして」「それも存じております。母が亡くなってから初めて、私どももこのメールの事を知りました。ただ、この事をメールでお伝えすべきか迷い、勝手ながら私が」「では、貴方が代わりにメールを」「はい。母は気難しい性格で、余り人と打ち解けて話をする事が無い物で、でも、貴方とのメールのやり取りを見ていたら・・」「それで来てくれという訳は」「それは」私は504号室に連れて行かれた。母が貴方に見せたかったものです。閉じられたカーテンを開けると真赤な夕陽が部屋一杯に広がった。


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