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奇都 つきさん

金魚とクラゲが好きです。 主にホラーを書いております。 他ジャンルだと、ギャグ、コメディ、ファンタジーをよく書きます。 よろしくお願いします。

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おばけの5階

18/12/24 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:0件 奇都 つき 閲覧数:115

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私が幼稚園に通っていた頃、目の前に公園があるマンションの403号室に住んでいた。
その上の階には1度しか行ったことがない。なぜなら、上の階にはおばけが住んでいるというではないか。しかも情報の出どころは親だった。身近な大人の言うことの信憑性の大きさたるや。
そして、そのたった1回で見てしまったのだ。本当におばけを。今でも思えている。
自分の階と同じ造りのはずなのに、薄暗くて肌寒かった。504号室のドアが少し開いていて、その隙間からこちらをじっと見つめる目玉だけが二つ、白く浮かび上がっていたのだ。
私はそれ以上進むと、その504号室の暗闇に引きずり込まれそうだと直観的に思い、すぐさま背中を向けて403号室に逃げ込んだ。
それ以来、5階に上がらないまま、小学1年生の年末あたりに同じ学区内に引っ越したのだった。

ちょうど、友人と遊んでいた公園が、その時のマンションの向かいだった。
疲れたから休憩、と、木陰のベンチで水筒のジュースを飲んでいるときに、ふと思い出して友人に話して聞かせた。
今でも上がるのが少し怖いかも、と言ったら「5年生なのに?」と、バカにしたように笑うので、純粋に腹が立った。
自分だけでなく、彼女も少し怖い思いをすればいい、と、「じゃあこれから見に行こう」なんて提案してしまった。
後悔は、マンションのエレベーターで襲ってきた。
友人が最上階の7階まで行ってしまったエレベーターを待ちきれなくて、競争だと言ってエレベーター横の階段を走りだしてしまった。実は、ここの階段も怖かった。しかし、数年ぶりのマンションは知らない所みたいで、置いていかれるのも嫌で、夢中で追いかけた。そうすると、昔は靴の響く音が怖かった階段も、彼女の声のおかげか、今は声の反響する楽しい遊具みたいだ。
それと同じじゃないか、と、冷静な脳にストンと考えが落ちてきた。怖がるものなんて、本当になくて、上の階に迷惑をかけないようにと親の吐いた嘘か見た幻だったのかも、と、一段ずつにそう思うようになってきた。
落胆がじわじわと面白さに変わっていった。まるで、不思議なトリックの単純な種明かしをされたようだった。
「着いたー!」
先に着いたのは私だった。何故なら、友人は間違えてもう一階分上ろうとしてしまい、ロスが出たのだ。
二人とも頭や背中にベタベタと汗をかいていた。運動神経の良い彼女に勝てたという勝利の余韻か、汗の気持ち悪さもあまり気にならなかった。
「ここが5階かぁ」
暗く見えた5階も、そんなに変わりない。当初の目的通り、504号室を通りすぎたら引き返して、帰ろうと思っていた。
それなのに、なかった。
「503と505しかない・・・・・・よね?」
「あれぇ?」
二人で首を傾げた。あの時あったはずの504号室が、キレイさっぱりなくなっている。
「おかしいなぁ……」
とは言いながらも、頭の中で、昔自分が同じ疑問を持ったことを思い出した。
自分の家が403号室なのに、404号室がなく、隣は405号室となっていた。数字が読めるようになり始めた頃の私は、理不尽に思えて、母に何故かと聞いたのだ。すると母はこう答えた。
「エンギが悪いからって、昔の人は4っていう数字は抜いたのよ」
その理由がわからなくて、そのせいで404が入っちゃダメと言われ、仲間はずれにされているような印象を受けて、ますますもって理不尽に思えたのを、強く覚えていた。
そう、だから、504号室があるわけがないのだ。
ならば、私はナニを見たのだろう? ナニが、覗いていたのだろう?
疑問が浮かべば浮かぶほど、いつの間にか冷えた汗が背中にへばりついて気持ち悪いのが際立って感じられた。内側から冷える感覚に、首が締まるようだった。
無言で思考する私に置いてきぼりにされた友人が、「どうしたの?」と心配そうに声をかけてくれている。その声はとても遠いように感じて、現実味がなかった。
友人も今の暑さもなにもかもを置いていって、私は503号室と505号室の間の、汚れた壁から目が離せなかった。


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