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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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待ってたよ

18/12/24 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:198

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 高校の時、友達とふざけて行った占いの館で、黒い爪をした占い師に言われた。
「あなたは高いところに住まないほうがいい。引きずられるから」
 引きずられるとは何なのか、高いところとはどれぐらいなのか。訊いても教えてくれなかった。
 意味がわからなかったけれども、嫌に胸に残って、一人暮らしをはじめるときに選んだのは一階の部屋だった。
 それ以降、引っ越しを何度かしてきたが、すべて二階までにしていた。二階をアリにしていたのは、実家が二階建てだったから。実家では何もなかったから、平気だと思ったのだ。
 そして今回の引っ越しでも、同じように選ぶつもりだった。だが、
「やっぱり可愛いですね、この部屋」
 私の心を奪ったのは、504号室。つまり五階の部屋だったのだ。
 チラシでみて心惹かれた内装。それは一部屋一部屋違うモチーフで内装を整えた、リノベーションマンションだった。つまり、五階のこの部屋でないと、この可愛い部屋にはならない。
 他の部屋も見せてもらったが、この薄紫色の壁をした、504号室ほど私の心をとらえる部屋は他になかった。
「下の階がお好きなんでしたっけ?」
「そうなんですけど……いや、でも可愛いなー」
「五階ぐらいでしたら、ちょっと頑張れば階段でもいけますしね」
「ですよねー」
 とかなんとか不動産屋と話して、結局504号室を契約した。
 かれこれ二十年近く前の占いに、いつまでもとらわれることないか、と思ったのだ。
 入居して、最初はよかった。インテリアに凝ったりして、楽しく暮らしていた。
 だけどいつの頃からか、人の声がするようになった。すごくうるさい訳でもないけど、一度気になるととても気になってしまう、囁き声。
 多分、隣の部屋とかの声だろう。そう思って、気にしないようには、してたけど。
 その日は会社で上司に怒られたし、カレシともちょっと喧嘩してむしゃくしゃしていた。
 だから、声がいつもより気に入らなかった。原因を特定して、文句を言ってやる。
 そう思いながら、耳をすます。どこから聞こえてくるのか、特定するために。
 声はベランダの方からする。
 つかつかと歩み寄り、あける。声が大きくなる。
 下の方から聞こえるようだ。一階は庭付きだから、一階の人がなにかしているのかもしれない。
 そう思って、手すり越しに下を見ようとしたところで、
「ぎゃっ」
 腕を掴まれた。手に。手だけに。五階の高さに浮いた、手だけに。
「ひっ」
 振り払おうとすると、手は増えた。いくつもいくつも。私を掴む。
「おいで」
「おいでよ」
 囁き声が、今回は聞き取れた。
 私を呼んでいる。
 一つの手が私の口を塞いだ。
 手が。たくさんの手が。私を引っ張る。
 下に。下の方に。
 体が手すりに乗り上げる。足が床から離れる。
 手が、私を、引きずり下ろそうとする。
「おいで」
「おいでよ」
「こっちに」
 ああ、引きずられるって、こういうことか。
 理解した時には、体は完全にベランダから離れ、地面に向けて落下し始めた。
 地面にはお花のように手が咲いている。たくさんの手が。私を迎えるために。
「おいで」
 手招きしている。真ん中の手は、黒い爪をしていた。
「待ってたよ」
 ぐしゃりと音を立てながら、私は落下した。


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