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みやさん

写真と物語の融合、写真物語家を夢見ています。 マイペースで更新中。Twitter➪@miya_ayim

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いつか還る場所

18/12/24 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:0件 みや 閲覧数:128

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「ご、まる、よん、ご、まる、よん」
二歳になる息子がまた楽しそうに言っている。私はそれを聞いてまた苛立たしさを募らせていた。
「ご、まる、よん、ご、まる、よん」
「ね、それ何の事?ママに教えてよ」
私は苛立たしさを押し隠して息子に尋ねるけれど、息子は聞こえないのか、返事をせずに楽しそうにレゴブロックを積み重ねていた。
ご、まる、よん。一カ月前に末期癌の闘病生活の末に亡くなった私の祖母も意識朦朧とした中でよくその番号を呟いていた。

「504、504号室に還る…」
何の部屋番号なのか祖父も私の父と母もさっぱり分からなかった。祖母の実家の部屋番号でもないし、家の部屋番号でもない。その部屋番号に住んでいる親戚も誰一人居なかった。
「昔、若い頃に誰かと住んでいた部屋番号なのかな…」
祖父は寂しそうに言っていた。
「せん妄で訳が分からなくなっているだけ。意味なんてない」
私の夫と父と母は祖父を慰める様にそう言っていた。

私も祖父の考えに同意だった。祖父と結婚する前に、誰かと同棲していた部屋番号。もしくは不倫相手との密会の部屋番号…そう考えながらそれだけは絶対にあり得ないと思いたかった。亡くなる一週間程前に何度も何度もうわ言で504を繰り返す祖母を見て、お見舞いに行った息子はそれを面白がって真似をしていた。まだ二歳の息子には曽祖母が亡くなる、という現実がまだ理解出来ていなかった。やめなさいと諭してもやめなかった。そしてそれは祖母が亡くなって一カ月経った今でも続いている。

キッチンで夕飯の用意をしていると、リビングでまた息子がご、まる、よん。と歌を歌う様に口ずさんでいる。私は末期癌の痛みで苦しみながら亡くなっていった祖母の顔を思い出して堪らなくなった。
「大きいおばあちゃんの真似をするのはいい加減にしなさい!大きいおばあちゃんは苦しんでたんだよ、辛かったんだよ、それなのに面白がって大きいおばあちゃんの真似するなんて!大きいおばあちゃんが可哀想でしょ!」

私は自分でもびっくりする位の大きな声で息子に怒鳴ってしまった。息子は初めきょとんとしていたが、私の常軌を逸した怒りに驚き泣き出してしまった。
「ごめん、ごめんね、びっくりしたね。ママが悪かったわ、本当にごめんね」
私は泣きじゃくる息子を抱きしめてただひたすらに謝った。小さな子供なんだから、祖母が亡くなった事もあまり良く理解していないのだから…しばらく抱きしめて頭を撫でていると息子も落ち着いて泣き止んでくれた。そして私のお腹を触ってご、まる、よん、と言った。

「ママのお腹が504なの?」
「うん」
「どういう事?」
「ここに還るんだよ、おっきいおばあちゃんが言ってた」
私は訳が分からなくなっていると、母からスマートフォンに着信があった。
「もしもし」
「今テレビ見てる?見てなかったら早くテレビを点けて!」
母が興奮してそう言ったので、私は慌ててリモコンでテレビの電源を入れた。

「婦人科学会の研究によると、初潮を迎えてから504回目の排卵が最後になる女性が多い事が研究データにより確認された模様です。12歳で初潮を迎えた場合504回だと42年間排卵があるので54歳頃に閉経を迎える女性が多いと考えられますね」

「生理不順などにより個人差はあるとは思いますが、概ねそれで間違いないですね。排卵は子供を授かる為にとても重要ですし、女性ホルモンとも関係が深いので女性にとっては自分の身体の事を知るとても大切な機能であり、また子宮は胎児にとってととも大切な場所です。子宮の名称を別名504号室にしても良いかもしれないですね」

急いで点けたテレビではアナウンサーと婦人科学会の名誉会長が討議していた。排卵は一生涯で504回…祖母はその事を知っていたのだろうか?それとも無意識に?亡くなってまた504号室に還るという事は…また産まれてくるという意味だったのだろうか?

息子が私のお腹をまだ撫でている。祖母の葬儀や初七日で忙しくて忘れていたけれど、そう言えば今月はまだ生理がきていない…
いつか還る場所、私は息子の手に自分の手を添えてそっとお腹を撫でた。


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