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R・ヒラサワさん

性別 男性
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五点着地

18/12/24 コンテスト(テーマ):第164回 時空モノガタリ文学賞 【 着地 】 コメント:2件 R・ヒラサワ 閲覧数:64

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「先輩、それをマスターすれば本当に大丈夫なんですか?」
「ああ。絶対とは言えないけど、今のままじゃダメなのは間違いないね」
「そうですか......」
 戦隊ヒーローのメンバーであるトモヒロは、五人中の五番人気、四番目は紅一点のチカちゃんだった。
「アクションがイマイチな女子より人気がないの?」
 トモヒロの彼女が放った一言は、彼に大きなダメージを与えた。まるで怪人達のボスキャラ並だ。
「ヒロインって結構人気が出るものなんだ。小学生ぐらいの男子って、強さに憧れる一方で既に『男』の部分を持ってるんだよ」
「へえ、そうなの? 私は貴方に『男』を全然感じないけど……」
 自分を理解してくれない彼女に少し苛立ちを覚える。だからと言って彼女に戦いを挑むのはあまりに危険だ。それは戦隊ヒーローならではの勘だった。
 トモヒロは今の番組をきっかけに、本格的な俳優業へのステップを夢見ていたが、放送も終了間近と言うのに、トークやバラエティ番組に呼ばれた事は一度もなかった。
 先々のスケジュールも白紙に近い。俳優業に反対している彼女に、仕事を続ける相談など出来る筈もなかった。仕方なく相手に先輩を選んだが、決してベストな選択でない事は分かっていた。
「俺たちの時代は適当に小芝居やってりゃ、変身後はスタントマンがカッコよくアクションやるから、子供達は同じ人だって信じ込んでたよ。その辺のカラクリが分かる頃には番組も観ないしね」
「当時はあまりアクションは無かったんですか?」
「殆どね。変身前は普通の人間の設定だし。でも変身ポーズだけはカッコ良くやる練習してたよ。なあなあ知ってる? 当時は仮面に似せたお面がよく売れたんだぜ!」
「はあ……」
「今は変身ベルトもカラーで光るみたいだし、武器もテレビとそっくりのが売ってるよ」
「先輩の時代の変身ベルトって、風車みたいなのがグルグル回るやつですか?」
「ん? それはバッタを模した一号とか二号とかの話だろ? 俺たちは五人組戦隊モノの後継者なんだから、お前が知らなくてどうする! まあ、人数は増えたり減ったりしたけど」
「もちろん先輩は一番人気だったんですよね?」
「俺は……。五番人気だよ」
「ええ?!」
「あのさあ、当時は三枚目のキャラってのもあったから、それを誰かがやらなきゃ」
「じゃあ、その役を買ったって事ですか?」
「そ、そうだな。あの役はヒーローなのにちょっと小太りなんだよ。俺ってさあ、体重自由に操れる方じゃん」
「え? 初めて聞きましたけど」
「ほら、いつだったか病院で会った事があっただろう? あの時、俺すっごく痩せてなかったか?」
「それは多分、病気のせいで……」
「何言ってんだ! 退院してから半年後ぐらいに会った時、また体重増やせてたろ?」
「それは単に体重が戻っただけじゃ……」
「お前は何も分かってないね。更に三ヶ月ぐらい後に会った時には、もっと体重を増やせたんだぜ!」
「それって完全にリバウンドじゃ……」
「とにかく俺みたいに努力してりゃ、その内いい事があるって話だよ」
「はあ、そうですか……。ところで最初の話って何でしたっけ?」
「最初? えーと……。『五点着地』の話かな?」
「ええ。それです。その技の効果って……」
「五点着地ってさ、高い所から落ちた時なんかに、転がりながらスネから肩までの五ヶ所を使って、衝撃を和らげるテクニックなんだ。それをスタント無しでお前がやるんだよ。視聴者だって映像見てりゃ、ガチのアクションだと気付いて、人気も回復するさ」
「要は力を分散するって事ですよね?」
「そうだよ。だから一ヶ所ずつの衝撃は大した事がないんだ」
 トモヒロは考えた。今日の話のポイントは何? そして着地点は何処?
 戦隊ヒーローをステップに本格的な俳優を目指したいと言っているのに、なぜ今更アクションをなんだ? 残りの放送分も既に収録済みと伝えた筈だ。
 先輩の話はいつもこうだ。ひょっとして、これが五点着地? 要点が分散され、何のインパクトも相手に与えない。
 ついでに言うと、先輩は戦隊ヒーロー以来テレビの仕事は無く、アルバイトで食い繋いでいる。一度もおごってもらった事はなく、いつも気付けば伝票を手にレジで勝手に『別会計』と告げている。こんな人になってはいけないのだ。
「先輩、今日のコーヒー代は僕が払います!」
 トモヒロは不意に立ち上がり、テーブルから伝票を拾い上げた。
「あっそう? いやー悪いねえ。まあ今日の授業料だと思えば安いもんだろ?」
 既にレジへと向かっていたトモヒロに、その言葉は届いていなかった。
 トモヒロはようやく自分の着地点を見つけた気がした。

ー戦隊ヒーローは卒業しようー

 喫茶店の前で先輩にお礼を言った後、トモヒロは最寄りのハローワークを目指した。


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このストーリーに関するコメント

19/01/04 入戸月づきし

拝読しました。
己の進退に悩む主人公が、わかりやすい解決策を望む姿に共感できました。「まずは戦隊ヒーローとして体を張ったアクションに磨きをかけてみては?」という先輩のアドバイスも、現状を打破できるほどのものには思えない。むしろ懐古趣味、自分語り、不摂生、非正規労働という先輩の姿が、己の歩む未来に重なって見えさえする。苦しいところです。
『五点着地』という言葉に、戦隊ヒーローもまた複数人数を配することで、大ヒットや大爆死をコントロールしているのかもしれないと感じました。とはいえ思ったとおりの効果を得るには相当な技術が必要なのでしょうね……
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/05 R・ヒラサワ

井渡月ヅキシ 様

コメントいただき、どうもありがとうございます。
じっくりと読んで頂き、とても丁寧なご感想、大変嬉しく思います。
これからも読んで頂いた方に共感して頂ける様な作品が書ければと思います。
どうもありがとうございました。

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