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谷流鳩都さん

空想を文章やイラストにするのが好きです。考える事が好きです。

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「−1」の祝福

18/12/24 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:1件 谷流鳩都 閲覧数:66

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「504号室利用いただいた高林様、本日はおめでとうございます!!あなたに−1をプレゼントします!!良かったですね!!」
と大家から聞いた話の内容がさっぱり理解出来なかった俺は、とにかく時計と説明書を受け取り、54歳にして初めてのアパート暮らしが始まった。…3ヶ月前に母を亡くしたとも知らないで、あの大家はなんなんだ。しかも−1ってなんだよ。マイナスに良い意味を見いだせないと俺は思ったが、あの時計と説明書に目がいった。置時計か、こっちの説明書はっと、「1つ、未来に針は進みません。2つ、「+1」にはなれません。3つ、チャレンジは1度だけです。おまけ、お試しは1回、1分間戻る事が出来ます。」この、お試しってやつ、過去に戻れるって事なのか?…まあ暇だしな、お試しとやらをしてみるか。使い方はっと、「デジタルの分を1分戻して、決定ボタンを押せば完了です。」か。今は10時58分だから、10時57分に合わせてっとよし、決定!と押した瞬間、身体に電気が走りものすこい風の圧力を全身に感じた。そして、気づくと俺が大家と話しをしている所だった。え?え?俺が見えるどうなってんだ?本当に過去に戻ったのかよ。
「504号室利用いただいた高林様、本日はおめでとうございます!!あなたに−1をプレゼントします!!良かったですね!!」とまた聞いた。そして、俺がデジタル時計を操作している今に自然と戻れた。時を移動したのだ。本当に過去へ行った。俺はまた説明書を呼んだ。そこには読み忘れていた箇所があった。「なお、過去を振り替えるには、選択肢があります。@1秒A1分B1時間C1ヶ月D1年となります。注意点があります。過去のものは触れません。人とも話せません。つまり、過去に戻っても、場面を見るだけで何も出来ません。しかしあなたの記憶を鮮明に思い出させる事は出来ます。見たい場面、時の流れはあなた様自身で操作出来ます。」
なんだって。そうか、俺の記憶が頼りなのか。俺が一番振り返りたい、もう一度見たい過去、それが、見れるのか。一度きり…。よし、俺はやっぱり過去に行く。今から1年前に戻るぞ!頼む、うまく戻ってくれよ。
今は11時40分になったところか、これが本当なら、俺は、1年前の11時40分になっているはずだ。よし、セットしたぞ。大きく深呼吸した俺は、勢い良く決定ボタンを押した。そして、また身体全身に電気と突風を受けたように、俺の身体は過去へと行った。
すぐに時間を確認した。やはりちょうど1年前だ。ここは俺の家だ。母さん!と言って俺は母のいる部屋に行った。
「母さん、今日は冷えるから鍋にしよーな。」
うん、俺の声だ。母さんが生きてる。母さん、母さん。
そして、4月は母と外に出掛けた。
「母さん!とっても自然豊かでキレイだね!俺が車椅子ちゃんと押しているから心配しないでよ!寒くないかい?」
5月4日俺の誕生日だ。この時母は俺の誕生日を覚えてくれていた。
「健治、お誕生日おめでとう」
母の弱々しい声で、ゆっくりと俺を見て言ってくれたこの言葉。うん、覚えているよ、母さん。ありがとう。
そして、9月は母の誕生日だった。しかし、
「母さん!お誕生日おめでとう!どんな年にしたい?」
「…なんの事だい?誕生日?」
そう、自分の誕生日は忘れてしまっていたのだ。そして、10月26日がやって来た。
「母さん!俺ちょっとコンビニに行って来るからな。すぐ戻るよ!行ってきます。」
おい、行くなよ!待てよ!戻れよ!と俺は必死に過去の自分に言った。しかし、聞こえるはずはない。それが、あの時計の条件なのだから。
「おお!ひっさしぶりだなあ!勇人じゃん!俺の事覚えてるか?健治だよ!健治!」
「おわっ!お前健治か!おお覚えてるに決まってるだろ!」
おい、本気で早く帰ってくれ!母さんが…母さんが!!
「ただいま。母さんコンビニ行ったら小学校の友達会ったよ。ごめんなあ。ほらこれ、母さんが好きなヨーグルトだよ。母さん一緒に食べようぜ。ん?なあ母さん?どーした?まだ寝てるのか?」
母さんに近寄り冷たくなっていた事を知った。
「…母さん、母さん!!」
過去の俺は耐えきれず外へと飛び出してしまった。
「母さん、俺ずっとずっと言って来なかったね。ありがとうって。もっと言いたかった。母さん、ありがとう、ありがとう。俺を産んでくれて、俺を育ててくれて、ずっと見守っててくれ、本当にありがとう。母さん、俺はいつでも幸せだったよ。母さんが車椅子になっても、横になる時間が長くなっていても、会話がなくなっても、笑顔を見れなくなってても、俺は母さんの息子で本当に良かった。ありがとうー。」
と俺は結局過去に行って、この言葉を言った。俺は504号室の部屋にいた。母さん、俺また母さんに会えて良かったよ。−1の祝福かあー。過去を振り返るのもいいもんだね。


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このストーリーに関するコメント

19/01/03 入戸月づきし

拝読しました。
53歳にして小学校の頃の同級生を瞬時に思い出せる主人公の記憶力に脱帽しました。『過去を振り返るのもいいもんだね』という締めくくりにも確かに頷けます。
読ませていただいてありがとうございました。

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