1. トップページ
  2. 君のスマホになりたい!

南野モリコさん

長い休眠から覚め、再始動しました。 よろしくお願いします。 ツイッター https://twitter.com/hugo_6892

性別 女性
将来の夢 一生文章を書き続けること。
座右の銘 非凡な花を咲かせるには平凡な努力をしなくてはならない。

投稿済みの作品

1

君のスマホになりたい!

18/12/23 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:4件 南野モリコ 閲覧数:182

この作品を評価する

「メリー・クリスマス。今年もお世話になるよ」
「白石様、お待ちしておりました」
 ここは都心から数時間の好立地に作られたリゾート地のプチホテル。夏は避暑地として賑わうが、都会より早く冬がやってくるし、決して便利とは言えない環境であることからクリスマスとなるとひっそりとしてしまう。
 しかし、この土地をよく知る旅慣れた人たちには、子供連れも少なく、師走の週末をゆったりと過ごせる穴場スポットとして人気だった。冬の香りを胸いっぱいに吸い込みながら落ち葉が積もったしっとりとした枯木立の中をのんびり散策する。歩き疲れたら一杯ずつ丁寧に淹れたコーヒーを飲めるカフェもある。雑誌の見出しが謳う「大人のリゾート」なのだ。
 男は、生まれ育った村にあるこのホテルに10年勤めていた。彼はこのホテルでしか働いたことがない。静かに時が流れていると言えば聞こえがいいが、絶望的に同じことをただ毎日、繰り返すだけだ。
 ここを抜け出してどこかにあるであろう楽しく変化に富んだ、華やかな世界に行きたいと夢見た時代もあった。しかし、ある時からその思いは消えた。辞めたくない。できたら一生、ここで働きたいと男は強く思うようになった。それはこのホテルの504号室に「穴」を見付けたからだ。普段はベッドに隠れている直径3センチほどの丸い穴。それは、ある女の子の携帯電話に繋がっていたのだ。
 「穴」を見付けたのは偶然だった。一人ふざけて「穴」に耳を近付けると、まだ幼さの残る少女の声が聞こえるではないか。
「大丈夫、大丈夫。ありさやみきちゃんも一緒に行くから。男の子はいないよ。心配しないでよ」
 聞こえてきたのは高校生と思われる少女が、友達と遊びに行くことを母親に許しを得ている会話だった。
「なんだこれは!」
 他のスタッフは、この穴のことを知っているのか?しかし、このホテルで働いて10年。奇妙な噂があったら耳にしない筈がない。男は「穴」を自分だけの秘密にした。そして、隙をみては504号室に忍びこみ、「穴」から声がするか耳を当てた。
 声の主は、「山室ふみか」という東京に住む女子高校生であることが分かった。男は暇さえあれば504号室に用事を作り、「穴」に耳を当てた。男は「穴」で頭が一杯だった。ある日、恐る恐る目を当てて覗いてみると、「穴」の中は山室ふみかのメールや写真、動画、ネットの閲覧履歴で溢れていた。男は会ったこともない山室ふみかの全てを「穴」から見ることが出来たのだ。
 男は毎日、「穴」を覗いては、山室ふみかの日常を見守った。ブログを始めれば、自分の携帯から閲覧してコメントをし、「いいね!」を付けた。複数あるSNSのアカウントも全て把握していた。娯楽のない村で結婚する相手も見つけられない男には、ふみかの喜びは彼の喜びであり、ふみかの悲しみは彼にとっても悲しみだった。山室ふみかこそが彼の生きがいだったのだ。
 こうしている間に何年かが経ち、男はふみかが大人の女性になっていることに気が付いた。男はふみかに会いたくなり、休みをとって東京のふみかの職場近くまで行った。
 ふみかの昼食の時間は知っている。ふみかのオフィスがあるビルの前で待ち、男は初めて本物のふみかを見た。同僚たちと歩くふみかの背中を追って、昼時のオフィス街を歩いた。
「ふみか、クリスマスは何か予定あるの? もしかして白石さんと会ったりして」
ふみかは、しーっと指を立て、声を潜めて言った。
「実はね、イブの日にドライブに連れて行ってもらう予定なの。ちょっと遠くまで行くんだ」
「ドライブと言いながら、そのままお泊りデートになるんじゃないの?」
 隣のテーブルに座り、OLたちの会話に聞き耳を立てながら、男ははっとした。白石。毎年、クリスマスの時期にプチホテルに宿泊する常連客の夫婦が白石だ。
 男はホテルに戻り、12月24日の宿泊予定客を調べると、案の定、白石の名前があった。なんということだ。男は「穴」を覗いてみた。最近、頻繁にLINEしている相手は、このホテルの長年のお得意様だったのか。
「ふみか。その男はダメだ」
 ふみかのことは、10代の頃から何もかも知っている。強そうな振りをしていて、誰にも言えない心の悩みを日記に書いていることも、片思いしていたことも。いつも思ってもいないことを口にしては後悔している、複雑で弱い女の子なのだ。
 自分を愛して欲しいと思ったこともあった。彼女の幸せのために諦めたのに、更に年上の既婚者に美しい肉体を差し出すなんて。
12月24日がやってきた。夕方になれば、白石に連れられて、ふみかもロビーに姿を見せるのだろうか。客室に入った2人を「穴」からは見られない。ふみか、君には幸せになって欲しい。君に愛されなくてもいい。悩みがあった時に答えてあげられるように、僕は、君のスマホになりたい。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

18/12/30 霜月 秋旻

南野モリコさま、拝読しました。
主人公の境遇が少し自分に似ていたので、興味深く読ませていただきました。もっとも覗きの願望はありませんし、いけませんが(笑)
もう少し続きが読みたかったです。

18/12/31 南野モリコ

霜月秋介様

コメントをありがとうございます!
起承転で終わらせるのが私の癖なんです。
こういう作品が好きではあるのですが、結まで描き切れる実力がないから、というのが正直なところです。
もっと違うタイプの作品が書けるようになりたいです。

19/01/03 イト=サム・キニー

拝読しました。
『直径3センチほどの丸い穴。それは、ある女の子の携帯電話に繋がっていたのだ』という文章に想像が膨らみました。『穴』は具体的なかたちですが、それがどのようなかたちで『携帯電話に繋がっていた』のか。声が聞こえる。閲覧履歴が見える。メールも、写真も、動画も、穴からどう見えるんだろう、と思いました。VRゴーグルというよりは、バーチャルボーイのように見えるのかしら。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/03 南野モリコ

すみもてわたる様

はじめまして。コメントをありがとうございます。

504号室というテーマから、映画『マルコビッチの穴』を思い出し、頭の中が見える→スマホ、と膨らめていきました。
具体的にどう見えるか描写するより、『スマホに繋がっていた』というような表記の方が読む人の想像力掻き立てられるかなと思い、敢えてそうしました。
見知らる人の私生活を覗き見したい願望は、誰も少なからず持っているものだし、『穴』という言葉がなんかエロいですよね。

狙い通り表現できているといいのですが。

読んで頂き、ありがとうございました。

ログイン