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宮下 倖さん

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チーム4

18/12/23 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:4件 宮下 倖 閲覧数:139

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 十歳のころ、おれが住んでいたのは古いマンションだった。各階五部屋の五階建てで、うちは404号室だった。外壁が茶色で、遠くから見るとチョコレートみたいに見えたっけ。
 似たような歳の家族が多かったのだろう。同じ小学校に通う子どもがけっこういて、遊び相手には事欠かなかった。
 一階に住む大家のおばさんの意向で、たて割り清掃の日というのが週に一回あった。日曜日の朝にマンションの周囲を掃除するのだが、101、201、301、401、501号室でひとグループというように当番がたて割りで組まれていた。つまりおれの家は104、204、304、504号室の家族と同じグループで掃除にあたるわけで、だいたい一か月に一回の割合で当番が回ってくる。
 大家のおばさんは毎週参加していたようで、今思うと掃除が終わった後のおしゃべりなんかを通して住民同士の交流をはかったり、トラブルを未然に防ぐための情報収集をしていたんだろう。
 まあそんなことは大人になった今だから至る考えで、当時は早起きして掃除してそのままチーム4の仲間と遊ぶのが楽しみだった。
 たて割りで掃除をするうちにそのグループ内で子どもも仲良くなる。みんなで揃って遊ぶときは、そのグループ同士で鬼ごっこや陣取りをすることが多かった。それぞれ部屋の番号で呼んでいて、おれたちは4のつく部屋だから「チーム4」というわけだ。
 もちろん全部屋に子どもがいるわけじゃない。チーム4は三人だった。
 403号室のゆかりは五年生、おれと405号室の翼は四年生だ。ゆかりは足が速かったし、翼はサッカークラブ、おれは少年剣道を習っていて、どんな遊びでもチーム4は敵なしだった。
「大人になってもチーム4は不滅だからな!」
「えー何それ」
「貴洋は熱いなあ。ずっとここに住むわけじゃないじゃん。いつかばらばらになるよ」
「じゃあ、家が変わってもおれは404号室を選ぶ! ふたりも403と405を選んで住んだらまた一緒になるかもしんないだろ?」
「翼ー、貴洋が面倒くさい」
「あははは」
 盛り上がってたのはおれだけかもしれないけれど楽しかった。
 なんとなく翼の様子が変だと気づいたのは秋の遠足が終わったあたりだった。ちゃんと思い返せば、翼の家がたて割り清掃に参加しなくなったとか、放課後あんまり一緒に遊ばなくなったとか、秋の遠足の翼の弁当が菓子パンひとつだったとか、変だなと感じることはけっこうあった。
 翼のお母さんは夜の時間に働いていると聞いたことがあったけど、遊びに行くと手作りのドーナツをくれたりゲームの話につき合ってくれたりする明るくておもしろい人だった。
 そのお母さんが腕や脚に痣をつくっているのを見るようになったのもこの頃だ。挨拶すると笑顔で手を振ってくれたけどどこか弱々しかった。
 たまに上階から大きな物音がすることが増え、初めは「翼くん元気ねえ」と笑っていたうちの両親も顔を曇らせるようになった。
「ねえ貴洋。翼んとこちょっとへんじゃない?」
「うん」
「最近、ちょっと怖い男の人が翼の家に入ってくんだよね」
「おれも見た」
「うちの親も大家さんも気をつけなきゃって言ってる」
 ゆかりはそう言って何度もため息をついた。
「明日翼のうちに行こう。翼に困ってることがあったら助けよう。おれたちチームなんだから」
 おれの言葉にゆかりが頷く。明日は土曜日だ。早起きして翼の家に行こう。
 そんな決心をした、その日の夜だった。
 なにかの爆発かと思うようなすさまじい音が上から降ってきた。同時に鳥肌が立つような長い悲鳴。男か女かもわからないその声に、寝る支度をしていたおれは身を縮めた。
 翼の家だ。絶対そうだ。なにかあったんだ。翼は大丈夫なんだろうか。
 すぐに救急車の音とパトカーのサイレンが近づいてきた。その夜は朝までマンション中が落ちつかず、おれも眠ることはできなかった。
 その後いろんな噂が飛び交っていたが、おれにとっての辛い現実は翼がいなくなったということだった。504号室に人けはなく、マンション全体がくすんだように思えた。
 あれからずっと、大人になった今も悔やんでいる。翼の異変に気づいたときすぐに話を聞けばよかった。なにかできたかもしれないのに。友だちなのに、チームだったのに。
 こんな昔のことを思い出したのは、仕事の関係で一度去ったこの街にまた戻ってくることになったからで、今は不動産屋で分厚い物件ファイルをめくっているところだ。
「ここなんていかがです? 駅近で陽当たりもいいですよ」
「ああ、いいですね。……404号室って空いてます?」
「そういうの流行ってるんですか?」
「え?」
「いや、この間もね504号室空いてるかって訊くお客さんがいたもんですから」
 初老の店員は眼鏡を直し「404、空いてますよ」と笑った。


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このストーリーに関するコメント

18/12/26 文月めぐ

拝読いたしました。
チーム4の絆は大人になっても生きていたんですね。
エンディングは明るい未来を想像させてくれました。

19/01/03 イト=サム・キニー

拝読しました。
マンションの部屋番号で班を割り振るという設定になるほどと感心しました。コンテストテーマに真摯に取り組まれた姿勢が素晴らしいと思います。
一方で、『おれの家は104、204、304、504号室の家族と同じグループで掃除にあたる』、『おれたちは4のつく部屋だから「チーム4」』とあるにも関わらず、『403号室のゆかりは五年生、おれと405号室の翼は四年生だ』、『家が変わってもおれは404号室を選ぶ! ふたりも403と405を選んで住んだらまた一緒になるかも』という箇所が理解できませんでした。主人公は縦割りではなく、同じ階の住民とかつては交流していたが、今では縦割りの部屋配置に再会の気配を感じている、ということでしょうか。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/03 宮下 倖

文月めぐさま
同じマンションに住む子どもたちのささやかだけどあたたかい絆を描きたかったので、お言葉本当に嬉しいです。
読んでいただけて、またコメントもくださりありがとうございました!

19/01/03 宮下 倖

すみもてわたるさま
大変申し訳ありません。わたしの単純な入力ミスです。ご指摘いただいて「あ!」となりました。
縦割りグループの絆を描きたかったので、ゆかりは「304号室」、翼は「504号室」です。

<304号室のゆかりは五年生、おれと504号室の翼は四年生だ。>
<家が変わってもおれは404号室を選ぶ! ふたりも304と504を選んで住んだらまた一緒になるかもしんないだろ?>

こちらが正解になります。
混乱させてしまい申し訳ありません。また、丁寧に指摘していただき助かりました。本当にありがとうございました!

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