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松定 鴨汀さん

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まだ駄目だ

12/04/16 コンテスト(テーマ):第四回 時空モノガタリ文学賞【 傘 】 コメント:2件 松定 鴨汀 閲覧数:3206

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雨の夜の帰り道。
きみは一人ではない。
きみの傍にはたくましい男性が並んで歩いている。
きみはその男性の手をにぎり、そのぬくもりを感じでいる。

だが、駄目だ。まだ安心してはいけない。

きみのカーディガンの袖は2人分の傘からしたたる雨水をぴとりぴとりと吸い込んで、変色している。
しかし、彼はまだ気づかない。
会社であったこと、将来の夢、昨日見たテレビ、そんなことをしゃべるのに夢中で、きみの手が冷えていることにも気づかない。
こんな彼で、ゆくゆく大丈夫だろうか?
きみは疑う。
まだ出会って日は浅く、付き合っているうちにも入らない食事を軽く数回。
そんなかんじの関係。
純粋な人だとは思う。
ただ、気がまわらない、子供っぽい、など、いくつか恋人にするには難ありなところがある。
こんな彼と、これからも会ってていいのだろうか?
「うちどこ? 送ってあげようか?」
彼がふいにそう言った。
送り狼になるかもしれない。
きみは反射的に彼をふりほどく。
彼は驚いたようだった。
きみは謝る。考え事をしていたのだ、大丈夫、一人で帰れる、と。
彼はわかった、と快く許してくれた。

だが、駄目だ。まだ安心してはいけない。

ふりほどいた手をつなげないまま、彼の家まで来た。
「じゃあ、またね」
きみは彼の背中に声をかけた。
すると4歩ほど離れてた彼が、急にきみに振りむいた。
「ねえ、雨、ひどくなってるし、泊まっていかない?」
予期せぬ言葉に詰まるきみ。
この男に対する不信感がぐんと増す。
「......できるわけないじゃん。付き合ってもいないのに」
きみは不快感もあらわに、傘をわざと深く持ちなおした。
「あー、そんなつもりで言ったわけじゃないのにな〜」
だから、彼の本当に困ったような顔を、きみは見ることができなかった。

「じゃあ、気をつけてね」
その言葉と、彼の家のドアが閉まる音をきいてから、きみは一人で歩き出す。
彼がドアを閉めるとき、どんなに心配そうにきみを見てたか、きみは知らない。
あんな男だと、付き合う前に気づいてよかった、とほっとしながらきみは歩いていく。
だが、駄目だ。まだ安心してはいけない。
ここからきみは一人きり。
本当に気をつけなくてはいけないのはこれからなのに。
きみの傘の上ではねる雨だれは、後ろからつけてくる足音をかき消す。
彼に対する怒りを反芻しているきみは、不気味な気配に気づかない。
深く深く傘を持ってるきみには、そばによってきた足すら見えない。
激しくなる雨音に、きみの一瞬の叫びはかき消された。

もう、駄目だ。まだ安心してはいけなかったんだ。


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このストーリーに関するコメント

12/04/16 かめかめ

素敵な絵…。

12/04/18 松定 鴨汀

かめかめさん、コメントありがとうございます。

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